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特別

「ぐあぁぁぁ」

 最寄りの駅に着いて体を大きく伸ばす。この時に人間じゃない声が出るのはどの人間も一緒だと思ってる。

 どんなに気分が落ち込んでも時間とは無常で、仕事とは冷淡なので、仕事をしないといけない。

 今日も乗らない気分を無理矢理海晴に起こされて、1日の業務を終わらせて、やっと最寄り駅に到着した。そりゃ伸びのひとつして人間ならざる声が出るのも許して欲しい。

 誰に許可を求めてるんだ、と自分で自分にツッコみながら家に向かって歩く。

 今日は海晴も仕事。私も気になって何の仕事してるのか聞いてみると、個人経営の飲食店で働いてるとのことだった。ほぼフルタイムで週5回。

 仕事してる時間は私とほとんど変わらない。

 それなのに私の家のことを全部やってもらうのは申し訳ないと、家事を多少分担することになった。

 本当は海晴が嫌がだったのだが、こればっかりは私も譲れなかった。

 今日の私の家事は家の掃除。今朝ゴミ出しと床掃除は終わらせたので、帰ったらお風呂掃除をするだけ。

 海晴は食事当番。それに心を躍らせる。まさしく胃袋を掴まれるとはこのこと。

 飲食店で働いてるのも納得するくらい、海晴の料理は美味しかった。

 帰るのが楽しみになってルンルンで歩いていると、目の前に見知った後ろ姿が見えた。

 たまたま帰りの時間が一緒だったのか、と声を掛けようとしてストップした。海晴の隣には女の子がいる。

 頭を殴られた感覚というのはこんな感じか。なんて妙に冷静に自分を分析してる。

 海晴の隣にいる女の子は高校生か大学生くらいに見える。髪の毛をひとつに纏めて、かわいらしい顔で海晴と笑っている。先輩の笑顔には劣るがすごく良い笑顔で笑う子だ。

 ここで先輩が出てきてしまうくらいには自分も惚れてるんだと改めて実感する。

 叶わないんだからさっさと諦めてしまえば良いものを、諦められないんだから恋愛とは厄介なものだ。

 真っ直ぐ進めば私の家。その途中で女の子は右に曲がっていった。お互い手を振り振りして別れた。

 その様子はまるで一般的カップル。

「え~、早峰さんはそうかもしれないけどお相手さんがどうかは分からないじゃん」

 脳裏の先輩が浮かんでは消える。

 海晴の幸せになる道を閉ざしてるのは自分なんじゃないか。

 ここ最近海晴といる時間だけは落ち込まなくなった。あれだけあった希死念慮も海晴が居ればほとんど思う事がなくなった。

 海晴といると私は小さい事も幸せだと思える。ご飯が美味しい。ゆっくり寝られる。お風呂に入る。毎日仕事に行ってる。帰る家がある。生きてる。全部が幸せだと思える。

 それは全部海晴が私に与えてくれたもの。

 じゃあ、私は?

 私は海晴に何をあげられているのだろう。

 考えても考えても出てこない。

 よっぽどさっきの女の子の方が海晴を笑顔にしていた。楽しそうだった。幸せそうだった。

 私が海晴の幸せを邪魔しているようにしか見えない。私が居なければ、海晴は普通に結婚して普通に子供を持って、普通の幸せな家庭を築くのだろう。

 きっと海晴の両親もそれを望んでる事だろう。

 なんと言っても旦那さんが奥さんにペリドットを渡すくらいだ。幸せな家庭だったのだろう。

 海晴も家族の話をすると悲しそうな複雑な顔をするけど、話題を避ける事はしない。ということはなにかあったのだろうけど、嫌いということは無いのだろう。

 私はどれだけ人の幸せを奪えば気が済むのだろう。

 閉まっていた携帯を取り出して数日前に届いた連絡を見る。

 そこには自分の母親から「GWは帰ってくるの?」という文字と心配している、というスタンプ。

 気が付けば、海晴と出会った時はあんなに寒かったのに温かくなってきた。

 自分の両親は良い親だと思う。それなりにちゃんと怒られたし、ちゃんと伝わるように愛情を注いでくれた。恵まれた環境なのは分かっている。

 あんまり好きじゃないし、ウザイと思うことの方が多いし、3年に1回くらいしか帰らないけど。

 「なっちゃん?」

 気が付けば自分の家のエレベーターホールまで来て海晴に追いついていたらしい。

「帰ってくるタイミング一緒だったんだねぇ」

 ニコニコと海晴が言う。

「タイミングちょっとずらせば良かったかもね」

「ん?なんで?おれなっちゃんと一緒に帰れて嬉しいよ」

 エレベーターだけだけど〜なんて呑気に言っている。無性にイラついたけど海晴は何も悪くないので黙る。自分の心に余裕がないだけ。それを他人にぶつけるのは間違い。

「随分可愛い子と帰ってたじゃない?」

 心の余裕の無さを必死に隠して揶揄い調子に言えば、海晴はキョトンとした顔を浮かべた後に納得したような顔をした。

「あぁ、一緒に働いてる子だよ。オーナーの娘さん。まだ高校生。可愛いよね」

 ということは17才くらいだろうか。

「いいじゃん、好きなの?」

 聞きたいような聞きたくないような。もし本当に海晴が彼女を好きなら海晴の前から消えよう、そう思って半分祈りのように聞いた。

「え?ないない、ほぼ10才年下だよ?それに高校生に手を出したら犯罪者になっちゃう」

「海晴っていくつ?」

「25だよ。なっちゃんは?」

「22」

「若ぁ…いいなぁ」

「対して変わらないでしょ」

「いや!変わる!若いから分からないんだよ」

「そういうもん?」

「そういうもん!」

「変わんないよ」

「変わるんですぅ」

 小競り合いとも取れないような言い争いをしていれば玄関に到着。ちゃちゃっとご飯作るから待っててと言う海晴に、じゃあお風呂掃除してくると返事する。

 やっぱり海晴と話をしていると心のモヤが晴れていく。

 だけど、1人になった途端さっき見た光景が浮かんでは消える。羨ましいと思った。自分がもし、例えば、可能性は無いに等しいけど、先輩と付き合ってたとして。ああやって堂々と外を歩けるだろうか。普通のカップルと変わらずにデートが出来るだろうか。

 答えは否だ。

 周囲の目線が気になって、手はおろか普通に出掛ける事も難しかった。

 過去の恋人たちにも散々「気にしすぎ」だと言われた。

 もっともな意見だと思う。周りの視線とか意見とか気にしないで生きられたら、どれほど生きやすくなるんだろうか。海晴が居なくても死にたいって思わずに生きられるんだろうか。1人でちゃんと生きられるようになるんだろうか。

 分からない。

 いや、きっとそうなのだろうけど、私には気にしない生き方が分からない。ずっとそうやって生きてきたのだ。今更変えろなんて無理だ。

 そうなると一生変わらないままだ。 

 ゾクッとした。私は一生このままなのだろうか。ずっと1人で、ずっと生きにくくて。

 少し前まではそれでいい、なんて思っていたのに今では怖いと思っている。1人で生きるのが怖い、このままでいるのが怖い。

 自分はどうしたいのか、何がしたいのか、怖くてたまらなくなった。

 あぁ、このまま死んでしまえば…

「なっちゃん?」

 ふと後ろから声を掛けられて反射で振り返る。

「すごい勢いで振り返るじゃん」

 ニコニコとしながらお風呂の入り口に海晴が立っている。

「ご飯できて呼んでるのに返事がないから、頭でも打ったのかと思ったよ」

「あ、あぁ、ごめん。考え事してた」

 早くおいで~といいながら海晴は部屋に戻っていった。

 思わずため息が漏れる。時折海晴にはエスパーがついてるんじゃないかと疑う時がある。それくらいタイミングよく、自分の思考が落ちそうな時に声を掛けてくるのだ。

「ごめん、お待たせ」

「だいじょうぶだよ~」

 ローテーブルにはいつも通り色とりどりの料理が並ぶ。

「この短時間で作ったの?」

「いや、今日仕事行く前に仕込んでた物ばっかりだからお皿に並べただけだよ」

 それでもこれほどの料理が作れるのは相変わらずすごい。手を合わせてありがたく頂戴する。

「うまぁ」

「ホント?良かった」

 海晴が料理するようになってから家の冷蔵庫が色どりゆたかになった。今まではほとんど何も入っておらずコンビニ弁当が時折入っているだけだった。

「おかわりあるよ」

「あ、食べる!」

 あと、よく食べるようになった。白米はおかわりするのが常だった。だって海晴の料理は全部美味しい。

 これでも太らないのは食事の栄養バランスがちゃんとしている証拠だろう。

 まただ。

 また、私1人で食事している。

 海晴が食事を口にしている所はほとんど見たことがない。

「海晴、ご飯食べないの?」

「あ、今日賄い食べたんだよね」

 ウソだ。直感でそう思う。

 この会話を何回しただろうか。まぁ、飲食店で働いてるならそんなこともあるか、と最初は特に気に留めなかった。だけど、何度も続くこの会話にさすがの私も海晴がウソをついている事は分かった。

 海晴も私が海晴のウソを見抜いている事に気が付いてる。それでも原因を言わないということは、そういうことなのだ。

 だったら私も特に言及することはない。そうやって私たちの関係は成り立っている。

「なっちゃん」

「ん?」

 口いっぱいに白米を詰め込んでいたら声を掛けられた。変なタイミングで話しかけられてちょっと気まずい。

「今度、どっかお出かけしない?」

 私が持っていた箸がテーブルに転がる音が響く。慌てて口の中の白米を飲み込むも、急ぎ過ぎて喉に詰まりかける。海晴も慌てて私に水を差し出す。

「な、なんで?」

 白米を何とか飲み込んでようやく聞く。

 海晴と一緒に住み始めて約4ヶ月、そんな話は一切なかった。

「日頃のお礼って思って?ようやくお金も安定し始めたし、指輪のお礼とか、ここに置いてもらってるお礼とか、ちゃんとしたことなかったなって思って」

 そんなに驚くと思わなかった、なんてまたニコニコしながら言う。

「え、もうすでにお礼もらってるんだけど…」

「え?」

「ご飯も、起こしてもらうのも、お弁当だって。全部めちゃくちゃありがたくて、むしろ私がお礼しなきゃなんだけど?」

「え、おれ何もできてないよ。お礼させて」

「ううん、むしろこちらこそってば」

「いや、でも」

「いやいや」

 結局お互い一歩も引かない。頑固者同士はこうなるとめんどくさい。よくわからん喧嘩にもつれ込む。

「ちがう!おれの方がお世話になってるの!」

「何言ってるの!私の方が何もしてない!」

「なっちゃんは毎日お仕事してるでしょ!」

「海晴だって毎日仕事してるじゃん!」

「おれの方は毎日じゃないもん」

「でもほとんど毎日でしょ!私だって毎日じゃなくて休みなんかダラダラしてるだけだもん!」

「なっちゃんは毎日生きてるだけで良いの!」

「そんなこと言ったら海晴だって毎日生きててえらいじゃん!」

「なっちゃんも毎日えらいよ!」

「ありがとう!」

「おれもありがとう!」

「「…ん?」」

 何か方向が間違っていることにお互いが気が付く。こんなことを言い争っていた訳ではない。何を言い争っていたのか、最初が何だったのか、ヒートアップし過ぎて忘れてしまった。

 海晴も同じ気持ちなのか首を傾げている。

 2人して首を傾げて、なんだか可笑しくなってしまった。

「まぁいいや、お出かけだっけ?行こうか」

 次のお互い休みの日を合わせて、近くのショッピングモールに行く予定を立てた。

 よくよく考えてみれば休みの日にどこかに出掛けること自体が久しい行為だった。ちょっとワクワクする。


「もしもし」

「あぁ、夏希。どう?ご飯食べてる?」

「うん、問題ないよ」

 母親から連絡が合ったことをすっかり忘れてしばらく過ごすと、生きてるのか確認の連絡が来るようになった。もはやいつもの事。

「で、GW帰ってくるの?」

「いや…」

「そろそろ帰って来たらどうなの?」

「あ~、まぁ、そうだね」

「こっちから連絡しないと連絡ないし、やっぱり都会になんて出すんじゃなかったかしら」

 たまったもんじゃない。

 私の地元は、なにかあるとすぐに近所のおばちゃんが知ってるような、そんな田舎。学校の成績も筒抜け。習い事も筒抜け。人間関係も筒抜け。いつ帰ってくるのかも筒抜け。

 1番ビックリしたのは、学校から帰ると近所のおばちゃんが家に勝手に上がって私の部屋で、隠してたテストを見つけてた時。あの時のおばちゃんの「あら、夏希ちゃんおかえり」の言葉を鮮明に思い出せる。

 息苦しいったりゃありゃしない。人のプライバシーって言葉が脳内の辞書にない人たちに囲まれて過ごすのは苦痛だった。中学で自分の性的指向がバレた時、1番心配したのは近所に知れ渡ることだった。そのまま両親にバレるんじゃないかって毎日おびえてた。

 実際はバレた相手が周辺に住んでおらず、少し都会の方に住んでいたおかげでバレずにすんだらしい。

「で、都会に染まったあんたはいい相手でも見つけたの?お向かいに住んでた、俊くん双子が生まれたそうよ。早くに結婚してたものね。あと、あんたの同級生だった葵ちゃん。あの子も出産のために帰ってきたらしいわよ。周りは子供産んでるってのにあんたは何で結婚もしてないんだか…あ、お見合いでも探してあげるわ。前に…」

 こうなることが目に見えていたから連絡をしてないのだ。なんで分かってくれないんだろうか。

 そもそも、私の年齢で結婚して子供がいる方が珍しいことに、この親は気が付いていない。これが田舎で育ってしまった弊害か、とため息が出る。自分の視野の狭さにそろそろ気が付いて欲しい。

 母親からの小言を聞き流していると、玄関が開く音がする。海晴が仕事から帰ってきた。

 海晴は私が電話していることに気が付いたのか部屋にぴょこっと顔を出して、口パクで「大丈夫?」と聞いてくる。

 どうせこうなるとお母さんはかなり長くなるので電話をミュートにして、海晴に「大丈夫、おかえり」と伝える。

「あれ?いいの?」

「うるさいからミュートにした」

「なっちゃんのお母さん?挨拶しないと」

「いや、いい。余計な事教えると近所で変な噂が回るし、余計に帰りにくくなる」

「変な噂?」

「そ、あそこんちの子が男連れ込んでるらしいわよ!そろそろ結婚かしら!とかね。こっちの指向なんて関係なしに色々言うんだから、ホント、だるい」

 深くため息を吐いた時に母親が「夏希、聞いてんの!?」と言うから適当に「ハイハイ、聞いてる」と返す。そうするとまた、小言が始まる。幼少期の話まで出て説教されるんだから、そろそろ切ってやろうかと思い始めてきた。

「指向?指向って何?」

 海晴の言葉に固まる。

 余計な事を言ってしまった。これもいまだに電話口でビービー言ってる母親のせいだ。

「あ、えっと…」

 言葉に困っていると海晴は少し諦めたように

「これ、聞かない方が良かったね。なっちゃんの地元はどんなところ?」

 と、聞いてくれる。お互い踏み込んだことを聞かない。なんとなく2人の間に流れる暗黙の了解。それを海晴は守っただけ。なのになぜだか心がチクリとした。なぜか聞いて欲しいと思った。

「私さ」

 海晴に聞いて欲しくて口を開いた途端

「夏希!あんた聞いてないでしょ!!」

 タイミング悪くお母さんの怒りの鉄拳を含んだ声が届く。こうなると余計に面倒くさい。仕方なく私はミュートを解除して、ベランダでお母さんのお叱りを受ける。

 視線を部屋に擦れば海晴がゴミを纏めているのが見える。

 海晴の事を言えばお母さんは黙るだろうか。そんな考えがよぎった。

 世の中の同性愛者の中には、同性愛者同士で結婚するということがある。つまりは偽装結婚。結婚をしていると世間はいろいろと優しいのだ。それをするのもひとつの手かもしれないと思ったが、そもそも同性愛者の男を見たことがないので、断念した。

 そういったコミュニティに行けば見つかるのかもしれないが、そこから結婚してもいいと思える人に巡り合うまでの道のりを考えると、腰が重くて重くてたまらない。

 もういっそのこと海晴がその相手になってくれればいいのだが、何と言っても海晴は同性愛者ではない、と思う。聞いてないから何とも言えないが。

「あのね、夏希。お母さん心配してるのよ?」

「うん、それは分かってるよ」

「はぁ、やっぱり都会に行かせないで高校卒業したらお見合いさせるべきだったわ…」

「…お母さんは私の幸せを願ってるんだよね?」

「もちろんよ」

「じゃあ、もう何も言わないで。ほっといて」

 携帯から耳を離すとそのまま電話を切った。キャンキャンとなにか言っていたような気がするけど無視した。切ってすぐにまた電話が掛かってくる。切れてまた掛かってくる。切れてまた掛かってくる。

 私は携帯の電源を切った。

 部屋にもどり、ベッドに倒れ込んだ。なんで自分の母親と話しているのにこんなに疲れるのだろうか。

 そして、こんなに面倒くさい、ウザイと思っているのに無視することが出来ない。それは結局自分が両親に感謝しているからだと思う。どんなにウザくても、どんなに面倒くさくてもそこには家族への変わらない愛が存在する。

 だからこそ、無下にすることも出来ずに中途半端に関わり続けている。いつかは向き合う日が来るのだろうけど、今はそれどころじゃなかった。

「なっちゃん、大丈夫?」

 さっきまでゴミ捨てに行っていたのかいなかった海晴が気が付いたら戻ってきていた。

「ん、大丈夫だよ」

「なっちゃん、おれなっちゃんが言いたかったことなんとなく分かったよ」

 自分が生唾を呑み込んだ音がやけに大きく聞こえた。何を言われるだろうか。

「なっちゃんはなっちゃん。でしょ?」

「え」

 思わず海晴の顔を見る。

「ん?違う?」

 海晴は首を傾げながら「合ってると思ったんだけどなぁ」と能天気に言っている。いや、合ってる。合いすぎてビックリしているのだ。核心的な事は言われていないから、合っているのか分からないけど、でもきっと海晴が言いたいことは私が聞いて欲しかったこと。

「いや、多分あってる」

「そっか、よかったぁ。なっちゃんはなっちゃんだから良いんだよ」

 海晴の薄い手のひらが頭の上に乗る。その行動が無意識だったのか、ハッとしてすぐに手のひらを退けた。「ごめん、やだよね」としょんぼりしているので、私は海晴の手を取って自分の頭の上に乗せた。

「特別に撫でさせてやろう」

 自分でも恥ずかしい事をしているのは重々承知だった。だけど、海晴の顔がパッと明るくなったのを見て、まぁいっかと思った。

「やじゃない?」

「海晴は特別」

「そっかぁ」

 海晴の顔が緩んでるのは見なかったことにしておこう。


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