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運命

「おねーさん、おれのこと拾わない?」

 今年一の寒波が東京を襲い、珍しく雪が降り地面を薄っすら白く染め始めたころ。暗くてよく見えていなかったが人がしゃがんでいたらしい。こんなに寒いのに、なにをしてるんだろう、それが感想。バカな人もいるもんだ。

「ねぇ、無視しないでよ」

「え?」

 しゃがんでいた人が私の方を見上げながらまた話しかけている。大きいくりくりとした目にふわふわの髪の毛。でも、どこかボサボサでどこか光がない。

「おれ寒くて死んじゃう」

 でしょうね。なにを言ってるんだろう。

「だから拾ってよ」

 だからに繋がるのもおかしい。でもどこか心でこれが最後のチャンスだ、そう思った。

「拾う、ね」

 自分のことを石と同等の動詞を使うなんて。皮肉にも自分だって「拾う」に振り回されてる人間で、「拾う」に命を繋がれてる人間に違いないはずなのに。

 ただ自分の「拾う」能力が無さ過ぎていま前も見えないくらい涙で世界が滲んでいたのだ。

「拾う、やだった?じゃあ、おれのこと飼ってよ」

 もっと良くない。最近愛犬を亡くしたのだ。時折思い出してあのふわふわをもう一度撫でたい、そう思うのだ。もう叶わないのに。でも、手の感触は小さい頭を覚えている。また、世界が滲む。あぁ、大人のくせに情けない。

「う〜ん飼うもやだったか。じゃあ、おれのこと助けてよ」

 助けて欲しいのはこっちの方だ。仕事が上手くいかなくて、愛犬も亡くして、自分を明日も生かしておくので手いっぱいなのだ。誰かを助けられるほど、自分に余裕はない。

「助けてもだめ?う~ん…」

 いよいよ彼も頭を抱えてしまった。そもそも何故私なのか。何故私は律儀に彼の言葉を待っているのか。分からなかった。

「あ、じゃあ、おれにおねーさんを助けさせてよ」

 全身サァっとなにかが引いていく感覚がした。それがなにかは分からなかった。けど、彼が立ち上がって私の顔を覗き込んで「ダメ?」と尋ねられて「ダメ」とは返せなかった。むしろ「いいよ」と返したのだ。どこにそんな余裕があるんだ。

 彼は私の隣にやってきて「やった、寒いから早く行こう」なんて私の腕を引っ張った。もうどうにでもなれ。きっと思考回路が弱っていたのは自分が辛いからじゃなくて、今年一の寒波のせいだ。そう思う事にしよう。

「待って、そっちじゃない」

 今度は私が彼の腕を引いて歩き出した。

 この出会いが私の人生を変えることになるとは、この時はまだ気が付いていなかった。



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