1話
2月上旬の23時を少し過ぎた頃、
温かみの無い蛍光灯で照らされた事務所。
デスクの上は積まれた書類とパソコンが置いてあり、
一人で黙々とキーボードを打ち込んでいる。
一日の報告書を仕上げているところだった。
同僚達は明日の業務に備えて少し前に全員帰宅した。
効果も無さそうなエナジードリンクを片手に、
自分も明日に備えて早く帰宅しようと考えていた。
藍田 紬
デスクにある自分の名刺と入社時の写真を見ながら、
時を戻せたらとよくある現実逃避をする。
携帯を見ると、友人からの連絡がきており、
当たり障りのない文章で適当に返事をした。
報告書を提出して最後に事務所の戸締りを行い、
いつもと同じ帰り道を歩いている時、
先程の友人から着信があった。
渋谷 蓮
「仕事お疲れー。次の紬の休みに有給合わせるから、
どこか美味い飯でも食いに行こうや。
どうせ休みの日もやること無くて仕事するんだろ?
たまには俺らにも時間使え。
真奈美もお前が仕事しすぎて過労死しないか心配してるぞ。」
蓮は幼稚園からの幼なじみで、
家が近く母親同士が先に仲良くなった為、
小学生までは放課後や習い事のサッカーなどを一緒にした。
中学に入ってから紬はサッカークラブに通い、
蓮はヤンキー漫画に憧れて喧嘩やバイクにはまり、
少しずつ話す回数が減っていき、
別の高校に進学してからは連絡を取ることも無くなっていた。
それでもお互い大人になってから、
どこかのタイミングからいつの間にか休日に
一緒に出掛ける事が多くなっていた。
連が電話で名前を出した女性
野島真奈美
真奈美は小学生からの幼なじみで、
よく真奈美の家で3人集まって遊んでいた。
紬と真奈美は書道を一緒に習っていて、
毎年2人で夏休みのコンクールを受賞をしていた。
藍田 紬
「ご丁寧にどうもありがと。
おれは水曜日ならいつでも大丈夫だから、
2人がもし有給とってくれるなら車出すよ。
さっき仕事中に昔の思い出に浸ってたから久々に
思い出の地でも回ろうよ。」
渋谷 蓮
「考えてることおじいちゃんかよ。
まあ久々だし適当に車で回るか。
真奈美と予定決まったら連絡するわ。またなー。」
些細な楽しみが出来たことで、
少しだけ一日の疲れが取れた気がした。
そんなこんなで気がつけば自宅のアパートにつき、
疲労と汚れをシャワーで洗い流して、
明日の仕事のスケジュールを考えながら眠りについた。