1-7.アルカナ教会-能力テスト-
私はとある部屋の前でずっと待っている。
かれこれ一時間になる...待ち合わせの場所と時間を決めておくべきだった。
大体、なぜ私が一人でやることになっているんだ。
くそ...イレブンがパトロールじゃなかったら...
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「これからお前とチームになるかもしれねぇんだし、お前が能力テスト手伝ってやれよ。」
「なんで私だけなのよ!こういうのは皆でやるものでしょ!」
「いや俺もそうしたいんだけどよ、他の連中がぱっぱらぱーだからな、俺はその日パトロールでいけないし、頼むわ」
......................
という感じで頼まれてしまった。
まあ確かに他の連中がぱっぱらぱーなのは認めるが、昨日5階建ての病院のはるか上で飛んでいる天使に気づかれないようにその天使よりもさらに高く飛んで、飛び降りながら頭を確実に狙うというめちゃくちゃ大変な事をした人にこれはないんじゃないだろうか?
...昔お父さんが『会社から労災が下りない...』と愚痴っていた気持ちがわかった気がする。
「すまない、待たせた...って美波か」
私はロストの顔を見る。不満そうな顔をしていると思ったが無表情だ。
「私だとなんか都合悪いの?」
「いや、司祭のほうが来ると思った」
「司祭様ね」
そんなどうでもいいことを話しながら、私は歩き出す。
だが、ロストは動かなかった。
顔は無表情から困り顔に変わっている。
「なによ」
「行く場所を聞いていない。能力のテストをやるためにどこに行くんだ」
ああそうか、加奈はまだ教えてなかったのか。
「ここから少し歩いたところにある小学校のグラウンドにね」
私は再度歩き出す。今度はロストは困り顔をしながらだがついてきた。
「能力を図る用の機械はないのか?」
「馬鹿ね、そんなの作る金があるならここら一体の治安維持に使うわ」
「なるほど」
私たちは廊下を歩く。
「天使の時はごめんなさいね。昔あったやつを思い出しちゃって」
「どんなやつだ」
「助けてもらった礼を要求してきたやつがいたのよ」
思い出しただけで反吐が出る。
まあ、礼はせずにぼこぼこにしてやったんだが
「そうか」
「あんたは何か欲しくないの?礼」
ロストは少し考えた後、
「礼は今貰っている。飯を食わせてもらって、寝床を用意してもらっている。それで十分だ、それに礼が欲しくて人を助ける事なんてしない」
「そっ」
私たちは廊下をひたすら無言で歩く。
この男は正直、普通じゃない。
タロットカードに選ばれるのは、子供みたいなやつや、何かに執着している大人だけだった。
あの司祭様ですら、野望を抱いているのに、こいつにはまるでそれがない。
ただ、だれかを救いたいと願うだけの子供みたいだ。
「ねえ、あんたタロットカードはどこで手に入れたの?」
「生まれたときから持っていた」
ロストは無表情で答える。
私は少し力が抜けてしまう。
「生まれたときからって...あんた何歳よ」
ロストは少し考えて、うなずいてから
「22だ」
と答えた。驚いた
「結構いい歳行ってんのね」
「そういう美波は何歳なんだ」
「私は18よ、てか女性に年齢を聞くのは失礼にあたるのよ、次から気をつけなさい」
「わかった、気を付ける」
それからは会話はなかった。ただ歩いてグラウンドに到着した。
「ここか」
ロストが小学校の前で立ち止まる。そう思うと一粒涙を流した。
「...ここに通ってたの?」
「まさか、ただここで沢山の命が散るところをみた」
彼と共にグラウンドへ移動する。
「えっと、これからやるテストは、あんたの二つの盾のテスト、そしてあんたの体の吸収能力ね」
私はグラウンドの真ん中に立つ。
「ここに移動して、テストさっさと終わらせるわよ」
彼は中央に移動すると、腕をかざし、黒い姿に変身する。
「ちょっと待って、変身するときカードをかざさないの?」
「ああ」
「ほんと、あんた規格外なのね」
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私はタブレットでメモを取る。
「盾二つは最初に言っていた性質と同じね」
「だからそういっているだろう」
「攻撃力E、近距離の防御力C、遠距離の防御力S、スピードC、持久力S...見事に偏ってるわね」
「偏ってるのか?」
私はロストの言葉を無視して石を拾う。
「あとは体の吸収能力、ね!」
私は不意打ちで石を投げてみた。
だが、黒い鎧にあたり、吸収されずに地面に転がった。
「吸収能力はタロットカードのみか...」
「こんな適当でいいのか」
「いいのよ、大体あの司祭様が外に出れないから、私が来たんだから、あとは司祭様に教えてもらいなさい。教会に戻るわよ」
私達は教会に向かう。
不服そうな顔をしながらも彼はまた歩き出した。
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教会にたどり着き、大聖堂に入るとそこに司祭様がいた。
教壇に立ち、本を読んでいる。
「やあおかえり、ロスト君」
私は適当な椅子に座る。
ロストも座ろうとしたが、司祭様が止める、
「君はタロットカードのことやここら辺、周辺の事を知らないみたいだったからね、
君の事を調べさせてもらった礼に今度は私達が知っている情報を教えようと思って呼んだんだ」
司祭様は教壇を降り、ロストから5m離れた位置に立つ。
「ここじゃ長話するには場所が悪い、客間に行こう。お茶菓子も用意してるよ」
司祭様が客間に連れて行こうとすると、彼は動かず、私の方を見た
「美波はついてこないのか」
「私はパス、めんどくさいし、ここで待ってるわ」
「司祭様、情報は教えなくていい。だが、私は彼女と行動がしたい。許可してくれないだろうか」
はぁ!?
「はぁ!?」
今なんて言った?こいつは、
私は司祭様の方を向く、司祭様は私とロストに生暖かい視線を向けた。
「それは...どうして?」
司祭はわざとらしく聞く、くっそ!恩人だから怒るに怒れないのがものすっごく腹立つ!
「彼女と一緒なら俺に救えなかった人間がたくさん救える、だからだ」
「それだけ?」
「ああ、加奈もつれてきてほしい。あの子は色々な情報をまとめるのに向いているからな」
...なんだ、まあそんな邪な気持ちを持ってないだろうとは薄々気が付いていたが、
普通に考えればわかる事じゃないか、何を戸惑っているんだ。私は
私は司祭様の方を向く。いつもの何を考えてるか分からない表情に戻っていた。
「わかった、許可しよう。ただし、君のいう活動が終わったらすぐこの教会に戻ってくること、そして、教会が出した指示に従い、時には教会に協力してくれることが条件だ。了承してくれるかい?」
「わかった。そうとなれば早速行くぞ、美波」
ロストが立ち去ろうとした瞬間、司祭様が経典をめくる。
ロストが大聖堂の扉を開けようとすると、鍵がかかっていて開かなかった。
ロストが司祭様の方を見ると、司祭様は変わらぬ顔で
「教会に協力してくれるなら、その時のために情報が必要だね。客間に移動しよう」
ロストは無表情で
「この教会には恩義を必ず返すという教えでもあるのか?」
と質問した。
司祭様は変わらぬ表情で
「そうとも、まあ君には元から教会に協力してもらおうとしていたんだ。だからこっちは別だよ」
ロストは少し考えた後、私の方を向く。
...これは、こいという合図だろうか
「なら美波も来てくれ、情報を聞いて今後の目標を決めたい...加奈も呼びたいな、どこだ」
「彼女には私から連絡するよ。じゃあ行こうね」
司祭様は今度こそ歩き出す。
それに続いてロストも歩き出した。
...このままやり過ごしたいところだが、一緒に行動することになったなら仕方ない。
私は彼らについていくことにした