1-6.アルカナ教会
「ロスト、ゼロ番のカードねぇ...」
夜になり、美波と私以外の能力者が集まると、話し合いが始まった。
議題は彼をどうするか、である。
「僕は普通に教会に住まわせてもいいと思うけどなぁー」
「いえ、私は反対です。ロストという名前など、偽名を名乗らないといけない人間なんて、信用に値しません。」
リーダーであるエイトさんがそう提案するとツーが反論する。いつもの光景だ。
「だけど新さんがそれが本名って言ったんだろ?だったら間違いないだろう」
「なら、それこそ怪しいですよ、ロストという名前なんて」
「ま、あんたらだって偽名を名乗ってるから人の事を言えないけどね」
加奈がツーにそう反論して、ツーが加奈をにらみつける。これもいつものこと
そして、能力者じゃない私は、置いてけぼり、これでもいつもの事です。
ちなみに、この教会に所属しているのは、『私』『加奈(皆からはフォックスと呼ばれてる)』『エイト』『ナイン』『ツー』『イレブン』の5人と司祭様を含めて6人。
ちなみに私はまだカードを持っていないので、皆さんからは嬢ちゃんや呼ばれてます。
...正直、少し寂しいです。
「おいおい、てめぇら、バカなのか?」
話をぶった切るように入ってきたのは、イレブンさん、この中で二番目に強い人です。
「俺もエイトもフォックスも嬢ちゃんも賛成なんだろ?なら住まわせていいじゃねぇかよ。どれだけごねても会議が進まねぇんだし、そいつの利用方法を考えようぜ」
この人はあまり頭がよくないはずなんですけど、たまに核心をついた発言をすることがあります。
そうです。この件については、新さん...司祭様も反対はしていません。むしろ、この教会に入ってくれたらありがたいとおっしゃってました。
司祭様を崇拝しているエイトさんはその時点で賛成で、私と加奈も賛成しました。
ただ、ツーがごねている状態です。
...私はこういう感情で動く人は苦手です。
いっそこの人がギルドに行った方が幸せになれるんじゃないでしょうか。
「俺たちの拠点の小樽もギルドの連中や無法者、バケモンの対処で人員が足りなくて、二手に分かれて治安維持に努めていた。俺とツーとナインの3人チーム、フォックスと嬢ちゃんの二人のチームでな。
俺とツーとナインは3人でやっと暴走した小アルカナを一人倒せるくらいだが、フォックスは一瞬で倒せてただろ?だから、とりあえずお前ひとりで戦闘して、援軍が必要になったときに嬢ちゃんに連絡してもらってその時に俺達が駆けつけるって、作戦で今までやってきた。だが、これからはそうもいかない」
イレブンがタブレットを触り、天使の映像を映す。
しばらく流していると、ツーとナインの顔が青ざめていく。
「おいおい、こんなのを倒したんですか」
「ええ、そうよ、ロストの助けがなかったら全滅してたでしょうけどね」
イレブンがタブレットの映像を閉じると、画像アプリを開く、そこにはチーム『治安維持部隊』と
チーム『大アルカナ討伐部隊』と書かれていた。
イレブンは机の上に体重をかけ、彼らに視線を送る。
「これからもこんな化け物がこの街に現れるだろ。そこでだ、チームを治安維持担当チームと大規模な戦闘チームに分かれて、大規模な戦闘チームの方にロストを入れればいい。
この映像でも分かったと思うが、ロストは攻撃面は一切していないが、天使の能力を全て無効化しているんよ。まだテストに関してはしてねぇけど、フォックスと連携がもっととれるようになれば、
ラバーズが寝床にしている銭函を取り返せるかもしれねぇだろ?それに、討伐に成功したらラバーズのカードが手に入って嬢ちゃんが能力を使えるようになるかもしれねぇ」
「だが彼はタロットカードを吸収する能力を持ってるんだろ?それはどうするんだ」
「その能力も含めて明日調査すんだろ?じゃ、会議は明日にしようぜ、というか、そもそも議題が決まってない会議なんて何の意味もねぇよ」
「あ、おい!イレブン!」
「あ、じゃ私も、いこ加奈!」
彼は出ていく、それに続いて美波も出ていく、それに私も続いた。
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「ねぇ、美波」
「んー?」
美波が振り返らず返事をする。
「やっぱり、あの三人って」
「イレブンさん以外、まだ子供だよ、って言っても私もあいつらよりマシってだけで、子供なんだけどね。あの二人は最初からタロットカードを持っていて、孤立した人たちだから」
美波が話を続ける。
「まずタロットカードの能力は何かを強く願ってないと暴走するからね、あの子たちはいじめられて見返したいとか、殺したいとか、そういう感情から、タロットカードを手に入れた。だけどね」
美波が立ち止まり、振り返る。
「そんな人が力を持ったところで、何かが変わることがない。力を持った駄々をこねる子供になるだけだよ。あの人たちを見てたら冷静になってきちゃった。ロストに謝らないとね。色々言っちゃったから」
「そうだもんね、だって美波は」
「ストップ」
美波は私の唇に指を添えた。その行動に少しドキッとする。だけれど、すぐ収まった。
だって美波は泣きそうな顔をしてしまっていたから。
「ごめん美波、無神経だった」
「いいのよ、だけれど、イレブンさんにはその事、聞かないであげてね。あの人ギルド出身だから」
小アルカナのカードを持つ人間は、単刀直入に言えば、力を願わないと、そのカードを扱うことができない。
いじめられたとか、親を見返したいとか、そういう気持ちが増幅した人間に現れる。
行使して行使して、そして何かに気づき改心して、大人になったとしても、力を望まなくなれば、小アルカナは暴走し、化け物になってしまう。
街に残っている化け物たちは、大人になってしまった元人間なのだ。
「しっかも人を暴走させた後、肝心のカードは他の北海道にいる人間の下に行っちゃうし、ほんとに厄介なカードだよ」
大アルカナは所有物、小アルカナは借り物判定だからと新さんは言っていた。
大アルカナも性質は同じだが、望む願いや暴走の条件が違う。
大アルカナはそのカード自体に込められた大勢の願いを強く望んだ一個人の場所に現れ、それを叶えるための能力を与える。
だが、慢心してはいけない。欲に溺れずにいれば、大アルカナは暴走することはない。
そう考えると、大アルカナのカードは大人のためのカードであり、小アルカナのカードは子供のためのカード、になるのかもしれない。
「どうしたの?加奈」
つまり、ここにいる美波もいつかは暴走してしんでしまうことになる。
「ねえ、美波」
「だからどうしたの?加奈」
「美波が暴走したら、私が殺すからね」
これが、私と美波がしている約束、私達の絆を繋ぐ約束
「当たり前でしょ、そのために貴方とバディーを組んだんだから、それに」
美波は自分の部屋の方に歩き始めて
「私は兄貴の仇を、ハングドマンを倒すまでは、絶対に暴走なんてしないから」
そう、彼女が子供でいられる理由、それは復讐だった。
彼女はただ、復讐を願ってここにいる。
私は、どうだろうか、
私は、大人なのだろうか、子供なのだろうか、
手元に小アルカナが来たことも、大アルカナが来たこともない私にはわからない。
そんな考え事をしていると、美波が見えなくなってしまっていた。
「考えたって仕方ないか、私は私でやれることをやるだけだ」
そう考えをまとめ、私も自分の部屋に向かって歩き出した。