2-10.アルカナ教会-食堂と『11』と礼節-
「ふむ」
告解室から出てきたのはいいが、加奈はどこにいるのだろうか。
よくよく考えたら、俺は加奈の事を何も知らない。というか知ろうとしていなかった。
「こういう所が、彼女に嫌われる原因になったのかもな」
何かを終わらせてから、何かにとりかかるのではなく、何かと並行して違うことができるようにならなければならない。また一つ、自分の弱点を知れた。
『僕、今の彼女の場所は知らないけど、彼女が行きそうな所なら知ってるよ』
「本当か、どこにいるんだ?」
『思い出してよ、美波さんは教会のご飯が多すぎるから一人でご飯を作って食べたわけでしょ?なら、彼女が来る場所は』
ああ
「教会の食堂か」
『正解、でも、食堂の場所はわかるの?』
「大丈夫だ、それに関しては司祭に聞いている」
ここで過ごすことになったときに、真っ先におすすめされたのがそこだった。
『じゃ、今日早速行くしかないね、あいつらが攻めてくるまでの時間は2日間しかないんだから』
...この二日間で、今まで信用したことのない人間の信用を勝ち取ることができるのだろうか、いや、やるしかない。ここにいる人を救うには、
『と言っても、夜ご飯まであと一時間はあるんだけどね』
...あ、まだ6時か。
「それは...どうするか」
『彼女の所にでも行くかい?』
「いや、食堂に行って何か手伝えることがないか聞いてきいてこよう」
ただでさえ、たべさせてもらうんだ、手伝わなければ、
『一時間前だし、まだ誰もいないと思うけど』
「それなら、誰かが来るまで待てばいいだけだ」
とりあえず、向かうしかな
「おっ、転校生君じゃん。ハロー」
...誰だろうこの人は、独特な言葉遣いだ。というか転校生とは?
「こんにちは、転校生とは?」
「昔はよそからやってきた人の事を転校生っていったらしいぜ?と、すまんすまん、オレはイレブン、お前が所属しているチームとは別のチームのリーダーだ。よろしくな」
...聞いたことがある。討伐チームのほかにももう一つチームがあると、
「はじめまして、ロストだ。討伐チーム?とやらに入った、よろしく」
「いやぁ、男手が増えて助かるぜ、これから俺は食堂へ行くところなんだが、一緒に行くか?」
...なるほど、俺が食堂に行こうとした瞬間にこの男が現れた。タイミングがよすぎる。司祭から頼まれたのだろうか、どちらにしても一緒に行った方がよさそうだ。
「ああ、今日はそっちで食べようとしてた。食堂についたら何か手伝わせてくれ」
「おーいいじゃねぇか、ちゃんと礼儀を弁えてる。ならこっちだ」
...とりあえず、二人で食堂に歩き出す。
「いやぁ、俺もお前と話してみたかったんだがよ、お前が食堂に来ないから話す機会がないんだよ。お前の部屋に押し掛けるわけにもいかねぇだろ?」
「ああ、どこかの司祭様は俺の部屋まで来たけどな」
「ははっ!!そりゃあの人は頭のネジがぶっ飛んでるからな」
二人で歩く、この男は、俺と同じくらいだろうか、オールバックで髪は茶髪、染めているのだろうか、身長は俺よりも少しでかい。確かにこの風貌だと、リーダーには選ばれそうだ。
「ロスト、お前に聞きたいことがあるんだ」
「なんだ?」
「ギルドの事は知ってるか?」
「ああ、司祭にさっき聞いた」
「それを聞いてどう思った」
「美波の目的と彼女と加奈の出会いがわかってよかったと思った」
「なんだよそれ、小学生みたいな感想だな、同情はしないのか?」
「司祭にも行ったが、彼女が決意してその道を選んだのなら、俺は同情も協力もしない。それは美波を冒涜することになるからだ」
イレブンの顔を見る。彼は怒りも悲しそうな顔もせず、そういう意見もあるのかーといいそうな驚いた顔をしていた。
「俺はな、あいつら二人が痛々しくて見てられなかった。ロスト、お前が来るまではあいつらは無表情でただ化物を殺してたんだ。信じられるか?」
...信じられない、俺と出会ったときも警戒してるような表情はしていた。
「あいつらは、自分の役目とやらに縛られてる。二人でかわした契約とやらにな、信じられるか?ここでは何でもできるのにな」
「...」
「しかもあいつらはそれを自覚してやがるんだ。何かに縛られてるのを自覚してるってのは、それ以外何もできなくなる。縛られてなければならないと思ってるからな、そこでお前が来た。この一週間で美波も加奈も変わった。感情ちゃんと表に出すようになった。あいつらは縛られているということを忘れて、それ以外に目を向けれるようになったんだ。本当に感謝してるんだぜ?」
...縛られているか、よくわかる。俺もその時は何もできなかった。
「感謝をするのは俺の方だ。俺はあの二人にもこの教会にも随分と助けられた」
「だから礼を返すってのか?律儀だねぇ」
「俺は礼はきっちり返す方なんだ」
「お前の礼なんざ、討伐チームとして活動してる時点でずいぶんと返されてるってのに...俺はよ、礼儀正しい奴を見ると、安心するんだ。この世は信頼関係が第一だろ?信頼関係が打開したら、俺はもうそいつ礼節なんて尽くしてやらねぇからな。俺に礼節を尽くしてくれる奴は、俺の事を信頼してるってことだ。お前が俺を信頼してくれてるなら、俺もお前に信頼し続けてもらうための努力をしなければならねぇ、これはお前にも言える事だがな」
よくわからない...と、話しながら歩いていたら食堂についた。
「だからこれは俺の礼儀だ。少ないが受け取ってくれ」
イレブンは食堂の扉を開ける。そこにいたのは
「...あなた、なんでいるんですか」
「...加奈」
加奈は誰かを待つように壁に寄りかかっていた。食堂は真ん中に大きなテーブルがあり、8つの椅子がおいてある。壁には大きな時計がかけてあり、その上に十字架がかけられている。
天上は高く、シャンデリアが3つおいてある。なんというかゴージャスな食堂だ。
奥には両開きの俺より少しでかい扉がある、キッチンに続いているのだろうか。
「よぉ、加奈ちゃん。悪いね、手伝いを頼んじゃって」
加奈は不機嫌そうな顔をしている。無理もない、警告したはずの人間と警告したその日にまた会ってしまったんだから、
「さっき歩いていたらこいつにあってな、食事でもどうかと誘ったんだ。そしたら手伝うと言われてな」
「断ればよかったじゃないですか」
「おいおい、俺に向けてくれた善意を断るわけないだろ」
「...はぁ、そうでした。貴方はそういう人でしたね」
...そういえば、この前、美波が『もう一つのチームは3人のうち2人はぱっぱらぱーだけど、1人はかなりしっかりした人だから、困ったらそいつを頼って』と言ってたな。
確かに、かなり不思議な人だが、頭がよさそうな人だ。
「というわけで、お前、料理はできるか?」
...?ああ、俺に言っていったのか、
「いや、料理はしたことない」
「なら、材料の用意と食器を洗ってもらうぜ、あぁ加奈ちゃん手伝ってあげて」
「はぁ?!なんで私が」
「お前ら同じチームだろ?ロストちゃんは料理を作ったことないどころかキッチンにも入ったことなさそうだし、手伝ってやれー」
「...おい、ちゃん付けはやめ」
「うるせぇーお前らやるぞー」
...イレブンは耳をふさぎながら両開きのドアに入っていく、加奈は頭を抱えながらイレブンに続く。というかあのドア手を使わなくても少し押せば簡単に開くのか。便利だな
...イレブンには感謝をしなければ、イレブンは俺と加奈が二人で話すチャンスを作ってくれた。司祭に聞いて動いてくれたのだろうが。
...不安が残るが、やるしかない。
俺はイレブンに続き、両開きのドアを開いた。