2-7.小樽市最上-成長と感情-
「あんた何泣いてんのよ」
泣いている俺に話しかけてきたのは美波だった。先に帰ったと思っていたが、どうやら待っていてくれたらしい。
「...なんでもない、すまない待たせて」
「別にいいわよ、立てる?」
美波は俺に手を差し出す。俺はその手を取り、立ち上がる。
「ありがとう」
「別にいいわよ、ほら教会に戻るわよ」
俺達が廊下を歩きだす。彼女には悪いことをしてしまった。
「あんた、運命の輪使いを一度倒したんですって?」
「ああ」
「なんでどうやって倒したか説明しなかったのよ」
「それは...」
説明に困る。どう説明したらいいのか、そもそも心を読む能力と教えてくれたのは■■のおかげだ。でも■■を説明することはできない。というか信じてもらえないだろう。
「...あいつの能力が心を読む能力だからだ」
「ええ、だから?」
「正直、この能力が発現したのを気づいたのはグラウンドでの戦闘の時なんだ。だから俺自身発言した能力の正体がわからない。ただその正体を色々な手段で判明させたとしても、運命の輪に心を読まれて対策される可能性がある」
「まっ、確かにそれじゃあ加奈は納得しないでしょうね」
「あいつに信用されてないことは分かってるんだ。だけど、あいつが本当に心を読む能力なら、判明した能力次第で勝ち目がなくなってしまう」
俺はここに来てから嘘を多くついている。この感情はわからない。わからないことだらけだ。
「まっ、でもちゃんと二人で話すのよ。納得はしなくてもお互い妥協できるくらいにはならないと」
「ああ...」
やがて出口が見えてくる。俺は外に出ようとすると、入り口の前で美波が止まる。
「知ってる?昔はこの中学校に300人くらい集まって勉強や運動をしてたんだって」
美波は、自分の靴を脱ぎ靴箱に入れる。そして、私達が歩いてきた廊下の方を見る。
「友達と一緒に登校して、靴を履き替えて、授業をして、休み時間にみんなで遊んで、それが当たり前だった。でも私達にはそれがない」
美波は振り返る。その顔は18歳にはまだ似合わないほどに、優しい顔をしていた。
「私達ってそういうことをしてきてないから説明も下手だし、作戦会議もろくにできない、人の心だってわからない。でも、心のどこかで人の事を信頼したいって思っちゃってるのかもね」
ああ、それは
「すごく、子供だな」
「それでいいのよ、私達は経験をしてこなかった子供だから、チームとして未熟だから」
...なぜ美波は出会って一週間も経たない俺にこんなに良くしてくれるのだろうか、なぜ
「お前は俺を信用できるんだ?」
「そんなの信じたいと思ったからよ、信じたいと思ったから信じてるの、私も子供っぽいでしょ?」
信じたい、か
それは本当に単純で馬鹿みたいで子供っぽくて
「素敵な理由だな」
美波は靴を履き、少し走って、俺の横に並んだ。
「だから、私の事も加奈の事も信じてくれると嬉しいわ」
俺は加奈の事も美波の事も信じてなかったのかもしれない。俺は目の前の人を守ることに必死で守ろうとしている人間の事を全く見てなかった。
「加奈と二人で話してみる。今日の夜に」
「ええ、わかったわ」
「ありがとう」
「どういたしまして」
少しずつでもいい。誰かを守るために、心を理解していこう。
俺達は二人で学校を出た。