2-4.小樽市最上-子供達-
「は!」
意識が戻る。目の前の景色は変わっていない。
何をされた、何が起きた。
「お前!なんなんだよ!離せよ!」
私は少年の声がした方を向く、そこには人間の姿に戻った少年と、その少年の首をつかみ、持ち上げているロストがいた。
「子供を捕まえた。加奈も知ってると思うがこいつは大アルカナ使いだ。一刻も早くカードを没収しないと」
子供を捕まえた?周りを見るが美波の姿はない。なら、あんなインチキ能力者をどうやって捕まえた?
「ロストさん、貴方何か隠し」
「スター」
子供の今度は少女の声が聞こえ、その瞬間、空から無数の光が降り注ぐ。
私は急いで姿勢を低くする。ロストさんも盾を展開し守る。
…光が止む。私は自分の体を見る。
だが、なんともない。けが一つしていなかった。
次にロストさんの方を見る。ロストさんも怪我はしていなかった。だが、捕まえたはずの少年の姿が消えていた。
私は周りを見る。すると、私とロストさんからかなり離れた位置に、少女はいた。
一昔前にいた。ゴスロリ?のような服を着ている。
「全く、大丈夫、兄貴?…ってこれ気絶してるな」
先ほどの少年を片手で抱えており、少年は気絶していた。
「さてロスト…って言ったっけ、アナタかなり強いわね、大アルカナでも小アルカナでもない力を持ってるわ。でもアナタ達の周りの人間が無能ね、特にそこの女、タロットカードも持ってないのに、大アルカナ使いに挑もうとしてる。はっきり言って無謀だわ」
少女が不敵に笑う。彼女が持っている大アルカナ、確か『スター』と言っていた。
「お前も大アルカナ使いの子供か」
「ええ、私のカードは星のカード、色々と使い勝手いいのよ」
「どうでもいい、お前らがそれを持っていたら化け物に変わってしまう。それを渡せ」
「無理よ、このカードは私達の希望なの、絶対に渡さない。それにアナタ達はもう終わりよ」
少女は手をかざすと少女の体が浮く。
「ロスト、アナタは危険すぎる。ここは雑魚しかいなかったから見逃してあげたけど、もう無理ね。2日後この町、最上町を恋科大学にいる化け物たちに襲撃させる。それが嫌だったら、明日私達の仲間になりなさいロスト、アナタは皆を救える。私達はアナタという戦力を手に入れられる。悪い話ではないでしょう?」
「断る。それだと、君たちを救えない」
「決めるのは明日よ、頭が冷めて冷静に考えておいて」
少女と少年の体が金色に光り輝く。次の瞬間、少女たちの体が小さな星の集合体になり、恋科大学の方へと流れていった。
「逃がしたか」
そんな中でも彼は真顔だった。正直謎が多すぎる。少女たちはなぜ大アルカナを使えるのか、そしてロストが少年を捕まえた方法の事など、どちらにしろ、少女たちはいなくなった。今は一旦教会に
「美波は遅刻か、仕方ない。先に始めるか」
「...何?」
「加奈、機械の表を見せてくれ、というか実際のドローンは壊れてしまったな、また今度見せてもらおう」
...この男は何を言っているんだ?先ほど大アルカナを持った謎の少女達が攻めてきて、町が危なくなっているというのに、報告の前に予定通り打ち合わせをする?
何を言ってるのかわからない。優先順位がおかしいんじゃないのか?
「...どうした、加奈」
「一度教会に戻って報告をしてからにしましょう。じゃないと色々作戦を立てられません」
ロストは納得がいかないような顔をする、
「報告してしまったら、議題がそこに集中してしまって3人の能力を確認する時間が取れなくなるかもしれない。ならば先にやったほうがいいだろう」
「頭おかしいんですか!?今私達は敵からの襲撃を受けたんですよ!2日後とは言っていたけど、もしかしたら気が変わって今日また軍勢を引き連れてくるかもしれません!なら先に報告しないと!」
「奴らは2日後と言った。なら2日後なのだろう。それにまだ午後3時だ、能力の確認など30分でできる」
「敵に位置がばれてるんですよ!今ここにいることが!30分でできるならなおさら後の方がいいでしょ!」
ずれている。この男はずれまくっている。話がかみ合わない。こんな人物初めてだ。
「加奈が言ったんだろう。突っ走らないでくれと、ここですぐ報告するのは突っ走る事じゃないのか」
「それとこれとは別の問題」「何言い争いしてるの」
振り返ると、そこには美波がいた。どうやら今着いたようだ。
「美波、10分遅れだぞ」
「ごめんごめん、で何があったの?」
「敵からの襲撃を受けました。『運命の輪』を使う少年と『星』を使う少女です」
一瞬で美波が真剣な顔になる。
「で何で言い争いをしていたの?」
「...ロストが敵からの襲撃を受けたにもかかわらず、敵の襲撃を受けたこのグラウンドで能力の確認が最優先だと発言していたからです」
「ああーなるほどね、敵はもう帰ったの?」
「恋科大学の方へと帰っていった。2日後襲撃に来るから、されたくなかったら明日こちらに来て、私達の仲間になれと言っていたな」
美波は少し、いや一分ほど考えた後、
「なるほどね、まあそうね」
そういうと、美波は私の方を向き
「加奈、少しは考えなさい。ロストを仲間にしたいなら、仲間にする町の住民を傷つけに来るわけがないでしょう。その時点で交渉は決裂するんだから」
...確かに言われてみたらそうだが、相手は期限を早めることもできる。私はそっちを心配してるのだ。
「期限を早めることもできるけど、それなら尚更今作戦会議をした方がいいでしょう。今日来るかもしれない敵に迎え撃てないじゃない」
「でも、他の人に説明したほうが対策が立てやすいですよ!」
「でもじゃないわよ、もう一つのチームがぱっぱらぱーなの知ってるでしょう?そもそもロストはもう一つのチームの存在すら知らないのよ」
「ああ、初めて聞いた。」
「加奈、貴女報告報告言ってるけど、ロストにもう一つのチームの事報告してないでしょ、それは私の責任でもあるけど貴方の責任でもある。そういう食い違いがあるから今この場で話し合いをした方がいいって言ったんでしょ、こいつは」
...正直ぐうのねも出ないほどの正論だ。だけど、こんな事態があったのに新さんに報告しないで敵が攻撃してきた場所で予定通り話し合いをするなんて。
「...ただ、私もここでやるのは反対ね、校舎の中でしましょ」
美波は校舎の方へと歩いていく。だが直ぐに何かを思い出したように振り返る。
「言っとくけどロスト、貴女も結構問題あるからね、説明が足りないのよ貴女、人と話したことのないのは知ってるけど、もうちょっと自分の考えを人に伝えられるように努力しなさい。さっきの説明も理解するのに結構かかったわ」
「気を付ける。」
「とはいえ、私も遅刻してきたから人の事言えないけどね...お互い、気を付けていきましょ」
...少し、いやかなり納得がいかない。だけど仕方ないと割り切り、私は美波と共に校舎の中に入った。