2-3.運命の輪
「ねえヒーロー」
ボク達は話している。この空間で、真っ白にも真っ黒にも見えるこの空間はヒーローがボクに与えた救いだった。
「なんだ」
ヒーローはボクに返事をする。ボクにはヒーローの姿は見えない。ボクはただ無の空間に話しかける。
ただ、ボクは嬉しかった。ボクのヒーロー、ボクだけのヒーロー、その人と会話ができるのが、嬉しかった。
ボクのヒーローの手助けができるのが、嬉しかった。
『ん?なんだあれは』
「どうしたの?ヒーロー」
「ドローンが見える。だが、何かおかしい」
「何がおかしいの?」
「ドローンっていうのはプロペラというものが動かないと飛ばないんだろ?」
「うん、そうだよ」
「動いてないのに飛んでいる」
最近ヒーローが色々な人と交流するようになった。複雑な気持ちだったけど、ヒーローはやっと一人救えたと泣いていた。だからボクも嬉しい。それに色んな事を喋ってくれるようになったから、ヒーローとの時間は今より増えているそれも嬉しい。
「そう、じゃあ災害が来たのかもね、どうする?マイヒーロー」
「知っているだろう」
ああ、知っている。だから聞かせて、マイヒーロー
「俺はいつだって、救える人を救うだけだ」
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俺は走る。待ち合わせの時間に丁度行こうとしていたのが間違いだった。
俺は急いで美波に連絡を取ろうと通信機を起動する。だがつながらない。
『天使の時も同じことあったよね、大アルカナが近くにいると通信機が起動しなくなるのかな』
「そうかもしれないな、急がなければ」
俺が校門までたどり着くと、空中に固定されていたドローンが落下する。
『あれ、運命の輪のカードだね』
「運命の輪?」
『確か今の子の能力は、対象をその場に固定する能力だったはず』
「固定?」
『その場に固定するんだ。固定された人間や物は世界に干渉できなくなる。老ける事も歩く事も考える事もできなくなるんだ』
「なら急がないとな」
校門から校庭に移動する。そこには固定された加奈と青い炎に包まれた人間が立っていた。
「あれが運命の輪を持った少年か?」
「ああ、僕の事?よく気が付いたね」
「お前意識があるのか」
声的に13歳くらいの少年か、大アルカナのカードを持ってよく意識を保っている。
「お兄さん、あのお姉ちゃんのお仲間さん?」
「今はそうだ」
「...そうなんだ、正直なんだねお兄さん」
少年の左手は加奈に向けられている。多分、手を向けた人間や物を固定するんだろう。
『まだ確定してないけど、手を下げられたら解除できるかも』
(なるほど、手を降ろせたらいいんだな)
俺は足に力を入れる。すると地面から黒い霧が出現する。
黒い霧に俺が完全に包まれると、いつものあの姿に変身する。
少年はすぐ俺の方に手を向ける。
「固定しろ!<ホイールオブフォーチュン>!」
そうして、俺に能力をかけようとしたのだろう。だが、俺には効かない。俺は世界から追い出せない。
「...お兄さんの中から別の誰かの声が聞こえる。能力も聞かないし、お兄さん、何者なの」
「さあな、考えたこともない」
『やっちゃって、マイヒーロー』
俺は右手の甲を盾に変え、正面から突撃する。メイジ戦でもやった戦術だ。
だが、少年はそのまま盾を殴りつける。その瞬間、盾は右手の甲へと戻る。
「お兄さんの盾、生物が触ったら元の形に戻っちゃうんでしょ?お姉ちゃんから聞いたよ」
「そうか、なら肉弾戦だな」
俺は思いっきり殴りつけようとする。だが、少年は一瞬でその場から消える。
「お兄さん、肉弾戦は雑魚でしょ、動きで丸わかりだよ」
後ろから声が聞こえ、振り返ろうとした瞬間に殴りつけられる。
3mほど吹き飛ぶがすぐ持ち直す。身体能力は美波よりは低いが俺では敵わないな
「そうだよ、だから諦めたら?そんな力のお兄さん達がラバーズを倒せるわけがないからね」
「お前、何処でその情報を手に入れた」
「さっきも言ったでしょ、お姉ちゃんが教えてくれたよ」
加奈が教えた?固定した人間の情報を除く能力が付いているのか、
『いや、多分彼心を読む能力を持っているね』
心?
『ほら、彼ボクの事も認知してたから、マイヒーローの心の声も聞こえてるんでしょ?』
ああなるほど、なら厄介だ。こちらの弱点や情報がそのまま筒抜けになるんだから、
だが、彼女が戦闘中にそんなこと考えるだろうか、何か妙だ。
「ほらお兄さん!よそみしないで!」
俺が考えていると、次は横からけりを入れられる。今度は20mほど吹き飛び、地面に思いっきり叩きつけられる。
『マイヒーロー!これを使って!』
目の前に真っ黒いカードが現れる。空中に浮いたカードには『ロスト』と名前が書かれていた。
「それがやりたかっただけだろ」
『へへ、やってみたくて、ダメ?』
「ダメじゃないよ、相棒」
俺は『ロスト』のカードを思いっきり殴りつけた。その瞬間、カードから赤い霧が出現する。
その霧はどんどん広がり、校庭を包み込んだ。
「な、なんだ!?」
あいつは俺の中からもう一つ声がするといった。そして今までの情報をお姉ちゃんから教えてもらったとも、ならば、あいつは相棒の声は聞こえていても、相棒の心の声は聞こえていない。
それなら、相棒がしようとしていることに俺は合わせればいい。
なら、戦術は読まれない。
赤い霧が晴れる。周りを見渡すが、何も変わっていない。
『変わってるよ、自分の体を見ていて』
自分の手を見る。すると、黒かったはずの腕は白色に変わっており、手の甲についていたガラスは赤いカラーが入っていた。
「これもしかして顔のガラスも赤くなってるのか」
『ええー!そんな感じになったの!?見たい!見たい!』
そういえば、見れないんだったか、今度どうにかして見せてやろう。
「...お兄さん本当に何者なの?」
『ボクの!ボクだけのヒーローだよ!』
「ヒーロー...」
少年は何かを考えている。俺はいつも通り左手の甲の鏡を盾に変えようとした。
だが、変わらない。なぜか変わらない。
「なんだ、変わらないんだ。なら雑魚じゃん!」
少年は俺の方へとまっすぐ走ってくる。そして目の前まで来ると、俺の顔に向かって思いっきりパンチをする。だが、少年は気が付いていない。今までの俺はその動作すら見えていなかったことに
『やっつけて!マイヒーロー!』
俺はしゃがみパンチを回避する。そしてそのまま、少年の腹を思いっきり殴った。
「がは!」
少年が20mほど吹き飛ぶ。地面に叩きつけられる様は、まるでさっきの俺みたいだ。
少年の姿が人間に戻る。俺は歩きながら少年に近づく。
『あ、一応元の姿に戻ったほうがいいよ、ほら、胡散臭い人が見に来るかもしれないし』
「それもそうだな」
俺は足に力を入れる。するとまた地面から黒い霧が出て、元の黒い姿に戻った。
少年はまだダメージから動けないでいる。
「俺は君も救いたいんだ。そのカードは子供が持っていると暴走するかもしれない。俺に渡してくれ」
「げほげほ...いやなこった。これは僕達の希望なんだ」
「仕方ない。奪い取るしかないな」
俺は少年の首をつかみ持ち上げる。
「お前!なんなんだよ!離せよ!」
俺は次は一般人並みの力でおなかを殴ろうとする。だが、
「ロスト...?」
彼女、加奈が目を覚ましてしまった。




