1-10.アルカナ教会-最初の一歩-
「...あんたいつまでここにいるつもりなのよ」
「ご飯を作ってもらったんだ。お礼に皿くらい洗わないと」
ロストがお皿を洗って、私がお皿を拭く、最初お皿を洗いたいと言ってきたときは、大丈夫かと思ったが、
意外に丁寧で速い、
「今日はパトロールの日だろ?」
「ええ、そうよ」
「具体的にどんなことをするんだ?」
お皿を洗いながら私達はそんなことを話す。
「じゃあ聞き方を変える。どこにどんなパトロールをしに行くんだ?」
「一般的にはここら辺周辺、最上町のパトロール」
「最上町?」
「ここら辺周辺がそう言われてるのよ、災害の後、唯一人が住める地域になった場所ね、下にある観光地は大体逝かれちゃったし、復興作業中にタロットカードの奪い合いが起きたから」
そう、いま日本ではこの北海道は隔離されている。表向きは工場が爆発したとか治安悪化の為とか言われている。実際治安悪化は関係ある。何せ奪い合いでならず者集団や王国、ギルドが生まれたから、ここは政府ですら近寄れない場所になっている。
一度事情を知らないロシアが北海道を奪いに来たが、王国やギルドによって侵攻してきたロシア兵は全員殺された。だから北海道の事情を知っているのは、北海道で暮らしている人間と政府しか知らない。
「で、最上町のどこをパトロールするんだ?」
「そうね、人が住んでいる所はイレブン達がやっているだろうし、そうなったら残っている所は、天狗山ね」
そう、教会の周りにある家や学校には能力を持たない人が住んでいる。
彼らはタロットカードの存在は知っているが、小アルカナを持てるほど子供でもないし、大アルカナを持てるほど願望を持っていない。ただ、もともと公園だった所で畑仕事をしたり、高校だった所で学び直したりしている。
「ここら辺人が住んでいるのか?」
「ええそうよ、貴方も人にあったんじゃないの?」
「...そうだったか、ならば病院の近くに住んでいた人がいたんじゃないのか」
「ばかね、そこは若松、最上からは結構離れたところにある病院よ、最上町以外には野犬や小アルカナの化け物が出るから住民には最上町から出るなと言っているわ」
「そうか、だったら最上町を回ればいいんだな」
「一般的にはね、私達は大規模な戦闘を主軸にしたチームだから、多分別の所のパトロールに行かされると思う」
ただ、大体察しはつく、若松付近はかなり強い化け物たちがいる。ならば若松と最上の間にある入船の奪還にはならないだろう。となったら
「まあ、まずは司祭様にどこに行くか決めてもらわないとね、ほら皿洗いも終わったんだし行くわよ」
「ああ、わかった」
そういって私達は一緒に大聖堂へ向かった。
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私達が一緒に大聖堂に入ると、待っていたのは気持ち悪い笑顔を浮かべ司祭様とタブレットで何かを読んでいる加奈の姿だった。
「おやおや、一晩でずいぶん進展したようだね、手を出すのが早いんだから」
「...笑顔気持ち悪いですよ、司祭様、あとそういうのではありません」
「そうだ、俺はただ、フォックスと朝ごはんが食べたかっただけだ」
司祭様の顔がもっと気持ち悪くなる。こいつはわざと言ってるんだろうか、
「で、今日はどこにパトロールに行くんですか、司祭様」
司祭様の顔が元通りになる。
「君も大体察しているんじゃないかい?フォックス君」
「ええ、多分緑町ですよね」
「緑町?」
ロストがわからないような顔をしている。加奈がタブレットで地図アプリを開いて、司祭様に渡す。
そしてロストにタブレットを見せた。
「ここ、最上町の隣にある町だ、地獄坂や国公立の大学が有名かな」
「で、なぜそこを奪還に行くのか?」
「いや、今日の目的はあくまでパトロールだ。最上町の周りに危険な生物がいないかね、ただ」
司祭様がタブレットを動かす。そこには国公立大学の画像が映し出されていた。
ただ、その画像には不思議なものが映っている。
何か暗い点が無数に壁に張り付いているのだ。
「そう、この大学は何かがいる。この前の天使ほどじゃないにしても、小アルカナの『キング』が暴走した姿かもしれない」
小アルカナ...小アルカナが暴走した姿にもいくつか種類がある。
まずは1~10の数字で構成された小アルカナ、こいつらは数字が大きければ大きいほど強い、
1のアルカナだったらイレブン一人でも倒せる強さ、10のアルカナだったらイレブンの部隊が全員でかかっても倒せないくらいの強さになる。
そして『キング』や『クイーン』などの名を持ったアルカナ、こいつらは厄介だ。
何が厄介って他の小アルカナの化け物をアルカナの王として君臨し従えさせている。
キングやクイーンがいる所に偵察に言ったら小アルカナの化け物が20体いたなんてザラだ。
そして『ナイト』、彼らは必ず『キング』を守っている。
クイーンを守っていることもあるが、キングの近くには必ずと言っていいほどいる。
残りに『ペイジ』だが、こいつは10とあまり能力は変わらないが、『キング』の周りにしか現れない。
とりあえず謎な化け物だ。
「君たちはまだ連携も取れない状態だからね、一旦は大学方面にはいかずに住宅地を探索してくれ」
「パラはどうするんだ?」
「私はドローンや犬型の警備ロボを使って周りに化け物がいるかの確認をします。こう見えても、機械には強いんですよ!」
そういい加奈が指を鳴らすと物陰から犬の警備型ロボットが現れる。
「こういうロボットで間違って外に出てしまった市民の救助や小アルカナの化け物を早期に発見して倒すこともできます。まあ私自身には力がないので私を守ってもらうことになるんですが」
「いや、先に敵がどこにいるかの情報がわかるのはありがたい。よろしくなパラ」
「はい!」
ロストが手を差し出すと加奈は両手でつかみ手をつかんだまま上げ下げしている。
こんなにテンションの高い加奈は初めて見た。
「まあそういうことだからみんな生きて帰ってきてね」
「「了解」」
私と加奈は同時に声をあげる。
そして、急いで大聖堂を出る。
それにロストも続く、これが私達の仕事の第一歩だ。