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短編集

幼馴染への恋心を自覚するまで

作者: 紅204

 夕暮れ時の図書室。そこに、本の返却をしている三人の少女がいた。三人は図書委員会に所属している。この学校では、本の返却は図書委員がすることになっているため、放課後に三人はその仕事をしていた。


「あーもう嫌だあ! なんであたしたちだけこんなことしなきゃいけないの?!」

「仕方がないでしょう? 先生は会議ですし、ほかの皆さんは部活の大会が近いんですから」


 急に叫びだしたショートカットの少女に、眼鏡をかけたポニーテールの少女が呆れたようにそう言った。


「でもみんなでやればすぐ終わるでしょ!? 少しくらい手伝ってくれてもよかったじゃん!」

「それは……。確かに、そうですけど……」


 ショートカットの少女に正論を言われ、言い淀むポニーテールの少女。仕事をせずに喋っている、そんな二人にボブの少女が声をかける。


「二人とも。話してる暇があるなら早く終わらせよ」

(しずく)ちゃんは何にも思わないの?!」


 雫はため息をついた。


「そんなに文句があるなら帰ってもいいよ」

「え! 本当に!」

「ちょ、ちょっと」


 ショートカットの少女を帰そうとする雫を見て、ポニーテールの少女は止めようとする。しかし、雫はそれを無視して口を開く。


「先生、終わったらアイスをおごってくれるって言ってたよ」

「え、そうなの?」

「うん。三人だけだと大変だからご褒美にって」

「ほんとに?」

「ほんとほんと。じゃ、(あかね)の分もボクがもらっておくから、帰っていいよ」

「あげないよ!」

「え? やりたくないんでしょ?」

「アイスがもらえるなら話は別だよ! さあ早く終わらせよ!」


 茜は気合を入れなおして、仕事を再開した。


「単純でよかった」

「雫さん? 先生が本当にアイスをおごってくれるとおっしゃっていたんですか?」

「うん、そうだよ」

「じゃあ、私たちも頑張って仕事をしないといけませんね」

「うん、そうだね。頑張って」


 そう言って、雫は本棚に手を伸ばす。その手をポニーテールの少女が掴む。


「何言っているんですか。雫さんも手伝うんですよ」

「ボクがしなくても、(めぐみ)と茜の二人がいれば十分でしょ」

「そうですか。じゃあ、今度から勉強を教えてあげませんよ」

「ほら、早く茜の手伝いに行くよ」


 恵の言葉を聞いた雫は、急いで茜のところに行って仕事を手伝い始めた。恵はため息をつくと、雫の後を追いかける。




 十分後。

 本の返却がすべて終わり、茜と恵は机を挟んで座っていた。最近の授業や趣味、部活の話などをしている。

 雫は二人が話しているのをBGMに聞きながら、一人で小説を読んでいた。


「ねえねえ! なに読んでるの?」

「ん? 好きな作家の新作。お金がなくて買えなかったんだけど、先生に頼んで図書室に置いてもらったの」

「へー、そうなんだ! よかったね!」

「茜さん、本を読むのを邪魔しないほうがいいんじゃないですか?」

「あ、そっか。ごめんね!」

「いいよ。切りのいいところだったし、続きは家に帰ってから読むから」


 そう言うと、本にしおりを挟んでカバンにしまう。


「そういえばさー、みんなって好きな人いるの?」

「私はいません。そもそも学生の本分は勉強ですよ。恋愛ごとにかかずらっている暇はありません」

「かかずらうって?」

「あ、えーと。恋愛ごとにかかわっている暇はありません」

「えー。でもさー、大人になったら仕事とかで忙しくなるでしょ? だから、学生のうちに恋愛したほうがいいじゃん」

「それで勉強に身が入らなくなったらどうするんですか」

「好きな人のために勉強を頑張る人だっているじゃん」

「ですが……」


茜は雫に顔を向けると、


「雫ちゃんはどう思う?」

「ボク? ボク、は、したかったらすればいいんじゃないって思う」

「なにその答え―。じゃあさ、好きな人はいるの? ほら、いつも一緒にいる幼馴染のあの人とかさ」

駿(しゅん)のこと? 駿はただの幼馴染だよ」

「えーほんとに? でも駿くんの方は……」

「そのあたりにしておきなさい。人の恋愛に興味があるのはわかりますが、無理に聞き出そうとするのはよくありませんよ」


 その言葉を聞いて、茜は顔に笑みを浮かべる。それを見て恵は自分の失言に気付いた。


「やっぱり恵ちゃんも興味があるんじゃん」

「そ、その」

「どうなのー? 恵ちゃんも本当は恋愛に興味があるんでしょ?」

「あ、茜さんこそどうなんですか?」

「あたし? うん。いるよ、好きな人」

「どんな人?」

「あ、雫ちゃんも興味あるの? えーとね」


 と、茜が話そうとした時、扉がガラガラと開かれた。三人がそちらに目をやると、ロングヘアで背の低い、一見すると少女のように見える女性がいた。


「ごめん! 待たせちゃった?」

「大丈夫ですよ、近藤先生」

(ふみ)ちゃん先生、アイスは?」

「え? あ! 教務室に忘れちゃった! 取ってくるから少し待ってて!」


 そう言うと、急いで教務室に向かって走っていった。走りながらほかの先生とすれ違ったのか、「近藤先生、廊下を走らないでください!」と注意する声が聞こえてきた。


「雫さん! 先生に対してそんな呼び方してはいけませんよ!」

「別にいいでしょ。先生に対しての親しみの表現だよ。ね、茜」

「うん。あたしもいいと思うよ!」


 そんな問答をしていると、タッタッタッタ、と走る音が聞こえてきた。そしてガラッと扉が開かれると、近藤先生がクーラーボックスを持って立っていた。


「持ってきたよ!」


 近藤先生がクーラーボックスを開くと、バニラ味、メロン味、ぶどう味の三種類のカップアイスが入っていた。


「好きなのを選んでね」

「ありがとうございます、近藤先生」

「ありがとう、文ちゃん先生!」

「文ちゃん先生、ありがと」

「ちょっと! 雫さん、勝手に取らないでくださいよ!」


 雫は二人がお礼を言っている隙に、ぶどう味のアイスを取っていた。


「ぶどう味はボクがお願いして買ってきてもらったの。だから別にいいでしょ」

「それでも先に言うのが礼儀でしょう!」

「恵ちゃんは何味がいい?あたしはメロンがいいな」

「茜さんは何も思わないんですか!」

「いいからいいから。で、何味がいい?」

「……バニラ味でいいです」

「ならいいじゃん!」

「結果オーライだね」


 恵はため息をつくと、雫の額を中指ではじいた。


「それでも一言いうのが礼儀でしょう」

「むー。恵は真面目すぎるよ。もう少し適当でもいいでしょ」

「雫さんが適当すぎるんです!」

「ふ、二人とも! 喧嘩は駄目だよ!」

「大丈夫だよ、文ちゃん先生。いつものことだから」

「とにかく! 次からは気を付けてくださいね!」

「はいはい」

「ほらほら。二人とも!話はその辺にして、早く帰ろうよ」

「そうですね。もう時間も時間ですからね」

「うん。じゃ、さよなら、文ちゃん先生」

「はい。みんな、今日は三人だけに任せてごめんね」

「アイスもらえたしいいよ!」

「仕方ないことですし、大丈夫ですよ」

「次もアイス頂戴ね」

「雫さん!」

「ふふっ、いいよ。また同じ味でいいよね」

「うん」

「ありがとう!」

「先生、わざわざ買ってこなくてもいいですよ」

「大丈夫大丈夫。アイス三つ買うくらいだったら問題ないよ。これでも大人なんだから」


そう言って胸を張る近藤先生。その姿は子どもが自慢しているようにしか見えなかった。


「そ、そうですか? じゃあ、お言葉に甘えて」




 三人はカバンを持って、近藤先生と一緒に生徒玄関に歩いて行く。


「じゃ、改めて今日は仕事をしてくれてありがとうね。さようなら」

「どういたしまして。さようなら」

「文ちゃん先生、じゃあね」

「バイバイ、文ちゃん先生!」


 手を振っている近藤先生に手を振りながら三人は校門に向かって歩き出した。周囲には部活が終わり、同じように校門から出ようとしている生徒たちがいる。

 三人が校門の目の前に行くと、話しかけてくる男子生徒がいた。


「雫」

「駿、待ってたの?」

「あ、じゃああたしたちは先に帰るね」

「え?」

「ほらほら行くよー」


 茜は恵の手を引いて雫を置いていった。その時に駿に意味ありげに目配せをした。


「なんで先に帰ったんだろう?」

「恋愛脳だからだろ」


 駿は吐き捨てるようにそう言った。雫は駿の言ったことの意味が分からなかったのか、首をかしげている。


「ほら、帰るぞ」

「うん、わかった」


 歩き出した駿に、雫はついていく。


 街灯に照らされた道路を二人で歩いていく。公園の近くを通りかかったとき、雫は駿の袖を引く。


「ねえ、公園に寄ってかない?」

「ん? いいけど、なんでだ?」

「ん-と、気分?」

「なんで疑問形なんだよ」


 呆れたようにそう言うと、雫と一緒に公園に入る。雫はベンチに座ると、アイスを取り出した。


「そのアイス、どうしたんだ?」

「委員会の仕事のご褒美にもらった」


 雫はベリベリとふたをはがす。そして、アイスを足においてスプーンを小袋から取り出すと、アイスを掬って口に含んだ。含むと同時に、目尻が下がる。


「ホントおいしそうに食べるよな」


 駿はベンチの隣にある自動販売機にお金を入れながらそう言った。光っているボタンを押して、取り出し口から缶を取り出す。


「そういえば今日、茜に駿のことどう思ってるのかって聞かれたんだよね」


 表情を変えずに淡々とそう言った雫。


「きゅ、急に何の話だよ」

「ね、ボクたちの関係って何?」

「おっ前、ほんと人の話聞かないよな……! はあ、ただの幼馴染だろ」

「ん、だよね」


 缶ジュースを飲みながら答えた駿に相槌を打つと、アイスを再び食べ始めた。

 そのまま黙々と食べ進める雫を横目で見ながら、缶ジュースを飲み干す駿。飲み干した空き缶をごみ箱に捨てると、雫の隣に座る。


「食べたいの?」


 自分を見つめてくる駿を見て、雫はそう尋ねた。


「いや、そういうわけじゃねえよ」

「食べたいなら一口上げようか?」

「いやいいって。全部食えよ」

「……うん」


 雫はアイスをかきこむと、ごみ箱に捨てる。


「よし、じゃ食べ終わったならさっさと帰るぞ」

「うん」


 二人は立ち上がると、公園を出て再び家への帰路についた。

 無言で歩き続ける二人。


「お邪魔しまーす」

「あら、二人とも。帰ってきたのね」

「ただいま、ママ」

「お帰り。夕食はもうできてるから、早く手を洗ってきなさい」


 雫は母親に言われたとおりに手を洗うと、床にカバンを置いて食卓に着いた。同じように駿も手を洗って食卓に着く。

 テーブルの上には、雫、雫の両親、駿の四人分の夕食――白米に豚汁、唐揚げが二つにコールスローサラダ――が人数分準備されている。


「パパは仕事で遅れるみたいだから、先に食べ始めましょうか」


 と雫の母親が言うと、三人は手を合わせて「いただきます」と言って食べ始めた。


「今日は何があったの?」

「雫は委員会の仕事があったらしくて、そのご褒美でアイスをもらったみたいです」

「そうなの、雫?」

「うん。本の返却を三人でやってた」

「駿くんはどうだったの?」

「えーと。今日は、って、ちょっと待て雫!」

「ん?」


 雫は駿の皿から唐揚げを取って、自分の皿からサラダを移そうとしていた。


「お前、唐揚げを一つ持っていくのはまだしも、サラダはちゃんと食べろよ」

「でも唐揚げを取ると駿の食べる分が少なくなるでしょ」

「そこを気にすんならそもそも取るなよ」


 駿は呆れたように言う。雫は頬を膨らませると、駿から取った唐揚げを口に運ぶ。


「駿くんってホント、雫に甘いわね」

「そうですか?」

「唐揚げを譲ってあげるのは十分甘いと思うわよ」

「そうだそうだー」

「お前が言うなよ」


 適当に相槌を打つ雫の頭を軽くはたく。


「それじゃあこれからは気をつけます」

「べ、別に少しくらい甘くてもいいんじゃない?」

「お前はもう少し我慢するようにしろよ。いつもいつも俺のおかず取りやがって」


 駿は、半笑いで雫の頭を小突く。


「ほらほら、じゃれてないで早く食べなさい」


 雫の母親がそう言うと、二人は話をやめて食事を再開した。

 食べ終わると、三人は手を合わせて「ごちそうさまでした」と言った。


「それでは帰りますね。ありがとうございました」


 駿はそう言うと、カバンを背負い玄関に向かおうとする。


「ほら、雫。見送ってきなさい」

「えー。めんどくさい」

「別に見送りなんていらないですよ」

「いいから、行きなさい」


 しぶしぶ雫は駿と一緒に玄関に向かった。


「じゃ、バイバイ」

「ああ、また明日」


 駿は扉を開けて、雫の家から出ていく。駿が扉を閉めると、雫が鍵を閉める。そして、カバンを回収して自分の部屋に行く。

 制服から私服に着替えると、カバンから本を取り出して読み始める。




 次の日。雫が駿と一緒に登校すると、下駄箱に手紙が入っていた。雫が手紙を開けると、それには昼休みに校舎裏に来るように、と書いてあった。


「それ、どうしたんだ?」

「ん-、何でもない」


 そう言って、雫は手紙をカバンの中に入れた。




 昼休み。雫が校舎裏に向かうと、女子生徒が数人そこで待っていた。


「来たわね。誰からの手紙か分からないのに、本当に来るとか馬鹿じゃないの?」


 女子の真ん中で腕を組んで立っているポニーテールの少女が、あざけるような笑みを雫に向けている。


「やっぱりあんたみたいな暗いやつに駿くんはふさわしくないわ」

「はあ、駿とボクはただの幼馴染だよ」

「そんなの関係ないわよ! いいから駿くんと距離を取りなさい!」

「そんなに駿のことが好きならボクになんか構わずに、アタックすればいいでしょ」

「ボクとか痛々しい一人称を使ったり、全然表情を動かさなかったり……。あんたみたいなやつが駿くんのそばにいるなんておかしいわ! 駿くんも本当は迷惑してるに決まっているんだから!」


 と、言い争っていると、足音が聞こえてきた。そちらに顔を向けると、駿がこちらに歩いてきていた。


「おい」

「しゅ、駿くん……! あんた、駿くんに言ったの?!」

「ちげえよ。なんか様子がおかしいと思ったからついてきたんだよ」

「別についてこなくてよかったのに」

「そんなわけにはいかねえだろ」

「や、やっぱりそういう関係なんでしょ、あなたたち!」

「は? 違うわ。ただの幼馴染だっての」

「じゃあなんでわざわざ来たの!」

「こいつの家には世話になってるからな。こいつに何かあったら申し訳ないだろ」

「じゃ、じゃあさ。私と付き合ってくれない?」

「は? 嫌だけど」

「え……」

「いくら恋敵になるかもしれない相手でも、複数人で囲むようなやつなんてお断りだな」


 最初は何を言われたのかわからない様子だったが、理解すると、少しずつ涙目になっていく。そしてその場から走り去る。周りの女子生徒も彼女を追いかけていった。


「大丈夫か、雫?」


 雫はうつむき、反応を返さない。


「雫?」


 駿は雫の顔を覗き込む。


「……いや」

「え?」


 雫は顔を駿に向ける。


「ただの幼馴染だって言ったけど、やっぱりそれじゃ嫌かも」

「え? ……は?」

「ね、付き合って」


 雫は駿の方に一歩踏み出し、距離を詰める。二人の顔はまつげが触れそうなほど近づく。急に距離を詰められ、驚いた駿は雫の肩を押して距離を離す。


「ちょ、ちょっと待て! 急になんだよ!」

「ん-ん。多分、もともと好きだったの。このままずっと一緒にいるんだろうな、って思ってた。でも、あの人が付き合ってって言ったのを聞いて思ったの。駿に彼女ができたら一緒にいることはできないって。それは嫌だなって思って気づいたの。ボク、駿のこと好きなんだなって」

「……そんなにしゃべるの珍しいな」

「本気だから。で、返事は?」


 駿は十数秒、考え込む。


「ごめん。俺はお前のこと恋愛対象としてみたことないし、そういう風に見れない」

「そっ、か」


 駿の言葉を聞いてうつむく雫。それを見た駿は、雫の頭に手を置きかけるが、ためらう。そして手を引いた。

 数瞬間を開け、顔を上げると駿に笑顔を向ける。


「じゃ、覚悟してね。ボク、あきらめないから」


 ふわり、と花が開いたような笑顔を見せる雫。それを見て、駿は顔を紅潮させて視線をそらした。


「それにすぐ落とせそうだし」

「なっ、そ、そんな簡単に落ちるわけないだろうが!」


 ふふっ、と笑みを浮かべながら校舎裏から離れる雫。駿は、おい、と声をかけながら追いかける。

無口無表情ボクっ娘幼馴染っていいよね!


「俺も好きだぜ!」っていう人はぜひ下にある星を押してください!感想もいただけると嬉しいです!

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