婚約者に冤罪をかけて国外追放したら国が滅んだ〜神の手のひらの上で転がされていたことに気づかない間抜けな俺・短編【続編投稿しました】
2022/09/15、ラスト部分を加筆しました。
俺は自分で考えて行動したと思っていた。
だけど本当は神の手のひらの上で転がされていただけで……。
俺がそのことに気づいた時には、もう人の手ではどうしようもないところまできていたんだ。
☆☆☆☆☆
城の大広間には大勢の貴族が集まっていた。
今日は新たな聖女のお披露目式。
我が国は三百年前より竜神ルーペアトの加護を受けている。
竜神は時おり未婚の女に特別な力を授ける。
それがどんな病や怪我も治せる光魔法。
現聖女エルマは今から八年前、十歳の時に光魔法を授かり聖女となった。
エルマが聖女となった数カ月後彼女は王太子である俺の婚約者になった。
エルマは茶髪に緑の瞳の平凡な容姿しかも平民の孤児。
いくら歴代の聖女が王太子の婚約者になるのが決まりとはいえ、俺には平民の孤児が婚約者になったという事実が受け入れられなかった。
それに俺には好きな人がいた、幼なじみで伯爵家の令嬢アイリー。俺は彼女のことがずっと好きだったんだ。
アイリーは黄金色の髪に天色の瞳の美少女。眉目秀麗な俺の隣を歩くのにふさわしい女性だ。
王族や貴族が政略結婚をすることはわかっている。
わかっていたけどそれでも聖女とはいえ平民の孤児が婚約者なんて嫌だったし、どうしても初恋の美少女と平民のブスを比べてしまう。
だから俺はエルマをずっと邪険に扱ってきた。
王太子の仕事や俺の学園の宿題を代わりにやらせたり、誕生日にプレゼントを贈らなかったり、パーティでエスコートしなかったり、他にも色々嫌がらせをした。
婚約者に使うための費用をアイリーへの贈り物を買うために遣った。
アイリーも俺のことが好きだったようで、俺の贈ったアクセサリーやドレスを喜んで受け取ってくれた。
アイリーと隠れて逢瀬を交わすたび、光魔法を授かったのがエルマではなくアイリーだったら良かったのに……と思ってしまう。
そんな俺の祈りが届いたのか先日エルマは光魔法を無くした。
そして同じ日にアイリーが光魔法を授かったのだ。
俺は神に感謝した。
すぐに会議が行われた。俺はエルマから聖女の地位を剥奪しアイリーを新たな聖女に任命するように提案した。
父も議会もそのことに反対しなかった。
教会だけはなぜかごねていたが光魔法を失ったエルマを聖女にしておく理由がない。教会の意見は却下された。
それと聖女でなくなったエルマはただの平民。俺の婚約者にしておく必要はない。
新たな婚約者にアイリーを据えることを提案し、許可された。
あとはどういう形で発表するかだ。
エルマの名誉を傷つけアイリーの名を高める方法がいい。
俺はパーティに国中の貴族を招待し、その場所でアイリーとの婚約を発表することにした。
パーティでエルマから聖女の地位を剥奪。アイリーを新たな聖女として任命し、そのあとアイリーとの婚約を発表する計画だ。
王太子である俺にそこまでの権限はないが王である父の許可はとってある。
アイリーに僕の髪と瞳の色と同じ藤色のドレスとアクセサリーを贈り、僕はアイリーの瞳の色である青のジュストコールをまとった。
アイリーをエスコートしてパーティ会場に入ると招待客の目が俺たちに釘付けになった。
「素敵」「まるで一対の人形のようだ」「美男美女でお似合いですな」なんて声も聞こえる。いいぞ、もっと称賛してくれ。
美しい見た目を褒め称えられるのも心地よいが俺にはやることがある。
「聖女エルマはいるか!
いるならすぐにここに来い!」
先に入場していたエルマを呼びつけた。
しばらくしてエルマが俺の前にやってきた。
エルマは濃い緑色の流行遅れのドレスをまとっていた。平民のエルマにはお似合いだ。
奴は感情のない顔で僕たちを見ていた。
昔はもっと表情が豊かだったがいつの頃からか笑わなくなった。
奴の教育係は「王太子妃教育の賜物です」と言っていたが、笑顔の消えたブスは余計に不細工に見える。
澄まし顔というのは美人にしか似合わない。
それにしても今日はいつにもまして表情がないな。
まあそんなことはどうでもいい。俺は今からこいつを地獄に叩き落とすのだから!
「先日エルマは光魔法を失った!
よって今ここでエルマから聖女の身分を剥奪する!
そして竜神ルーペアトより光魔法を授かった伯爵令嬢のアイリーを新たな聖女に任命する!!」
会場は一瞬のどよめきのあとアイリーを称賛する声と拍手喝采に包まれた。
高位の貴族ほど、平民の孤児であるエルマが聖女の地位についていることを快く思っていなかった。
アイリーが新たな聖女に選ばれたことを皆喜んでいるようだ。
エルマを除いては……。
エルマはいつにも増して表情筋が死んでいた。
聖女の身分を剥奪するって言ったのに無表情かよ。
つまらない女だな。みっともなく泣きわめけばいいのに。
「聖女の任を解かれたこと承知いたしました。
新たな聖女となられたアイリー様にお祝いを申し上げます」
エルマは温度のない声でそう言うとその場でカーテシーをした。
「まだ話は終わっていない!
エルマ、貴様は俺の婚約者の身分を悪用し国庫の金を横領した!
その上貴様は聖女の職に就いていたとき当時伯爵令嬢でしかなかったアイリーを虐げた!
アイリーを突き飛ばしたり、アイリーの頭からお茶をかけたり、アイリーのドレスを破ったり数々の嫌がらせをした!
知らないとは言わせないぞ!」
横領は冤罪だが聖女の地位を失ったお前を庇う奴はここにはいない。
「公金横領や貴族令嬢への卑劣な虐めを行ったエルマを王太子である俺の婚約者にしておくわけにはいかない!
よってエルマとの婚約を破棄する!
そして聖女アイリーを新たな婚約者とする!」
会場内に再びどよめきが起こる。
だがすぐにどよめきは歓声へと変わった。
古くからの貴族ほど平民のエルマが王太子の婚約者であることに反感を持っていたからな。
「王太子殿下との婚約破棄承知いたしました。
お二人のご婚約を心よりお祝い申し上げます」
王太子の婚約者の地位も失ってもエルマは眉一つ動かさなかった。
聖女の職と王太子の婚約者の地位を同時に失ったんだぞ?
奴はなんで落ち着いていられるんだ?
「エルマ、貴様の犯した罪は万死に値する!」
「死」という言葉にさすがのエルマも眉をピクリと動かした。
いいぞ、もっと動揺しろ!
俺は貴様と婚約したせいで「王太子の婚約者は平民の孤児」と馬鹿にされてきたんだ。
こんなことぐらいでは溜飲が下がらない!
「だが心優しいアイリーは貴様の死を望んでいない!
アイリーは己を虐げていた貴様の減刑を願っている!」
「私は竜神ルーペアト様の加護を得て聖女の地位を賜った身。
無益な殺生は望みません。
エルマ様どうか生きて罪を償ってください」
アイリーが瞳に涙をためながらそう言うと会場のあちこちから、
「アイリー様はなんと優しい」
「まるで天使のようだ」
という声が上がった。
いいぞ、もっとアイリーを褒め称えろ!
「ハッ……竜神の加護ね、笑える」
エルマの口が動いたような気がしたが俺には彼女が何を言ったのか聞き取れなかった。
「聖女アイリーの願いを聞き届けエルマの罪を減じ国外追放処分とする!」
奴のことは「元聖女の体を好きにしたい」という隣国の物好きの商人に売る予定だ。
こんな美人でもブスでもない胸がぺったんこの平民の孤児のどこに価値があるのかわからないが、欲しいと言うならくれてやる。
小遣いのたしにくらいなるだろう。俺のお小遣いに貢献できたことを感謝するがいい。
「エルマを拘束し隣国との国境まで連行せよ!」
「承知いたしました!」
俺が衛兵に命じると、エルマはその場で拘束された。
「いい気味だ」
「平民が調子に乗るからよ」
「これからは平民の泥臭いにおいを嗅がなくてすみますわね」
「平民がパーティに参加すること自体、前々から気に入らなかったんだ」
客がエルマに聞こえるように奴の悪口を言った。
いいぞもっと言ってやれ、エルマの心を折るんだ。
だがエルマは表情一つ変えず己の悪口を言った貴族の顔を一人一人じっと見つめていた。まるで悪口を言った相手の顔を記憶するかのように。
ふとエルマと視線が合った。奴は俺の顔を見て口角を上げた。
奴のエメラルドグリーンの瞳が獲物を狩るときのトカゲのように見えて背筋がゾクリとした。
「おい、何をしている!
さっさとエルマを連れ出せ!」
「承知いたしました!」
衛兵に連行されエルマは会場をあとにした。
本当はエルマを拘束したまましばらく会場に放置し嫌というほど悪口を聞かせる予定だったのだが、予定変更だ。
薄気味悪いからさっさとエルマを退場させることにした。
「皆、騒がせてしまったな!
今日は新たな聖女アイリーの就任祝いと俺たちの婚約祝いだ!
酒も肴も十分に用意してある!
存分に楽しんでくれ!」
パーティ会場はまた賑わいを取り戻した。
エルマがいなくなったあと、
「王太子殿下ご婚約おめでとうございます」
「新たな聖女アイリー様に乾杯」
俺とアイリーは招待客からお祝いの言葉を浴びるほどもらった。
俺は酒も入りとても良い気分だった。
この日を境に人生が変わるなどこの時の俺は知る由もなく俺は深夜までパーティを満喫した。
そしてパーティのあとは寝室でアイリーと朝まで楽しいことをした。
アイリーとはまだ婚約中だがどうせいつかは結婚するんだし少しぐらい味見してもいいだろう?
アイリーも喜んで俺を受け入れてくれた。
平民のくせにお高く止まり指一本触れることを許さなかったエルマとは大違いだ。
あいつは娼婦の代わりにもならなかった。
翌朝……というより起きたら昼だったのだが。
薄いガウンをまとっただけのアイリーに、本当にエルマに虐められていたのか聞いてみた。
「虐めなんてなかったわよ。
でもああ言っといた方が私への同情が集まるでしょう?」
「お前もなかなか強かな女だな。
虐めていたのはお前の方なんじゃないのか?」
「やだギャリック様ったら酷い。
私はただお友達と一緒に平民出身なエルマ様に、貴族の常識を教えてあげただけよ。
『平民出身のエルマ様にはわかりませんよね〜』と嫌味を言って、皆でくすくすと笑ったことはありますけど」
「どんな常識を教えていたのやら。
パーティでエルマが反論したらどうするつもりだったんだ?」
「もともと平民出身のエルマ様は貴族に疎まれていました。
光魔法を失ったエルマ様はただの平民。
彼女があの場で何か言ったとしても誰も耳を貸すことはなかったでしょう。
新たな聖女に任命された私を敵に回してまで平民の女を庇うお馬鹿な貴族なんておりませんわ」
アイリーはそう言ってくすりと笑った。
「それにギャリック様だってあの子に横領の罪を着せたじゃないですか。
私だけ悪者にしないでほしいわ」
「見抜いていたのか?」
「ギャリック様からの贈り物はどれも高価だったもの。
それにあなたが連れて行ってくださったお店は全て五つ星クラス。
そのお金がどこから出ているのか不思議だったのです。
王太子の使える予算の額を軽く超えていましたから」
「後ろ盾のない元婚約者は良いスケープゴートになってくれたよ」
「冤罪をかけられて会場から引きずりだされる元聖女様の姿は惨めで哀れで滑稽だったわ。
私あのとき笑うのを必死に我慢していたんですよ」
「俺もだ」
俺たちは声を出して笑いあった。
邪魔者は消えた。俺たちの未来になんの憂いもない。
だがパーティでエルマが見せたトカゲのような目だけは気になる。
まあどうでもいいか。
あいつは金持ちの商人のおもちゃとして一生を終え、二度とこの国に戻ってくることはないんだから。
このとき俺は、エルマの瞳に抱いた違和感についてもう少し考えるべきだったんだ。
☆☆☆☆☆
異変はパーティの数日後から始まった。
と言ってもアイリーが王太子妃の教育係と揉めたり、エルマに押し付けていた王太子の仕事が俺に回ってきて忙しくなったり……最初はその程度のことだった。
アイリーと婚約する前は貴族の令嬢である彼女の方が、平民のエルマより王太子妃教育を完璧にこなせると思っていた。
だがアイリーは十八年間「伯爵令嬢」として教育を受けてきてしまった。
アイリーがもう少し若かったなら、もしくは彼女が公爵家の令嬢なら問題なかったのだろう。
アイリーは上流貴族のマナーと中級貴族のマナーの違いに戸惑っていた。
ついには、
「私は伯爵家のマナー教師に『あなたのマナーは完璧です』ってお墨付きをいただいたのよ! 今さらマナーについて習うことなんてないわ!」
と言って王太子妃教育を担当する女とケンカしてしまった。
「ギャリック様、あの女をクビにしてください!」
アイリーは執務室に駆け込んできて、俺に泣きついてきた。
教育係は俺の執務室までアイリーを連れ戻しにきた。
「先代の聖女であられたエルマ様は素直にわたくしの言葉を聞き熱心に王太子妃教育に打ち込んでおられました。
殿下からもアイリー様にもっと真剣に王太子妃教育に励むように注意してください」
そしてあろうことかエルマとアイリーを比べアイリーを侮辱したのだ。
これにアイリーがブチ切れて癇癪を起こして部屋中の物を壊しまくった。
貴族のアイリーが平民のエルマと比べられ劣っていると言われたんだ。彼女がキレたくなる気持ちも分かる。
アイリーに癇癪を起こされるのが面倒で俺は教育係をクビにした。
彼女は隣国にいる親戚のところに行くと言っていた。
次の日俺は新たな教育係を雇った。
そいつにはマナーは後回しでいいからアイリーが一日も早く王太子妃の仕事をこなせるようにしてくれと伝えた。
俺は王太子と王太子妃、二人分の仕事をこなさなくてはならず遊ぶ暇もないほど忙しい。
一刻も早くアイリーに王太子妃の仕事が出来るようになってもらわないと!
こんなことならアイリーが王太子妃教育を終えるまでエルマを引き止めておけばよかった。
いやエルマを側室にして仕事だけさせればよかった。そうすれば俺はアイリーと遊んで暮らせたのに。
今ごろエルマは隣国の金持ちのおもちゃになっている。
穢れた体では王太子の側室にはなれない。
もっとよく考えてからエルマを手放すべきだった。
仕事のストレスが溜まっても金がないから、買い物もできないしレストランを貸し切っての豪遊もできない。
エルマがいた頃は国庫の金を着服し遊ぶ金に遣って彼女に濡れ衣を着せられたのに。
☆☆☆☆☆
アイリーと婚約してから一カ月ほど経過したある日。
司教がアイリーに面会を求めてきた。
なんとなく気になったので俺も同席した。
司教が言うには先代の聖女のエルマは光魔法で怪我人の治療をしていたという。
あいつ王太子妃教育と王太子妃の仕事と王太子の仕事の合間にそんなこともしていたのか、初耳だ。
司教はアイリーにも聖女の務めを果たして欲しいと言ってきた。
アイリーは「王太子妃教育が忙しいから無理よ」ときっぱりと司教の申し出を断った。
「そこをなんとかお願いします」
だが司教はしつこく食い下がる。
司教はなぜこの件にここまでこだわるのか?
それにエルマが治療行為をしていたことを婚約者である俺に秘密にしていたのも引っかかる。
俺は司教が持っていた治療者のリストをひったくった。リストに書かれていたのは貴族の名前だけだった。
その時俺はピンときた。
「司教様、エルマに貴族の治療をさせ金を稼いでいましたね?
答えてください!」
司教は最初はすっとぼけていたが俺が問い詰めるとようやく白状した。
奴はエルマが孤児であることにつけ込み貴族の怪我や病気を治療をさせていたのだ。
司教は貴族から多額の治療費を受け取り半分を教会の運営資金に、残り半分を己の懐に入れていた。
エルマは両親を亡くしたあと教会で育った。
エルマは教会へ恩義があったので司教からの頼みを断れなかったのだろう。
エルマから聖女の地位を剥奪すると言ったとき教会が難色を示した理由はこれか。
「お願いしますアイリー様!
教会を助けると思って治療を引き受けてください!」
「私は生まれつきの貴族、教会を助ける義理はありません。
孤児だった先代の聖女にしていたように情に訴えてこき使おうとしても無駄ですよ」
泣いてすがる司教をアイリーは冷たくあしらった。
「そう冷たくするなアイリー。
司教様も困っているじゃないか。
光魔法を使ってぱぱっと助けやったらどうだ?」
「ですがギャリック様、このリストに書かれている人間を全員治療したら日が暮れてしまいます。
ただでさえ王太子妃教育で忙しいというのにそんな暇はありません」
「リストに名前のある人間全員を治療する必要はない。
高位貴族だけ治療すればいい」
「ギャリック様は私にただ働きをしろとおっしゃるのですか?」
「ただで治療してやる義理はない。
司教様、リストにある貴族を治療する代わりに彼らが支払った治療費の九割をこちらに回してもらいましょうか」
「き、九割も回したら教会の取り分がなくなってしまいます!
治療する貴族の数を減らすだけでも収入が減るのに」
「その時は治療費を十倍にでも二十倍にでも釣りあげればいいんですよ。
彼らは治療が必要な家族を抱えています。
こちらがいくらふっかけても提示した金額を支払いますよ。
金を払えない貴族はリストから外せばいいんです。
患者はいくらでもいるのですから」
「わかりました。
殿下のおっしゃるとおりにいたします」
「アイリーも引き受けてくれるだろう?
金があれば前のように大きな宝石のついたアクセサリーを買えるし、一流店を貸し切って豪遊もできるぞ」
「そういうことなら協力いたしますわ」
「よし決まりだ!」
「殿下、聖女様、引き受けてくださりありがとうございます。
ですが殿下、取り分が一対九というのはどうにも……」
司教との交渉の末、取り分は三対七で決まった。
もちろん俺たちが七割もらう。
公金の横領が出来なくなって懐が寂しかったんだ。いい金づるを手に入れたぜ。
これでまた高価な宝石を買い一流の店を貸し切り豪遊ができる。
王太子という身分はストレスが溜まるからな息抜きも必要だ。
それからアイリーには一日数時間、高位貴族の治療に当たらせた。
光魔法で病人や怪我人の治療するだけで大金を得られるなんて光魔法様々だな。
竜神ルーペアトもアイリーに良い能力を授けてくれたものだ。
この時の俺は目の前の大金に目がくらみ破滅の足音が近づいていることに気づきもしなかった。
☆☆☆☆☆
先代の聖女エルマを追放してから一年が経過した。
俺は一年の婚約期間を経てアイリーと結婚した。
アイリーとは婚姻前から契っていたので今更なところがあるがそれでも初夜は燃えた。
余談だがアイリーの王太子妃教育はあまり進んでいない。
婚約してからわかったことだが彼女は勉強も仕事も好きでないようだ。
高位貴族の治療を請け負い大金が入ってくるようになってから、彼女は王太子妃教育をサボるようになった。
治療を勧めたのは俺だがもう少し真面目に王太子妃教育に取り組んでほしい。
新婚気分が落ち着いたら側室を娶ることにしよう。
下位貴族のガリ勉女を側室にして仕事だけさせる。
下位貴族の娘なら城での待遇に不満があっても何もできないだろう。
エルマと同じように使い潰して用済みになったら適当な金持ちに下げ渡してやる。
簡単に手に入らないものを欲しがる物好きな金持ちは多い。
元側室のブランドのついた女はいくらで売れるかな?
側室を何人か娶ってもいいかもしれない。
あるものには仕事をさせ、あるものは娼婦の代わりに抱く。
側室が年老いてきたら適当な理由をつけて家臣に下げ渡せばいい。
俺の仕事を代わりにしてくれて、娼婦の代わりになって、最後は俺の小遣いになる。
最高だな、笑いが止まらないぜ。
「ギャリック様、何を考えてるんですか?
お顔がにやけてますよ」
「側室をもうけて仕事だけさせようかと思ってな」
「それを新婚初夜に花嫁に言いますか?」
「嫌なら王太子妃教育を頑張るんだな」
「それを言われると辛いですわ。
いいですよ、側室をもうけてください」
「やけに素直だな」
「金のなる木の私をギャリック様は手放さない。違いますか?」
「君を手放さない理由はそれだけじゃない。
アイリーは俺の初恋の相手だ」
「あらお上手ね。
『真実の愛』の相手と付け加えてくれたらもっと良かったわ」
「君は真実の愛の相手だよ」
「あらありがとう。
それはそれとして側室虐めって楽しそうじゃない?
いいストレス解消になりそうだわ」
アイリーはネズミをもてあそぶ時の猫のような顔をして言った。
女の嫉妬は怖いな。
「最後には適当な理由をつけて家臣に下げ渡す予定なんだ。
虐め殺すなよ」
「気をつけます。
でも保証はできませんわ」
アイリーは邪悪な笑みを浮かべる。美人はどんな表情をしても絵になるな。
俺は結婚式の余韻にひたり時おり花嫁と悪巧みをしながら初夜を楽しんだ。
翌日から地獄の日々が待ち受けているとも知らずに……。
☆☆☆☆☆
結婚式の翌日、寝室のドアが乱暴に開かれ、側近をぞろぞろと連れた父が入ってきた。
「きゃあっ!」
服を着ていなかったアイリーが悲鳴を上げる。
結婚式の翌日なんだ。部屋に入る前にノックぐらいしてほしい。
夫婦が寝室で何をしていたかくらい父だって想像がつくだろう。
「父上!部屋に入るときはノックぐらいしてください!」
「そんなことはどうでも良い!
アイリー、そなたには聖女の力はあるのか?
あるなら今ここで使ってみせよ!」
「何を言っているんですか父上!
アイリーが怪我人を治療するところを父上だって見たことがあるでしょう!」
「余は過去の話をしているのではない!
今この女に聖女の力があるかどうか問うているのだ!」
父は虫のいどころが悪いようだ。なにか悪いものでも食べたのかな?
「とにかく服ぐらい着させてください。
結婚式の翌日に皆で寝室に押しかけて来るなんて失礼ですよ!」
「その女をドレスアップさせている暇などない!
どうしてもと言うならガウンでも羽織れ!」
俺とアイリーはガウンを羽織ることを許された。
ガウンを一枚羽織っただけのアイリーも色っぽい。
俺たちはその格好でソファーに並んで座らされた。
家臣が大勢いるのに王太子と王太子妃をガウン一枚でいさせるなんて父は何を考えているんだ?
「アイリーに誰を治療させればいいんですか?
この部屋に怪我人はいませんよ、父上」
「剣をよこせ」
父は衛兵から剣を受け取ると鞘から剣を抜き迷わず俺の左腕を斬った。
「父上! 何を……!」
左腕に激痛が走る!
「さあアイリーよ。聖女の力が使えるなら今すぐギャリックの怪我を治せ。
浅く斬ったとはいえこのまま放置すればギャリックの左腕は使い物にならなくなるぞ」
アイリーは真っ青な顔でガタガタと震えている。
育ちの良い彼女は目の前で人が斬られるところなど見たことがないのだ。
「さあ、早く息子の怪我を治せ!」
「頼むよアイリー!
助けてくれ!」
アイリーはガタガタと震えながら俺の腕に手をかざした。
彼女が怪我人を治療する場面には何度も立ち会ってきた。アイリーの手から光が出てたちどころに患者の怪我が治るんだ。
だがどんなに待っても彼女の手が光る事はなかった。
「アイリー頼むよ! 真剣にやってくれ!」
俺の腕からはどんどん血が流れていく。
このままだと出血多量で死んでしまう!
「やっています!
でも全然力が出なくて……!」
アイリーの額には脂汗が滲んでいた。
こんなに必死な彼女を見たことがない。
「もう良い。分かった。
侍医よ、息子の腕を治療をしろ。
この女は役に立たん」
「承知いたしました」
部屋の隅に控えていた医者が俺のガウンの袖を破り傷口の消毒を始めた。
「痛っ……!」
消毒薬が傷口に染みて俺は泣きそうになった。
「お待ち下さい陛下!
寝室にこんなに大勢で押しかけて来られたので動揺して力が出せなかっただけです。
少しお時間をいただければ必ず……」
アイリーは父の腕にすがりついた。
「言い訳せずとも良い。
そなたが聖女の力を失ったことは知っている。
余はその確認に来たにすぎん」
父は彼女の手を振り払い冷たくそう言い放った。
「それはどういう意味ですか……?」
俺は医者の治療を受けながら父に尋ねた。
「そのままの意味だ。
朝寝坊のお前らは知らんようだが今朝早く竜神ルーペアトより神託が下った。
いや、託宣というよりはこの国の国民に対する絶縁状だな」
神がこの国に絶縁状を送ってきた?
「どういうことですか父上?
詳しく説明してください!」
医者は俺の治療を終え部屋の隅に戻って行った。
傷口の血は止まったが斬られた腕がズキズキと痛む。
「宰相よ。竜神ルーペアトが全国民に送ったメッセージを、そこにいる馬鹿息子とその嫁に読んで聞かせろ」
「はい、陛下」
宰相が俺の前に来て手に持っていた巻物を広げる。
「陛下の命により、竜神ルーペアト様の神託を読ませていただきます。
『あー、あー。
この国の民よ、久しぶり〜。
僕と交流のあった民は二百年以上前に死んじゃったからはじめましてかな?
君たちが竜神と呼んでいるルーペアトだよ。
前置きはすっ飛ばして単刀直入に言うね。
君たちは僕が加護を与えた少女エルマを蔑ろにしてきたね。
教会は彼女が孤児であることにつけ込み王室に内緒で貴族の治療をさせ、多額の治療費を受け取っていた。
【孤児であるお前を引き取ってやったのは誰だと思っている。
お前が治療を断れば孤児院がいくつも潰れお前と同じ身の上の子供たちが路頭に迷うことになるぞ】
と言って彼女を脅してね。
王族はエルマの力を取り込むために彼女を馬鹿王太子の婚約者にした。
馬鹿王太子は彼女のための予算で伯爵令嬢に宝石やドレスを買ってプレゼントし、予算が足りなくなったら公費に手を付けその罪を彼女になすりつけた。
それから王太子の仕事を彼女にやらせていた。
王室の使用人は【平民の孤児のくせに】と言って彼女を見下し、彼女の部屋を掃除しないし、冷えたご飯を出すし、バスタブには真冬でも水を入れた。
平民は【平民の出のくせに俺たちの治療をしないケチ聖女】と言って彼女を罵った』」
宰相が読み上げた内容の中には俺の知らないこともあり、エルマが使用人にまで邪険にされていたとを俺はこのとき初めて知った。
俺はあいつのことに興味がなかったから。
「竜神ルーペアト様のお言葉はまだ続きます。
むしろここからが本題です。
『僕は心優しい彼女に幸せになって欲しかった。
だから彼女に光魔法を授けた。
だけどその結果彼女は汚い大人に利用され傷ついただけだった。
だから僕は彼女から光魔法を取り上げ保護することにしたんだ。
彼女の代わりに王太子と幼い頃から両思いだった伯爵令嬢に一時的に光魔法を授けてね。
光魔法を失ったエルマはすぐに僕が保護したから、君たちがエルマだと思って接していたのは彼女に化けた僕だよ。
真冬の水風呂に冷えきった腐りかけのご飯。
王太子から回された大量の仕事の処理。
光魔法を失ったことを責める教会の関係者。
光魔法を失った途端ゴミを見る目を向けてきた国王や大臣たち。
それからパーティで王太子と伯爵令嬢に冤罪をかけられ、パーティに参加した貴族からは冷ややかな視線を向けられ、一部の貴族からは罵詈雑言を浴びせられた』」
宰相はそこまで読んでふーと大きく息を吐いた。
一年前、パーティで見たエルマのトカゲのような目が気になっていた。あれは被食者ではなく捕食者の目だった。
あのときから俺は……いや俺たちは竜神ルーペアトの手のひらの上で転がされていたというのか?
神が人を騙すなんて……!
「宰相、続きを読め」
「承知いたしました。
『衛兵にパーティ会場から連れ出されたあと僕は罪人の乗る荷車に乗せられた。
王都の住人は平民に至るまで、先代の聖女の罪状をすでに知っていたようだった。
【光魔法を失った偽物の聖女】
【公金を横領していたクズが! 俺たちの納めた税金を返せ!】
【新たに光魔法を授かった伯爵令嬢を虐めていたんだってな! このろくでなし!】
などなど……民衆に散々酷い言葉を言われて石を投げられたよ。
一人が僕に向かって石を投げると周りにいた民衆も石を投げ出した。
たくさん石と罵声のプレゼントをもらったよ。
でも一つ気にかかることがあるんだ。
エルマの罪はパーティで暴かれたばかりなのに……まあ冤罪なんだけど。
なぜ民衆がエルマにかけられた罪状をこんなに詳しく知っていたのかな?
まるで誰かにそう言うように仕組まれていたみたいだったよ』」
エルマを売った隣国の商人には嗜虐趣味があり、
「元聖女様の心が完全に折れた状態で私の前に連れてきてください」
と言ってきたのだ。
だから俺は罪人用の木の柵のついた荷車にエルマを乗せるように指示した。
予めエルマを乗せた荷車が通るルートを決めておいて、人通りの多い道に仕込んだ男たちにエルマの悪口を言わせ石を投げさせた。
民衆にエルマが悪人だと印象付けるために。
俺が仕込んだ人間はそう多くない。
一人が罪人に向かって石を投げれば他の奴らもそれにつられて石を投げると思ったんだ。
自分より弱い者を虐めてストレス解消するために。
「まだ続きがあるので読み上げます。
『そして荷車が行き着いた先は北の森。
そこで僕を出迎えたのは、はげ上がってお腹が出た中年の男だったよ。
隣国の商人だと名乗るその男は、【王太子に大金を払って元聖女を売って貰った】と言っていたな。
そいつは【高い地位にいた者がその地位を失い平民のわしにすがってくる姿を見るのが好きなのだ。幸せの絶頂から突き落とされたとき人はとても良い顔をするからね】と言ってゲフゲフ笑う糞野郎だったね。
それから【ここで味見をするか】と気持ち悪いこと言ってきたから、彼の大事な物を消滅させリウマチと痛風になる呪いをかけといた。
沿道で石を投げてきた男たちと荷車を運んだ衛兵も同じ呪いをかけておいたよ。
僕のかけた呪いは光魔法でも消せないからね。
彼女を虐げてきた人間全員に同じ呪いをかけてやっても良かったんだけど、商人が言っていた【幸せの絶頂から突き落とす】という言葉に感銘を受けてね。
王太子が結婚するまで猶予をあげることにしたんだ。
エルマを虐げたことに心当たりがある者は気をつけたほうがいい。
今日からじわりじわりとあちこちが痛み出すよ。
王太子と王太子妃に僕の言葉は届いているかな?
幸せの絶頂から突き落とされた気分はどうだい?
自分たちが犯した罪が白日の下に晒されて今どんな気持ち?』」
「宰相の読み上げた言葉が全ての家の窓ガラスや鏡に映し出されたのだ。
文字の読めない者のためにご丁寧に音声付きでな」
俺の体はカタカタと震えていた。
俺もこれからリウマチと痛風にかかるのか?
もしかしたら大事なものの消滅も……!
「ち、父上これは誰かのいたずらです!
俺はこんな非道なことしていません!」
「そうですわ!
誰かが私たちに濡れ衣を着せようとしているのです!」
「愚か者どもめ。
竜神ルーペアトは証拠を提示したのだ。
お前たちが寝室で前聖女を嵌めた発言をした場面と、
高位貴族の治療を請け負う代わりに多額の見返りを受け取る密約を司教と交わした場面が、
映像と音声付きで国中に流れのだ!」
父の言葉に俺の心臓は凍った。
隣にいるアイリーが息を呑む音が聞こえた。
「宰相、竜神ルーペアトの最後の言葉を馬鹿共に教えてやれ」
「はい、陛下。
『僕のお気に入りの子を虐めるような奴らには力を貸してあ〜〜げない。
今日でこの国の神様を辞めるからあとは勝手にやって。
あっかんべ〜〜!
べろべろべ〜〜!』
これが竜神ルーペアトの最後お言葉です」
竜神なんて呼ばれているからルーペアトは聖人君子のたぐいだと思っていた。
「あっかんべ〜〜!」なんて俺でも言わないぞ。子供かよ!
「すでに各地の結界が消滅しモンスターによる被害が報告されている。
神はこの国を見捨てたのだ。
お前たちのせいでな!」
父が氷のように冷たい目で俺を睨んだ。
「お……俺たちだけのせいですか!?
使用人だってエルマに酷いことをしていました。
大臣だって彼女を蔑ろにしていたし、貴族だってエルマを軽んじていた。
父上だって俺が彼女を邪険に扱い奴に仕事を押し付けていたことを知っていたじゃないですか!
それに一年前のパーティでエルマを断罪し国外追放することを許可したのは父上です!
なのに俺たちだけを責めるのですか!」
「煩い、黙れ!
お前がエルマの婚約者の務めを果たし彼女を大切に扱っていたらこうはならなかったのだ!
お前がエルマを軽んじるから貴族や使用人もあの子を軽んじてもいい存在だと認識し、彼女を虐めていたんだろうが!」
「俺が間違っていることをしていたなら父上が注意してくれればよかったんです!」
「煩い、とにかく全部お前たちが全部悪い!
婚約者がいるのに浮気をした男と婚約者がいると知りながら近づいた女!
ギャリックは公金を横領しその罪をエルマに着せ、アイリーはエルマに虐められていたと嘘をついた!
お前たちの罪は重い!
余はお前たちを罰し神の怒りを鎮めねばならん!
衛兵、この二人を捕えよ!
そして牢屋に連れて行くのだ!」
父の命令を受けた衛兵が俺とアイリーを拘束した。
俺たちはガウンしか着ていないのに……こんな格好のまま牢屋に入れるというのか?!
せめて着替えさせて靴を履かせてくれ!
「酷いです!
俺にだけ罪を着せるなんて!」
「そうです!
私たちだけが悪いんですか!」
「お前たちは罰せられて当然のことをした!
牢屋で頭を冷やせ!」
父に俺たちの言葉は届かなかった。
俺とアイリーはそれぞれ別々の牢屋に入れられた。
貴族用の牢ではない。一般人の入る地下の暗くて水はけの悪い汚い牢屋だ。
俺の話を一切聞かなかった父にも腹が立つが竜神ルーペアトも癪にさわる!
エルマから聖女の力を奪い俺たちがエルマを邪険に扱うように仕向けるなんてあんまりだ。
ルーペアトの詐欺師! ペテン師!
苛立ち紛れに壁を蹴ったら足の指の爪が剥がれた。靴を履いてないのを忘れてた。
踏んだり蹴ったりだ。
まぁ……俺たちがエルマを邪険に扱っていたのは彼女が聖女の力を失う前からだけど。
牢屋にいる間暇なので昔祖母から聞いた神話を思い出していた。
竜神ルーペアトは三百年前この地に降り立ち以来ずっとこの地を守ってきた。
ルーペアトは神族ではなく竜人というとても強い力を持つ物凄く長生きな種族だったと聞いている。
彼はこの国を覆う結界を張り、雨を降らせ、土地を豊かにし作物の成長を助けたと言い伝えられている。
ということは……竜神ルーペアトの年齢は三百歳を超えているのか?
対して彼のお気に入りのエルマは十八〜十九歳。
何百歳年下の人間に懸想してるんだよ、このロリコン!
そういえば祖母はこうも言っていたな。
「竜神ルーペアト様への感謝を忘れてはいけないよ」と。
年に一度の祭礼のとき僕は竜神に心から祈りを捧げたことがあっただろうか?
豊かな国の第一王子に生まれ幼いときに立太子し、王になるのが当たり前で神に感謝したことなど数えるほどしかなかった。
祖母が生きていた頃の祭礼はとても華やかだったのを覚えている。
祖母の死後祭礼の予算は年々削られ祭りの規模は縮小、それにともない竜神への供物の量も減った。
だから……天罰が下ったのだろうか?
人々が竜神への感謝を忘れたから……?
暗く狭い檻の中ではすることもなく。僕はネガティブなことばかりをぐるぐると考えていた。
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一年後。
地下牢でリウマチと痛風に苦しんでいた俺は帝国の兵に引きずり出された。
そしてこの国がモンスター退治に戦力を傾けている間に帝国に攻め入られ、あっという間に負けたことを教えられた。
王国の聖騎士と兵士と王国の雇った冒険者などが力を合わせ、モンスターの大半を倒したまでは良かったのだが。
皆が疲れ切ったところを帝国に攻め込まれたのだ。
戦士の大半がリウマチと痛風に苦しんでいた。あの状態で一年間もモンスターと戦えたものだと帝国の兵士が感心していた。
牢屋から連れ出された俺はまっすぐ処刑場に連れていかれた。
そこには父やアイリーや宰相や司教の姿があった。
彼らの衣服はボロボロで髪は乱れ靴も履いていなかった。
皆諦めた顔をしていたがアイリーだけは「嫌よ! 放して! 皇帝に会わせて! 美しい私を見たら妻にしたくなるはずだわ!」みっともなく騒いでいた。
彼女の艷やかで長く美しかった髪は短く切られ、頬はこけ、肌はボロボロ、目の下にくまができている。
かつて絶世の美少女ともてはやされたアイリーの面影はどこにもない。
そんな状態でよく自分は「美人だから皇帝に愛される」なんて思えるものだ。彼女の自己肯定感の高さには呆れるよ。
あんな姿を見たら百年の恋も冷める。
ギロチンにかけられたとき俺は初めて心の底から神に祈った。
竜神ルーペアト様、俺たちの犯した罪を謝ります。
心から反省しています。
どうかいま一度、俺たちに竜神の加護をお与えください。
―――終わり―――
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この作品の続編を投稿しました。こちらもよろしくお願いします。
【短編】「神様を辞めて不良になる!〜僕のお気に入りの少女を虐める奴らなんて助けてあげない」
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