激高のバーメイド
私はキレている。激おこぷんぷん丸を通り越して、げきオコスティックファイナリアリティぷんぷんドリームである。
だってこのオサレ空間を汚されてんだから。
「びぇぇぇぇぇぇん。ぴえん超えてぱおんでござるぅぅぅぅぅ」
私のバーで流れるオサレなジャズを不協和音に変えるこの泣き叫ぶ男。
イライラを静めるためカクテルをシェキシェキする。うん、意味なかった(知ってた!)。
共鳴してるのがダメなんだ。ジャズ切ろう。
「びぇぇぇぇぇぇん。ぴえん超えてぱおんでござるぅぅぅぅぅ」
結論。不協和音ではなく、この男があまりにも不快なだけだった(知ってた!)。
もぉぉぉぉ。ぴえんなのはこっちじゃボケ。閉店だからはよ帰らんかスットコドッコイ! こちとら自営業だから残業代でないんじゃ!
心で嘆いても男が出てく気配はないわけで。
私はよっこらしょういちと重い腰をあげた。誰がデブじゃ。
「私でよければ、お話聞きますよ?」
私ってば天使だからぁ。普通なら問答無用で追い出すところだけどぉ、話を聞いてあげちゃう。
この男がちょっと私の直球ど真ん中ストレートのイケメンで、私の月収二ヶ月分のスーツを着ていることなんてもちろん関係ないわよ。いや本当に。はぁ、早く結婚したい。
「ぼ、ぼんどでずがぁ(ほんとですかぁ)」
男はドゥビドゥバしてる鼻をチンしてヒッヒッフーと息を整える。なに妊娠しとんねん。
「実は大切な家族の話なんだけどね」
なるほどなるほど。パピーかマミーの話ね。
「彼女は……」
なるほどなるほど。マミーを彼女っていうタイプね。大丈夫マザコンとか気にしない!
「琴音は……」
あらあら絶対音楽好きな名前ね。オサレなジャズかけて待ってるから連れてきなさい。
「まだ若いのに、」
はぁぁぁぁぁぁぁい、解散! 彼女? 若い? そんなの絶対奥さんじゃん! もう愚痴と書いてノロケと読むやつはうんざり!
「あの、なんか帰ろうとしてません?」
「それ今日は帰さないゾってこと?」
「は、はぁ?」
「こほん。続けなさい」
天使だから最後まで聞いてあげるわよ! 今日だけだかんな! 明日はないかんな! はしもとかーんな!
「はぁ。その彼女を、病気で失ったんです」
「びぇぇぇぇぇぇん。それはぴえん超えてぱおんだわぁぁぁぁぁ」
「そうやって泣いてくれると、うかばれます」
「ひっく。どりあえずおざけでも飲みなざい」
「ありがとうございます。彼女のとびきりの写真、どうか見て行ってください」
びしゃーん。私は注いでた酒をぶちまけた。
「いやハムスターかい!」