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第6話  課長は百戦錬磨

如月明日香は自分では平社員といっているが、異世界転生課でもNo2のベテランである。

ほぼ退職のない不老不死たち魑魅魍魎のいる三途の川役所なのだ。昇進はまず見込めない。ちなみにNo1は課長の睦月太郎である。

この課には12人のメンバーがいる。もともと苗字のなかった彼ら彼女らは、転生課で働くことが決まってから旧暦月の苗字があてられた。

転生課ができる前は、地獄の獄卒で活躍していた。

如月明日香も、課が出来たころは、態度も仕事のスピードもなにもかも悪かった。


「…、異世界転生課ですぅ」


ぶっきらぼう。笑顔もない。めんどくせーって感じがアリアリと出ている。


「え?ここはどこですか?」

「うっせーな、テメーは死んだんだよ。とっとと行先きめろや」


ちなみに、すべての窓口での会話は品質向上と記録のためカメラで撮影されているのだ。

新人研修のたびに悪い見本としてこの録画が放映される

成長した明日香にとってそれは拷問なのだが、今回はその録画を特別に皆様にお届けしたいと思います。


「ええ?死んだ?信じられない!さっきまで会社で残業してたんだ。まだ作業が終わっていない。早く会社に戻らなきゃ」


鞄を手に取りどこかへ行こうとする会社員。

あーっと、コイツの名前は杉下か。


「だぁーから無理だっつってんだろ。あんたは脳から出血して死んだの。おわかり?」


明日香は爪をいじりながら事もなげに言う。


「そんな!困りますよ!家のローンはまだ36年も残ってるし、息子はまだ5歳なんだ。早く帰してくれ」


みるみる怒気をはらんでゆく杉下氏。


「そら残念だったなぁ。来世で長生きしな」


まるで捨て台詞を吐く明日香。


「はぁ!?なんですか貴方!どうしてそんな言い方ができるんだ!上司を呼べ!」

「はぁ~?まじかよ。わぁったよ。連れてきてやんよ」


しばらくして、睦月太郎がやってくる。


「いやいや、このたびは部下がご迷惑をおかけしたようで申し訳ございません。」

「この女性は私が死んだなんて言うんですよ。頭おかしいんじゃないんですか?」


んだとーっと目で威嚇する明日香。


「残念ながら、杉下様はクモ膜下出血で…、間に合わずお亡くなりになりました」


とても残念そうにお辞儀をする。


「なん…だって…」


その場に腰が抜けてへたり込む杉下氏。


「突然のことなので、ご混乱されていると思いますが、これが真実でございます」

「嘘だろ…」

「本当なのです。あなたに残された道は一つ。新たな生を得て、異世界に転生することなのです。」

「天国とか、地獄にいくんじゃないのか?」

「天国も地獄も閉鎖されました。ですので、こちらで転生の手続きを取っていただきます」

「残された、家と妻、子どもはどうなる。」

「幸い、杉下さまの生命保険が下りましたので、当座の資金は問題ないかと思われます」

「そうか…俺、死んじまったのかよ。生き返る方法はないのか?」

「残念ながらございません。火葬されたあと、皆様こちらに来られますので」

「ふ、、、はは。ごめんな。よしこ。翔。とーちゃん死んじまってな」


涙を流して悔しがる杉下氏。

明日香もこれには少し申し訳なく思ったようで、少し反省した様子を見せる。


「お悔みと葬儀代で、異世界におけるスキルと呼ばれるモノもお付けいたします。どうぞ次の世界では、お身体を大事にお使いください」

「ああ。そうさせてもらうよ。」

「ご希望の転生先はありますか?」

「あ、ああ、そうだな。休みもなく働いて旅行にも行けなかったからな。南国のプライベートビーチみたいなところでゆっくりしたいな」

「かしこまりました。ご希望のスキルはございますか?」

「身体を大事にっていわれたからな。頑丈な身体になりたい」

「かしこまりました。では、杉下様が向かうのはエンダルタ。その南国の美しいビーチがあるところに転生いたします。スキルは【疾病耐性LV3】これで風邪その他病に対する耐性がつきました」


サラサラと異世界転生用紙に記入していく。手元が見えないほどの神速であった。


「ありがとよ」


その場に砂嵐が舞い、杉下氏は消えていく。


「あ、キレイな嬢ちゃんも、怒ってすまなかったな」

「お、よせやい、照れるじゃねーか」


笑顔で見送る明日香。

ちょっぴり寂しいなと思いつつ、隣の課長を見る。

怒られると思ったが、課長もニコニコしていた。


「よい人でしたね。貴方もいつか、今みたいにありがとうと言われるような所員になってください」

「お、おう。頑張るぜ」

「ええ、ええ、頑張ってください。キレイなお嬢さん」

「あ、コラ課長!バカにしてんだろ!」


ほーっほっほっほほ




「ぐはっ」


明日香は吐血するマネで倒れこむ。


「な、なんでこんな録画みてるんですか!恥ずかしい!死んでしまいます!」


映写室で会議するからお茶を人数分もってきてと言われて持ってきたらコレだ!

恥ずかしい!消してしまいたい記憶!


「ん~、如月くん、よかったね。特別ボーナスだよ」


ニコニコ顔の課長。急になんの話ですか?


「杉下氏ね。今回、エンダルタに広がった疫病を、自分のスキル疾病耐性からワクチン作って、蔓延から世界を救ったらしい。だから、担当した君にボーナスだよ。」

「え?待ってください。確かに私が担当でしたが、最終的に案内したのは課長ではないですか?」


頭がハテナな明日香であった。


「いいのいいの。担当したのは確かに如月くんだよ。ボクのことはいいから、貰ってやってくれ。現地に行った調査員からも、杉下氏から「嬢ちゃんによろしく」と言伝もらってるから。みんなに回せるお金回してるだけだよ。僕は。」


か、課長!思わず眼頭が熱くなる明日香。

一生ついてゆきます!


こんなことがあるから、課長への信頼は課全体で強い。



続く



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