第4話 後輩ってカワイイもんじゃない?
明日香はよく寝坊する。そして昨日もよく飲んだ。
今日も今日とて寝坊した。今頃楓のほうも寝坊してないだろうか。ざまあみろっ!
仕事場までチャリで爆走する。いくら近いからといって、始業ギリギリ間に合わない感じだ。
「先輩!遅いですよっ!」
役所に繋がる一本道の途中にニコニコ笑顔のちみっこい少女がいる。彼女も紺のパンツスーツを着ていることから、会社員であろうことがかろうじて見て取れる。スーツを着ていなかったら、未成年にしか見えない。
明日香はあろうことか、話しかけてくる後輩をガン無視して役所に突っ切った。
遅刻が怖いからである。
もうあれだ。バビューンという音とともに横を素通りした。
「あれー??」
取り残された後輩ちゃん。ひくつく笑顔。
遅刻を心配して、キコキコと追いかける。
「はい、みなさん今日も、いい転生先を探してあげてください。」
課長の朝礼が終わると同時にバタンとドアを開けて着乱れた明日香入場。
「こら明日香。遅刻なら事前に連絡いれなさいって言ってるでしょ。」
楓の小言に荒い息で返す明日香。くそっ、なんで楓はすがすがしい顔してんだ!昨日の酒量は明らかにオーバーペースだったろうがっ!
「えーっと。卯月くんがまだきていませんね」
課長が卯月を探している。
「卯月なら、私の後にきます~。置いてきました~」
「後輩を置いていかないようにね」
課長にまで小言を言われてしまった。
さて、もう始業しているのだ。仕事モードにならねばと息を整える。
「ようこそ、異世界転生課です。お望みとあらばどんな世界にだって転生させちゃいます!さあ、貴方のご要望はどんな世界ですか?」
「お、なんだって?」
今日のお客さんはお婆ちゃんでした。
「お婆ちゃん、亡くなったのよ。わかりますか~?」
「え~、え~、わかってますよ~。今日の夕飯は麻婆豆腐ですよ」
「違いますよ~、お婆ちゃん。死んだの~!」
「は~い。ありがとう~」
ダメだ。話が通じないくらいおボケになっている。
え~と、タマさんか。
こういう場合、なにも考えず、強制転生なんだよな…。
カリカリと書類にペンを走らせようとする。
「私はねえ、戦争で家族みんな死んじゃったんだよ。だから寂しくてねェ」
「B-29の爆撃がずっと続いてるんです。耳の中でずっとドカンドカンっていってるのよ」
「そうですか。お辛かったですね…もう大丈夫ですよ」
二度と戦争に遭わなくていい世界へいってほしい。
「転生先はイヤースリング。戦争のないのどかな世界。スキルは【長生き】【ボケない】」
タマさんは光に包まれて消えていった。
「先輩、優しいんですねっ」
卯月かなえが飛びついてくる。
「先輩は辞めてよ!同じ平社員なんだから上も下もないの」
しがみついた卯月を引きはがす
「明日香先輩が先にこの職場にいるんですから、先輩ですよ~!」
ババア扱いされたくねェんだよ!
「あの人の息子さんやお孫さんは元気みたいですね。幸せになってほしいですね」
卯月はタマさんを心配していた。
「そうね」
普段なら他人の転生に興味はないが、タマさんの行く末は明日香も少し気になっていた。
「ところで先輩、ごはんおごってください」
「やだよ!なんで奢らなきゃいけないのよ」
「朝、私を置いていきましたよね」
じと目で見てくる卯月。こればかりは悪いのは明日香である。
「だ~もう!わかったわよ!奢ればいいんでしょ!?」
「やった~!」
一気に花丸笑顔に変わる卯月。
あんまり酒は飲まないが、よく食うのだこの女は。
財布のお金が心配だ…
「おや、今日は卯月も一緒に飲みに行く?」
ちょうど楓も業務を終えて顔を出してきた。
「はい!楓先輩!」
今日は3人で飲みに行った。
まったく、余計な出費である。
続く。