第12話 にほんご
「日本語って難しい。」
居酒屋での明日香の第一声である。今日の晩酌はモスコミュールとエイヒレである。
明日香にとってこの組み合わせは最強である。
「日本語ってさあ、地球のほかの国の言語より難解だってのは有名じゃん?」
「そうね」
楓はビールと生ハムだ。ハムが好きなのだ。組み合わせとか関係なく。純粋に。
「今日来た子さあ。いわゆる中二病の子でさあ。日本語なのに何言ってるかわかんなかったのよね」
「ここ数十年増えてるわよね。」
「おかげで普段より疲れたわ。」
明日香の疲れは最もである。だが作者はノリノリで横文字を書いた。
「はっ!ここは!組織の罠か!ついに我を捕らえたか!」
「いいえ、異世界転生課です。」
次々とポーズを変えていくこの子はなんなのだ。今までにない異質な感じだ。
「ようこそ、異世界転生課です。お望みとあらばどんな世界にだって転生させちゃいます!さあ、貴方のご要望はどんな世界ですか?」
とりあえずいつもの挨拶をしていく。これは決まりなのだ。日本語通じるだろうか?
「おおう!異世界転生!我の魔力が!ついに!ついに新世界の扉を開いたか!」
「えっと、志村三郎さま。ごきぼ…」
「ノンノン!我の名前は暗黒竜Ⅲ世!闇の竜の末裔にして最後の竜」
「…ダークエンシェントサードさま、ご希望の転生先はありますか。」
「フッ!知れたこと。我にふさわしき世界を!だ!」
「かしこまりました。では、貴方さまの転生先は、人々の悪意と憎悪と妄執を糧にして無限に増殖する魔物 《フューリズ》の脅威に晒された、異世界地球。ソーサレス。つまり、性別も女性として転生されます。スキルは【魔法】【対魔法】です」
「フーハハハハハ!素晴らしい!我にふさわしき世界だああああ!」
漆黒の炎に包まれて消えてゆくダークエンシェントサードさま。
「あれ、僕、ほんとに魔法使えるの?母さんに自慢しなくちゃ!ありがとう!」
しゅぽっ。あ、消えた。
最後に素の彼が見えた気がした。
すごく純朴そうな感じだったけど、ほんとにこの世界に転生させてよかったんだろうか…。わからん。
「ってな感じだったわけよお」
明日香は日本酒「人殺し」に手を出し始めた。悪酔いの勢いである。
「なるほどねえ。人の真意は見えないわね」
「真意じゃないよお。日本語の難しさの話をしてんのォ!」
「はいはい。すいませーん、お会計お願いします~」
「はぁ?私まだ飲めるんですけどォ?」
「はい。じゃあ、おうち帰りましょうねー」
「もう一軒いってみよー!」
日本語は難しい。
同じ言語を話しているのに、互いの想いが一致しないときがある。
つづく