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第七話「調査」

 ケビンとジャックは早速、問題のあった露天風呂を調査することにした。この旅館の露天風呂は裏手の森の中に建てられており、季節ごとに木々の色の変化を楽しむことが出来て、観光客から人気のスポットだった。


 しかし、彼らは温泉に入りに来たわけではなく調査に来たのだ。ゆえに鎧の下に服を着こんだまま温泉周りを捜索しているのだから地獄である。温泉から湧き出る湯気が体にまとわりつき、特有の硫黄の匂いが彼らの思考力を奪おうとした。


 もう何度目かも分からない滴り落ちてくる汗をぬぐいながら、ケビンはジャックに問いかけた。


「ジャック! 何かあったか!?」


「いや~何もない......あるのは温泉の白い湯気だけだ~」


 そういうジャックの声はカスカスで、目は虚ろだった。ジャックの方が体が大きいからか、湿っぽい暑さにもろに影響を受けているようであった。


 ケビンはこれはいかんと思い捜索場所を変えることにした。


「ジャック。リンが異変を感じたという草むらの方を探ってみよう。何か出てくるかもしれん」


「ああ、そうだな、頭がおかしくなりそうだ」


 ジャックはその野性的な顔立ちの眼を半眼にしながら言った。もう少し遅ければ錯乱して何か犯罪を起こしてしまいそうな雰囲気が漂っていた。


 ケビンは冷や汗を垂らしながら草むらに向かった。ジャックが何かをしでかす前に事件を解決しなければと焦っていた。


 幸い草むらの中は鬱蒼とした木々に囲まれているせいか、露天風呂よりは大分涼しかった。普段なら薄気味悪く感じるが、幸い今は日中で、ケビンたちに涼を与えてくれる分ありがたかった。ケビンは幾分冷静になると、奇妙なものを二つみつけた。


 一つは草むらのいたるところが踏み荒らされているという点だ。最初は例の大捜索によるものかと思った。しかし、人の足跡ではないものもあり、踏み荒らされている時期はバラバラだった。


 二つ目は木の実の殻やリンゴの食いカスが落ちている場所があったことだ。明らかに誰かがここで食事をとったのだ。


 ケビンはジャックにそのことを伝えると、ジャックも同じく怪しいものをケビンが探していた場所のより奥の方で見つけていた。


「ジャック......これは......」


「ああ......明らかに車輪の跡だ......」


「辿ってみよう」


 ケビンの提案にジャックは頷いた。車輪の跡は森のさらに奥まで続いていたからだ。


 二人が森を進むと、ひらけた場所に出た。辺りには何もなく、時折鳥の声が聞こえる程度の場所だった。


「ケビン、これを見てくれ」


 ジャックが指し示したのは、壊れた箱やおもちゃであった。どうやら元は子供たちの()()()()であったらしい。その場所が何か巨大なものの足跡に踏み荒らされていた。


 ケビンにはその足跡に心当たりがあった。


「ジャック......これって多分......」


「ああ、航空艇(エアーシップ)だな」


 航空艇とは近年開発された空を飛ぶ船のことである。二人は一度、フィルによって守護士(シールダーズ)専用の航空艇を見せてもらったことがあった。


 しかし、ケビンは少し不思議に思った。


「だが村人も誰も航空艇のことは言ってなかった。そんなこってあるのか?」


「わからん。航空艇のエンジンはかなりうるさかったはずだが......」


「それにここに落ちているこの黒い粉......これって......」


「ああ、()()だな。火導石が足りないときに使われるやつだ。多分リンがかいだのはこの匂いだ」


「でもなんでそんなものが......」


 二人は思案したが技術者ではない。結論など出ようはずもなかった。その代わり今ある情報を整理にすることにした。


「とりあえず、ケビン。この覗き事件の特徴に気付いているか?」


「もちろん。この事件はある事件を境に二つに分けられるってことだろ?」


「そうだ。村長が言っていた大捜索。多分このあたりで犯人が変わってる。ちょっと整理をしてみようか」


 そう言ってジャックは地面に二つの出来事を書いていった。


①リンが一回目の覗きにあう

②数人の空挺乗りを見かける

③秘密基地が壊される


ーー大捜索ーー


①リンが二回目の覗きにあう

②常連が覗きにあう

③リンゴ泥棒にあう


「こんなところか......」


 ジャックが手に付いた地面の埃を叩きながら言った。それを見てケビンが顎に手を当てて事件のことを考えながら答えた。


「つまり、今起きている覗きの犯人は()()の方という事か......」


「ああ、多分だが前半の犯人は大捜索があって逃げたな......少し気になるが、今俺たちが捕まえなければいけないのは後半の方という事だ」


「なるほど......だがここまで姿を全く見せていないことを考えると後半の方もかなり用心深いぞ?」


 どうする?と言った目でケビンがジャックを見やると、ジャックはにやりと笑ってケビンの質問に答えた。


「俺に任せろ。超スーパーな()()があるんだ」


 ケビンはそれを聞いて猛烈な嫌な予感にとらわれていた。こういった時のジャックの案は大抵ロクなことにならないからであった。 

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