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第六話「初仕事」

 村長にある程度話を聞きその場を後にした、ケビンとジャックはまず村の住民に聞き込みをすることにした。主にここ最近怪しい人物を見かけなかったか、不自然なことはなかったかといったところである。


 そして聞き込みの最中、ずっと静かにしていたジャックがおもむろに口を開いた。


「なあ、ケビン......俺はずっと気になっていることがあるんだ」


「どうした? ジャック」


「ああ、村長の言ってたことでな......」


「......」


「村長言ってたろ? 常連の女性客から苦情がって......」


「ジャック......」


「だけどさ、この温泉の常連っていえばさ......」


「ジャック、やめるんだ。それ以上は」


 どこか焦ったような声でケビンが言った。だが、ジャックはお構いなしに続けた。一度言葉に出しては止まらなくなってしまったのだ。


「こんな休日シーズンでもないのに、この村の温泉に入りに来る常連っていえばさ、みんなババ......」


「ジャック! せめて妙齢のご婦人と言え!」


「だがケビン! この問題は避けて通れないぞ!? 犯人がいたとしてその人物像にかかわる問題だ!」


 ケビンはそう言われて初めて苦悶の表情を浮かべた。


「わかっている! だけど......だけど! 放ってはおけないだろう!?」


「俺も気持ちは同じだ。ケビン。だけどここは親父に応援を呼ぶのも視野に入れておいた方がいい。手に余る事態だ」


「くっ! 俺たちは! 親友の悩み一つ解決できないという事なのか」


 歯噛みするケビンの肩をジャックは優しくポンと叩いた。


「ケビン......這い上がろう。ここから俺たちは強くなろう」


「ああ、ジャック......そうだな......悩んでいるばかりじゃどうしようもない。今俺たちにできることをしよう」


 ケビンはキッと目つきを鋭く決意を新たにし、ジャックはそんなケビンを頼もしく見守っていた。二人とも初めての任務のテンションとこれから直面するかもしれない恐るべき敵にちょっとおかしくなっていた。


 そしてまるでこの国が壊滅の危機に瀕しているかのような雰囲気を醸し出している二人を、村民たちは冷や汗を垂らしながら遠巻きに見守り、子供を持つ親はそっと我が子の視界からさっと彼らを隠していた。


☆☆☆


 ケビンとジャックは寸劇の後、気を取り直して村民に事件のことをそれとなく聞いて回った。村民の少し彼らを避けるような視線が気になったが、概ね問題なくみんな答えてくれた。


「う~ん、そうだな、特に思いつくものはないな。君ら以外は」


「事件が起きる前だったけど、数人の空挺乗りの男たちが泊まりにきたかな? あと君たちかな」


「リンゴ泥棒に最近あったかな? 多分魔獣の仕業だと思うんだが。 疲れてるならうちのリンゴ食うか?」


「数日前すごく綺麗な女の人が泊まりにきたよ! ところで大丈夫?」


「ドムがまたサボってたくらいかな? 君らと一緒に」


「ずっと前にみんなで作った秘密基地が壊れてたんだ。 あとお母さんが兄ちゃんたちに近づいたらだめって......」


 しかし村での情報収集の成果はあまり芳しくはなかった。気になる情報も少なからずあったがどれも決定打には欠けていた。


 ケビンは立ち止まってジャックに話しかけた。


「なあ、ジャック......」


「どうしたケビン?」


「俺たちなんか変な目で見られてないか?」


「......お前もそう思うか?」


「ああ、さっきから妙に腫物を触る感じで接せられてるというか......」


「まあ、小さいころから知ってるお前が守護士になってるから珍しいんだろ」


「そうか......まあそうだな! たまに応援してくれたしな! はっはっはっ!」


「そうさ! 俺らが避けられるわけないだろ! はっはっはっ!」


 朗らかに笑いあう二人を尻目に村人はなるべく関わらないようにしていた。


 そうして一通り村民に話を聞き終えた二人は最後に旅館に行くことにした。今日の宿も決めねばならなかったからだ。


 旅館は東方風の趣のある建物だった。二人が旅館の暖簾をくぐると、ドムが一人の少女に正座で叱られている光景が目に飛び込んできた。


「これだけ外にいて買い出し一つまともにできないってどういうつもり!? どうしてお客様用の足拭きを買ってきてって言ったら、スリッパを大量に買ってくるの!?」


「いや~こっちの方がいい気がしてな~つい~ごめんな~」


 少女にガミガミと叱られるドムは愛想笑いをしながら平身低頭していた。


 見てはいけないものを見てしまったケビンとジャックは苦笑いしていた。しかしどうにも話が進まないのでケビンは思い切って声をかけることにした。


「まあまあ、リン。そのくらいで勘弁してあげたらどうだ?」


 名前を呼ばれるとリンと呼ばれた少女は殺気のこもった目でキッとケビンたちの方を向いた。


 歳はケビンやドムと同じくらいであろう。可愛い少女であった。絶世の美女というわけではないが、どこか愛嬌があり、艶やかな黒髪を白いリボンでまとめ、旅館の従業員の印である割烹着を着ている様は、彼女の素朴な山百合のような可憐さを引き立たせていた。


 リンはケビンたちが誰だか分かると途端に営業スマイルに早変わりした。


「あら~! ジャックにケビンじゃない! いらっしゃい! 今日はどうしたの?」


「任務できたんだ。ほら」


 そう言ってケビンは胸の守護士のエンブレムをリンに見せた。


 リンはそれを見て手を叩いて喜びの声を上げた。


「あら! 本当だ! ようやく念願叶ったのね! おめでとうケビン」


「ありがとう、リン」


 この四人は幼年学校時代からの友人であった。村に同年代の子供も少ないこともあって幼い頃はよく一緒に遊んだものだった。


「いや~昔はあんなに小さかったケビンがね~たくましくなってお姉さん嬉しいわ~どっかのバカに爪の垢を呑ませたいくらいよ」


 にやにやしながら言っていたリンが、そう言って再度ドムを睨んだ。ドムはリンの怒りを冷や汗を流しながら受け止めていた。


 そんなリンの怒りをなだめながらジャックは事件のことを聞いた。


「まあそれくらいにして、リン。最近変わったこととか怪しい人の出入りとかなかったか?」


「あ~なるほどね。あんたら例の件を調査してるのね」


 リンはその愛らしい口に手を当て、数瞬考えた後、意を決したように面を上げて、ケビンたちに話した。


「私二回覗かれたわよ?」


「「「なにぃ!?」」」


 残りの三人が綺麗にハモった。どうやらドムも知らなかったらしい。


「そんなに驚かなくてもと思うけどね。狙われてるのは女性ばかりなんだから当然じゃない。ねえ? ジャック」


「いや、そうかもしれんが......ちなみにいつのことだ?」


「一回目は最初の騒ぎの数日前ね。浴室の掃除をしていたら露天風呂の方で声が聞こえた気がしたから行ってみたの。その時はやっぱり誰もいなかったけど......」


「「「けど?」」」


「温泉の匂いがしたわ?」


 ......こいつは何を言っているんだろう?という空気になった。冷たい空気が流れる中、ケビンが心配そうに優しくリンに声をかけた。


「あのね? リン......露天風呂に行ったんだから温泉の匂いがするのはしょうがないと思うよ?」


「違うわよ! なにアホの子を見る目で見てんのよ! 温泉の向こう側にある草むらでそんな匂いがしたの!? 誰かいるんじゃないかと思ってそっちの方も見てみたんだけど、誰もいなくて......でもいつもかいでるのとは違う温泉の匂いがした気がしたわ」


 ケビンとジャックは二人とも何か思案するような顔になったが、今はそうしていても仕方がなかった。ジャックはもう一つの覗きについて聞いた。


「それでリン。二回覗かれたって言ったよな?」


「ああ、うん。それは本当、数日前よ? 仕事が終わってお客さんもいなかったから露天風呂に入っていたんだけどね、やっぱり誰かの視線を感じたの。だからまた草むらの方に行ってみたんだけど、誰もいなくて......」


「その時も何もなかったのか?」


「うん......あ! 違う! あったわ!」


 急にリンは何か思い出したように言った。そのリンの様子に三人は顔を近づけて先を促す。


「あのね、露天風呂に入りながら食べようと思ってたリンゴの甘酢煮がいつの間にかなくなってたの!」


 ......三人はまた微妙な顔になった。これには代表してジャックが聞くことにした。


「なあ、リン......それってお前が食べただけじゃ......」


「食べたら分かるわよ! あんたらあたしを本当にアホだと思ってんの!?」


 ムキッーと怒って今にも飛び掛らんとするリンをドムは必死に羽交い絞めにして抑え、ケビンとジャックはやれやれと首を横に振りながら現地の調査に向かうことにした。

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