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第五話「ハイネン村」

 ハイネン村はのどかな村であった。村民は決して裕福とは言えないが、不自由のない暮らしを送り、村の特産品である果物と、温泉目当てでたまに来る観光客を相手に商売をして生計を立てていた。


 ケビンとジャックは家を発ってから一両日中には村にたどり着いた。


 途中何度か魔獣に襲われたが、彼らの敵となるようなものはいなかった。


 彼らの目の前に広がるのはいつもと変わらないハイネン村の光景であった。守護士が必要な事件など特段起きている様子もなく、村の中央の広場では子供たちが元気に遊んでいるだけであった。


「何か気づいたことはあるか? ケビン」


 ジャックに問われるとケビンも首を横に振った。


「いや、何もない。魔獣の気配もないし、住民も普段と変わらないように見える」


「おーい!」


 二人が不思議がっていると、声をかけながら彼らに近づいてくる男がいた。


「ジャックにケビンじゃないか? 久しぶりだな~。こんな所で何してるんだ~?」


 そう言って少し間の抜けたような雰囲気で話しかけてきたのはハイネン村のドムだった。村長の息子で二人にとっても馴染みで少し太めの温和な雰囲気をもつ男であった。


「ドム! 久しぶりだな! 仕事はいいのか?」


 ケビンが旧友との再会を喜びながら返事を返すと、ドムもニッと笑って言った。


「今日は旅館に客もいねえから大丈夫だ~。今買い出しに来てたところでよ~。ジャックも元気だったか?」


「おうよ! 見りゃわかんだろ? 村長も息災か?」


「息災息災~今日も休めばいいのに畑仕事に行っちまったでよ~」


 そういうとドムは朗らかに笑った。こののんびりとした雰囲気が彼の人柄をよく表していた。


「それよりドム、聞きたいことがあるんだが」


「ん~、どうしたんだケビン?」


「村長から守護士に依頼があったんだがお前何か知らないか?」


「お~ういや二人とも守護士のエンブレム付けてるな~。ケビンは守護士になれたのか~おめでとう~」


「はっはっ、ありがとうドム。それで、何か心当たりはあるか?」


 そう言われて数瞬、ドムは額に手を当てて考え込むとそれからハタと手を叩いて思い出したかのように言った。


「あ~そう言えば例の件かな~旅館の。俺はあんまし詳しく聞いてねえから親父に聞いた方がはええなぁ」


「なんだよ? 勿体ぶらずに教えろよ」


「いや~ジャック、本当に詳しくねえのよ」


「詳しくないってお前旅館の亭主だろ?」


 ドムはつい最近、歳を取って引退した村長の温泉旅館を引き継いだばかりであった。


「そうなんだけどよ~どうにもオラは頼りないらしくてな~相談事なんかみんな親父の方に言っちまうのよ~」


 そう言ってまたドムは暢気に笑った。その様子を大物なのか間抜けなのか二人とも測りかねて冷や汗を垂らしながら曖昧に笑っていた。


「まあいいや~親父のところに案内するから二人ともついてき~」


 そう言ってドムは道案内を買って出てくれた。二人はドムに感謝しながら後についていくことにした。


☆☆☆


 幸い村長はすぐに見つかった。


 村の特産物であるリンゴの果樹園で、朝から作業していたのか今は休憩しながらお茶にしているところだった。


 村長はケビンたちに気がつくと少し驚いたようにし、そこから柔らかく笑って手招きして三人を呼び寄せた。


「二人とも久しぶりじゃな。フィル殿やマリアンヌ殿も変わりないか?」


「いつもと変わらず尻に敷かれてるよ」


 そうジャックが軽口を返すと村長は呵呵と笑った。村長は白い髭を口周りに蓄え、白髪まじりの髪の毛の上に麦わら帽子を被り、農作業用のつなぎを着て、まさに好好爺という出で立ちであった。


 その村長の目が一瞬キラリと光り、ドムを睨みつけた。


「それで? ドム......お前はどうして仕事をサボってこんなところにいるんだ? 旅館は今朝から大掃除とかで忙しかったはずだぞ?」


「う......いや......ほら? 買い出しに行ってたら途中で二人に会ったからさ? なんでも、ほら! なんか守護士の仕事を受けに来てくれたみたいだからよ? これは一刻も早く案内してやらなと思ってさ!」


 しどろもどろになりながら弁明するドムを村長はジト目で黙って見ていた。


「あー! いかん! 思い出した! 俺ちょっと頼まれてたことがあるんだ! ゴメンな?お二人さん~また後でな~」


 そして形勢が悪いと悟ったドムは先程ののんびりとした動きとは打って変わってそそくさと退散してしまった。


 その様子を見送った村長は重くため息をつき、ケビンとジャックは冷や汗を垂らすのであった。


 「さて」と、村長は気を取り直して二人に向き直った。


「そうそう、依頼の件じゃったな。まずは守護士就任おめでとう、ケビン。ターナー殿から聞いとるよ」


「ありがとう村長」


 自分の息子とは違って素直なケビンに村長は満足し、うんうんと頷いていた。そして少し困ったように口を開いた。


「さて、二人が依頼を受けてくれたのもターナー殿から聞いているから、改めて今回の依頼の内容を話すよ。実は旅館で少々困ったことが起こっておってな?」


「困ったこと?」


「うむ」


 ケビンが不思議そうに尋ねると、村長も重々しく頷いて、話を続けた。


「実はあの旅館で覗きをするものがおるようなんじゃ」


「「覗き!?」」


 ケビンとジャックは驚いたように口を揃えて声を上げた。


「うむ。あれは数ヶ月前じゃったかな? いつも温泉に入りにくる常連のお客さんたちがワシのところにやってきてな? 誰かに見られてる気がするというんじゃ」


「......」


 二人は無言で続きを促した。


「あの旅館は村の経済の生命線だからのう。悪評が立ってはならんと村の男衆総出で不届き者を捜索することにしたんじゃ。しかしその時は誰も見つからんかった」


「その時怪しい客とかも泊まってなかったのか?」


 ジャックが聞くと村長は首を横に振った。


「おらんかった。その時は常連だけじゃった。だからワシらもその時は気のせいじゃろうとタカをくくっておたのじゃがな? それからも何度か常連の女性客からそういう苦情があるようになったんじゃ。しかしいくら探せども探せども犯人などいなくてな......遂には犯人はドムなのでは?という話も出始めたのでこうして依頼を出したのじゃ」


 二人は心底驚いた。ドムは決して真面目とは言えないがそのようなことはしないと知っていたからだ。


「あれがさっきから仕事をさぼっていたのもそこが原因じゃろうのう。旅館にいづらくなってそこら辺をほっつき歩いとったんじゃわい」


 村長はまた一つ嘆息した。ケビンとジャックは互いに顔を見合わせた。そして一度大きく頷くと村長に大きく宣言した。


「村長。事件のこと俺らに任せてください。必ず解決して見せます」


「そうだな、ドムとは幼年学校のときからのダチだ。助けてやらなきゃ守護士の名がすたる」


 そう言って頼もしく成長した若者二人を村長は目を細めて嬉しそうに見守っていた。

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