第五十八話「筆頭執事」
「何様よ! あのクソ狸親父は!?」
そうディルムッド公爵を罵ったのはフェリスだった。それ以降も公爵を口汚い言葉で罵り続ける。あまりの怒りっぷりに、フェリスが辺りの目を集め始めたので、ケビンとレインは必死で止める羽目になってしまった。
しばらくしても、興奮冷めやらぬフェリスに手をこまねいていると、ケビンたちの後ろから「お~い」と追いかけてくるものがいた。ケビンたちが後ろを振り向くと、それは先ほどの公爵付きの筆頭執事ーーウルライヒであった。
「ウルライヒさん!」
ケビンが驚きの声を上げた。意外な人物が自分たちを追ってきたと思った。
ウルライヒはケビンたちの前まで来ると、がばっと頭を深く下げた。
「この度は、大変申し訳ありませんでした!」
ケビンたちは目を丸くした。相手は公爵家の筆頭執事である。恐らく彼自身、名のある貴族か部門の家の出に違いない。滅多なことでは頭を下げないはずであった。
「いや、そんな! お気になさらず! 頭を上げてください!」
ケビンが慌てて言ったが、ウルライヒは首を横に振った。
「そう言うわけには参りません。主の失態は私の落ち度でございます。貴方たちには大変不快な思いをさせました。当家の主に代わってお詫びさせて頂きます」
ウルライヒはどうやら相当にできた人物であるようであった。
「まあ、私たちは気にしてないけどさ? あなたも大変ね?」
それを見たフェリスも気恥ずかしくなったのか、先ほどとは真逆のことを言っていた。それをケビンとレインがじーっと何か言いたげに見る。
「何よ?」
「「べっつに~?」
フェリスに睨み返されると、ケビンたちはそっぽを向いた。わざとらしく口笛まで吹いている。その様子があまりに微笑ましいので、ウルライヒもくすりと笑っていた。
「そんなことより、わざわざ私たちに謝罪する為だけに、追いかけてきたわけじゃないでしょう?」
フェリスが話題を変えるように聞く。ウルライヒもこくりと頷いた。
「はい、先ほどは話が途中でしたので」
「ああ、火山は危険が~っていうの?」
「ええ、その話です。火山自体は休火山で危険もないのですが、問題はそこに巣くうようになった魔獣でして......」
「魔獣?」
「はい、地元のハンターの話によると、最近見たこともない魔獣がアラド火山で見かけられるそうです」
「それはどんな魔獣ですか?」
ケビンも話に割り込んできた。魔獣退治も立派な守護士の仕事である。話をフェリスに任せっぱなしにするわけにはいかなかった。
「犬型の魔獣と言う話なのですが、通常の犬よりサイズが大きく、魔導も使うという事です。何よりハウンドドックなどに比べるとはるかに凶暴とかで......」
フェリスとケビンが顔を見合わせた。最近、それらしき魔獣と戦ったことがあるからだ。
「もしかして、ヘルドック?」
ケビンが口にすると、今度はウルライヒがピクリと反応した。
「それは、傭兵団が使役する軍用魔獣のことですかな?」
「あ、はい、そうです。御存じなのですね?」
ケビンは意外そうにしていた。軍用魔獣など、執事という職業にはもっとも縁遠い存在に思えたからだ。それに対して、ウルライヒは気恥ずかしそうに答える。
「ああ、実は私、数年ですが軍に所属していたことがございまして......その時、何度かそういったものとも交戦したことがあるんですよ」
「「「へぇ~~!!」」」
三人は興味深そうに声を上げた。この目の前にいる温和な雰囲気の男が、銃や剣をもって戦場を闊歩する姿がどうにも信じられなかったからだ。
「いえいえ、随分前のことなのでどうかお気になさらずに。しかし、もしそう言ったものが相手となると、二人だけでは心もとないですね」
ケビンたちも考え込んだ。確かに、今の戦力では、あの魔獣を退治するのに十分とは言えないかもしれない。そうすると、ウルライヒはぽんっと手を叩いた。
「承知いたしました。私が助っ人をご用意いたしますので、出立は明日にしていただいてもよろしいでしょうか?」
「助っ人ですか?」
ケビンが聞くと、ウルライヒはにこりと頷いた。
「ええ、丁度このまえ軍時代の顔見知りがこの街にいるのを見かけたので、少々尋ねてみようと思います」
「でも、ちょっとやそっとの実力じゃ駄目よ? 多少使えないと連携の邪魔になるだけだわ?」
フェリスが生意気に言うと、ウルライヒはにっこりとほほ笑んだ。
「ええ、無論、腕の方は保証しますとも」
☆☆☆
翌日、ケビンとフェリス、それにレインは街の入り口で助っ人とやらを待っていた。レインは非戦闘員だが、地理の案内は不可欠であるため付いてきてもらうことにした。三人がそわそわしながら待っていると、後ろから気配がした。
やっと来たかと、ケビンたちが振り返ると、ケビンとフェリスは口をぽっかりと空ける羽目になってしまった。
「待たせたな、行くぞ?」
そういってぶっきらぼうにしゃべったのは、黒スーツにサングラス、獣のような凶暴な目をしたスタントンその人であった。
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