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第五十二話「豪華なお風呂」

 帰り路はケビンにとって地獄だった。レインは黙って運転席で導力車を動かし、ケビンとフェリスは荷台に乗ってドキアへと帰った。しかしその道中、魔獣に遭遇し、連携で声を掛け合う事はあっても、それ以外の雑談はほぼ絶無だった。


(なんでだ? 最近はフェリスともかなり仲良くやっていたのに......どうして急にこんな険悪に?)


 ケビンがフェリスの顔をちらっと見やると、フェリスは氷の眼をしたまま、ケビンのことを睨んでいた。ケビンはすぐに顔をそらす。あまりの迫力にケビンの背から冷たい汗が流れ落ちた。


(まさか偶然キスしてしまった時のせいか? だけど、レインは男だぞ? 女の子に間違って、そんなことしてしまったというのなら、女の敵認定されるのもわかる。だけど、男同士で、アクシデントでそうなっただけなんだから......)


 ケビンが再度フェリスの顔を見やる。フェリスはケビンの顔を見ながら、ぺっと唾を地面に吐き落した。余りのやさぐれ感に、抗議の声をあげようとしても、ケビンは何も言えなくなってしまう。


 異常な緊張感の中にいたケビンを救ったのはドネア市の門だった。やっと着いたかとほっとするケビンをフェリスはジトっと見ていた。


 導力車は門を潜り抜け、整備場まで走ってそこで止まった。


「はい、ここまで。親父から受領印をもらっておいてくれ」


 そう言ってレインはケビンたちを荷台から降ろしてどこぞへと走り去っていってしまった。受領印とは守護士が任務完了した際に、依頼主からもらうサインのことである。これがなければ守護士は報酬をもらえないのだ。


「ほら、早く行くわよ?」


 そう言ってフェリスはすたすたと先に行ってしまう。ケビンはフェリスの感情が読めず、慌てて後を追いかけた。


 ケビンとフェリスが整備場の奥へ行くと、そこにはウェルキンを始め数人の作業員たちがまだ作業を行っていた。ウェルキンはケビンたちに気が付くと、おーいと言って手を振った。


 ウェルキンはこちらへ走って駆け寄ってくる。


「お、二人とも無事だったかご苦労様。ジャックとエレンはどうしたんだい?」


にかっと笑って二人の無事を祝うとともに、ここにいない二人のことを聞く。ケビンたちは道中何があったのかを、ウェルキンに説明した。話を一通り聞いたウェルキンは、あまりの大事に唸ってしまった。


「なんと、そんなことが......レインは無事なのか?」


 ウェルキンに聞かれると、ケビンは首を縦に振った。


「ええ、幸い怪我はありませんでしたが、怖い思いをしたと思うので、後で話を聞いてあげてください」


「ははっ、あいつも航空艇乗りの端くれだ。その程度の修羅場なら何回も越えてきてる。怪我さえなければ心配いらんよ」


「ですが......」


「それより、問題はその仮面の集団とやらだ」


 ウェルキンは話を遮るように話題を変えた。


「そんな連中、このあたりでは聞いたこともない。何者なんだ?」


「今は何もわかりません。帰ってドネアさんや守護士の各支部に確認してみないと何とも。ただ山賊のような類ではなく、どいつもこいつも相応の訓練を受けているようでした」


「なるほどな......よし、俺の方から今日中にドネア市の市長にその件については報告しておいてやる。それで明日には国中にその連中の情報がないか、わかるようにしておいてやるよ」


「本当ですか!? ありがとうございます」


「いやいや、そんな連中が街の付近にいるなんて知ったら、市長も飛び上がるだろうからな。早めにどうにかしなきゃならん」


 そう言って、ウェルキンはうんうんと一人で頷いていた。そしてはたと気付いて、ケビンたちに提案した。


「そうだ、君たち帰る前に航空艇の風呂に入っていくかい?」


「「航空艇の風呂?」」


 ケビンとフェリスが声を合わせて聞いた。ただ普通に風呂に入るだけなら守護士の支部でも入れるのだが、どうやら少し違うらしい。


「ああ、今、実はとある貴族様がお忍びでいらしててな。俺らはその航空艇の整備をしているんだが......貴族の航空艇だけあって設備も豪華でな。俺らもこっそり色々見物したりさせて貰ってるんだが......その中に外の景色まで覗ける風呂があってさ」


「ケビン! 行くわよ!」


 豪華な風呂と聞いてフェリスは話も途中に目の前の航空艇に乗り込もうとしていた。その様子を見てウェルキンは呵々と笑う。


「乗り気になってくれてよかったよ! 君らはレインの命の恩人だからな。遠慮なくどうぞ?」


 自分の船ではないはずなのだが、ウェルキンはどこ吹く風だ。ケビンは困ったようにたらりと汗を流したが、フェリスは止まらなかった。道中まったく身ぎれいになれなかったのが。不満もたまっていたのだろう。


「私、タオルとか取ってくるわ」


 そう言ってダッシュで守護士の支部まで走って行ってしまった。ケビンが呆然と見送る中、ウェルキンがケビンに声を掛ける。


「流石は女の子だな。ケビン! 君は先に入ったらどうだい?」


「え? いや、そんなことしたらフェリスになんて言われるか」


「はっはっ! 大丈夫。風呂は船首と船尾に二つあるんだ。なんでそんな作りなのか意味不明だがね。金持ちのやることはわからん!」


 そう言ってウェルキンは豪快に爆笑していた。ケビンは合わせて笑いつつ、ウェルキンの提案に乗ることにした。ケビン自身、汗をかいたので、本音を言えば気持ち悪かったのだ。


 ケビンはウェルキンの部下に案内されて、船尾の風呂まで行き、少し小さめの脱衣所で服を脱いだ。(妙に散らかっている気がしたが、少し疲れていたからか、あまり深く考えることはできなかった)


 ケビンは何の気なしに風呂のドアをがらっと開けた。風呂の中は湯気が立ち込めていてうまく見えない。


 しかし徐々に見えるようになると、ケビンは違和感に気付いた。目の前に人がいるのだ。それも女性だ。彼女はシャワーを浴び終わったばかりなのだろうか、短い銀髪の髪の毛の先から、ぴちゃんっと水をしたたり落とさせ、水滴がキラキラと日の光で輝いて、まるで妖精のようであった。


「......」


 愛らしい口はぽかんと空いていて、何か信じられないものを見ているようだ。彼女は長めのタオルを一枚、体の前に持ってきていて、大事な所は見えない。だが、ほっそりとくびれた腰と、綺麗な白い脚から、彼女のスタイルが相当いいことを伺わせた。ケビンはなんとなく顔がレインに似ているなと考えていた。


「きっ!」


 彼女の声を聞いた瞬間、ぼーっとしたまま、ケビンはまずいと思った。何か言わなければと思うが、何も言葉が出てこない。なぜか今までの人生だけが頭の中でフラッシュバックされる。


「きゃあああああああっ!」


 船内中に女性の悲鳴が木霊する。ケビンに止めようはなかった。


「どうしたの!?」


 フェリスの声だ。まずいと思いながらも、ケビンは足を動かせない。結果、その子のことをさらに凝視することになってしまった。


(あ、綺麗だな......)


 暢気に考えてはいけないことを考えていると、いつの間にか背後から殺気がした。ケビンも戦士である。その気配には敏感に反応し、後ろを振り向いた。


 そこには氷の眼と、鬼の形相を混在させるという、器用なことをやってのけたフェリスがいた。


(あ、だめだな)


 ケビンがどんな言い訳も通らないと覚悟を決めた時だった。フェリスが魔導器を発動させて竜巻を腕に巻き付かせていた。仮面のボスを倒した時の技だった。


「この......」


 フェリスが徐々に近づいてくる。


「女の......」


 ずしんずしんと地鳴りまで聞こえてきそうだった。


「敵があああああ!」


「ぐぺぽんっ!」


 フェリス渾身の右ストレートが炸裂し、ケビンは壁に錐もみしながら叩きつけられた。そして変わり果てたケビンを見下ろしながら、レインは困った顔をしていた。

珍しくお風呂回を書きました! あとで十五禁にしておいた方がいいのでしょうか?

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狩野生得さんが感想を書いてくれました!

とても丁寧に書いていただきありがとうございます(≧▽≦)

後ほど返答もさせていただきます。


狩野生得さんの作品は楽しいポップな文体が好きで読ませてもらっています。

龍の聖女ティア ~鳳翼の異名を持ち龍力を自在に操る光輝なる第13王女~

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