第四十二話「白銀級の腕前」
「十分だ、エレン! 下がれ!」
建物の中でポールの声が反響する。その指示に応えるようにエレンは敵と対峙しつつ、仲間の所まで後退した。
彼らの眼前にはトカゲ型の魔獣が数体いた。魔獣サラマンダーである。
「グランドウォール!」
ジャックの魔導で大地の壁がせり立つと同時に、サラマンダーたちが火を吹いた。一匹一匹の炎は大したことないが、数体合わさるととてつもない威力である。壁越しにも関わらず、ケビンたちは炎をの熱さで火傷しそうであった。
しばらくして炎が止んだ。その瞬間、ポールが「いまだ!」と攻撃の指示を出す。
「ストーンショット!」
「火型・三の形! 火扇剣!」
「オーランド流ーー紅蓮若火!」
ケビンとエレンの火が合わさりサラマンダーの視界を封じて、熱されたジャックの岩の塊がそのままサラマンダーのほとんどを押しつぶした。
難を逃れた何匹かのサラマンダーが、仲間を潰された恨みに怒り狂ってケビンたちへ襲ってくる。
「月風斬!」
だがその牙が彼らに届くことはなかった。ポールが魔導を発動させて、薙刀を大きく振るう。風の刃が扇状に広がり、サラマンダーたちを両断していった。
ポールはフェリスと同じ風の魔導の使い手だが、フェリスよりも攻撃に特化しているようである。
サラマンダーが全滅したことを知ると、ケビンたちは武器を収めた。
「よし! よくやったなお前ら。この上の階で少し休憩しよう」
ポールはそう言って階段を指さして言った。ケビンたちももう何階も登り、先ほどのような魔獣に数回襲われて確かにへとへとだったのだ。誰にも異存はなかった。
一段上に登ると、そこは噴水の広場のような場所だった。清浄な空気が流れていて魔獣の気配もなかった。
「おお! 流石は担当守護士。この塔の構造もよく知っているんだな」
エレンが感嘆の声をあげると、ポールは当然のように言った。
「まあな。探索士の用事やら考古学者の依頼やらでこの塔には数回登ってるからな」
談笑しているエレンとポールとは対照的にケビンとジャックはどこか気まずそうにしていた。出会った時の騒動がまだ尾を引いていたのだ。
その様子を見たポールは苦笑してどっかりと座ってケビンたちを呼び寄せた。ケビンたちが近づくと真剣な面持ちでポールは語りだした。
「お前ら、フェリスを救う気はあるか?」
ケビンたちは何を言われているのかわからなかった。あまりにも当たり前のことだったからだ。ポールはケビンたちの反応を見て満足そうにうなずいた。
「よし! なら俺らの確執は一旦忘れて任務にだけ集中しろ。今回の敵は俺らが全力で挑んでも勝てるかわからん相手だからな」
ポールの言葉にケビンとジャックは顔を見合わせた。そして一度大きく頷いて、ポールに向き直った。
「すみません、ポールさん。あの時は俺が悪かったんです。フェリスを助けるために力を貸してください」
ケビンがそう言うと、ジャックも同意した。
「ああ、ポールさんの言う通り俺らがガキだったんだ。むしろ俺らから頼むよ。あいつも大切な仲間なんだ」
その反応にエレンもポールも笑った。ポールが笑いながら言う。
「ポールでいいよ。さんづけなんかしたら戦闘でタイミングが遅れるだろう?」
ポールの提案にケビンたちも笑った。目的は皆同じなのだ。気を遣うことが時間の無駄なのだ。
「さて、というわけでお前らに聞きたいんだが......この前、その理想郷のメンバーと戦ってどうだった?」
「どうと言うと?」
「要するに戦い方や、弱点、それに癖とかだな。お前らの知ってる情報を何でもいいから教えてくれ」
ジャックが尋ねると、ポールは質問を変えた。三人は少し考え込んだ後、ケビン、ジャック、エレンの順番で答えた。
「戦い方は人形やぬいぐるみを使っていたよ。そいつらが何十体もいっぺんに刃物をもって押しかかってくるんだ。特に執事と庭師の人形が大型で強力だった」
「弱点は俺らの裸だな。俺らの美しい筋肉のつけ方を見て感動に打ち震えていた」
「いや、あれはあまりに醜悪なものに反吐が出ていただけなのだが......まあ美しいものが好きと言っていたな。だからフェリスをさらったんだろう?」
その話にケビンがふと疑問に思った。
「あれ? でもそれならどうしてレンヌはエレンもさらわなかったんだろう? エレンも十分綺麗なのに」
「ほっ? 嬉しいことを言ってくれるじゃないか。ケビン。もしかして私は口説かれているのかな?」
「いや! そうじゃなくて!? 純粋に疑問だっただけで!」
ケビンの慌てようにエレンは笑っていた。からかわれたと知ったケビンはむくれている。
ジャックも笑っていたが、急に真面目な顔つきになって自分の意見を述べた。
「まあ、単純に実力があったからだろうな。フェリスの方がより与しやすかったんだろう」
「ふむ、となるとレンヌは相当な目利きという事か?」
エレンの言葉にジャックも頷く。
「ああ、相当修羅場を潜り抜けていると思って言い」
ポールは情報を精査してるのか、考え込んでいたが、最後に一つだけ質問をした。
「人形はどうやって操っているかわかるか?」
ポールの問いにはジャックが答えた。
「人形が動くとき、レンヌは必ず腕を振るったり、指を動かしていた。そこから察するにたぶん......」
「なるほど......となると......」
そこからケビンたちは数点打ち合わせをして、いざ最上階へと歩みを再開することにした。
風邪でダウンしています。更新ペース遅くなって申し訳ありません。




