第四十一話「今やるべきこと」
ポールとバネガが酒場で駄弁っているころ、ケビンたちも守護士の支部で明日のことについて話し合っていた。実際に敵の姿を見たのはケビンたちだけなのだ。対策をするのも彼らの役目であった。
だが話し合いは思うように進まなかった。特にケビンは先ほどポールに言われたことがこたえているのか、ふさぎ込むようになっていた。
「ケビン、あまり思いつめない方がいいんじゃないか?」
ジャックにそう言われると、ケビンは暗い声で応えた。
「わかっている。だけどポールさんの言う事ももっともだと思ってさ......」
「ケビン......」
「ジャックもエレンも敵の正体についてある程度わかってたんだろ? 俺だけ何もわかってなかったんだ......それでフェリスを危険に晒して......バネガさんに八つ当たりして......何してんだろうな、俺......」
ジャックはどうフォローすればいいのかわからなかった。あの時自分もやるべきことを怠ったのだ。ケビンだけ責められるのはお門違いなのだが、それを伝えることで何になるというのか。
ジャックが言葉に迷っている間に、先に口を出したのはエレンだった。
「それで? 反省しているのは分かったのだが、ケビンはどうするんだ?」
「え?」
「おい、エレン......」
「まあ黙っていろ、ジャック。ケビン......貴公が今やるべきことは過去に起こってしまったことをひたすら嘆くことなのか?」
「それは......」
「今日のレンヌの口ぶりからするにまだフェリスは生きているはずだ。人質は殺してしまっては意味がないからな。まだ救えるチャンスがあるのに貴公はただ指をくわえて反省の弁を口にするだけなのか?」
「っつ!」
ケビンは勢いよく席を立ってエレンを凝視した。無論ケビンもこのままでいいと思っているわけではないのだ。
「このまま何もしないのであれば貴公を男と認めるわけにはいかんな」
そう言ってエレンは中座し、部屋の扉を開けて外に出ていった。
「エレン!」
ジャックは立ち尽くすケビンをちらりと見つつエレンを追う。エレンは扉の側に背を預けて腕を組んで立っていた。
「すまん、本来は俺が言うべきなのをエレンに任せてしまった」
「いや、構わんさ。ふふっ」
「何が可笑しんだ?」
何か少し楽しそうな、それでいて懐かしそうなエレンをジャックは訝しんだ。
「ああ、すまん。不謹慎だったな。姉たちのことを思い出していたのだ」
「姉がいるのか?」
「姉が二人に兄が一人だ。私は末なのだが、特に出来が悪くてな。よく悔しくて泣いている所をああして叱られたものだ」
「エレンが出来が悪いってどんな怪物だ?」
「ははっ! 姉たちに比べれば私なぞ路傍の石頃も同然よ」
まさかエレンがここまで自分を卑下するとは、いつも自信満々に見えるのだが、ジャックには少々意外だった。
「そんなにすごいなら一度会ってみたいものだな」
「ははっ! そのうちな。全員美女揃いだから惚れるなよ?」
「それは期待しておこう......そう言えば兄もいるんだろう? 兄はどうなんだ?」
「......」
ジャックに問われるとエレンは先ほどまで饒舌だったのが嘘のように、急に押し黙った。
ジャックはその様子を不思議に思った。
「エレン?」
「うむ、すまん......兄だったか......正直分からん」
「分からんって......姉と評価違いすぎだろう?」
呆れたように言うジャックにエレンは苦笑した。もっともだと思った。
「本当に分からんのだよ。実力の底というものを見たことがない。何をしてもあっさり勝ててしまう時もあれば、いつの間にか負けているときもある。姉たちも同様だ」
「それを聞くと本当の怪物はその人に聞こえるな」
「かもしれん......兄姉の中でもあの人は少し怖いくらいだ」
エレンにここまで言わせる兄に薄ら寒いものをジャックは感じたが、今はそのことを棚に置いておくべきだった。彼らもまた、今やるべきことをやらなければいけないのだから。
「さて! そろそろケビンも立ち直ったころだろう!」
「そうだな、明日の対策をしなきゃな」
そう言って二人は部屋の中に戻っていった。中では決意を新たにしたケビンが真剣な表情で二人のことを待っていた。
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