第四十話「先達の配慮」
夜のうちに移動するのは危険という事で、炎魔塔への出発は明日という事になった。ポールとバネガは守護士の支部を出ると、そのまま馴染みの酒場に向かった。
酒場は何人かの航空挺乗りがいるだけで、まだ混み合っていなかった。ポールはマスターにいくつかのつまみと酒を頼み、バネガに向き直った。
「しかし、先輩としてああは言ったが、新人に今回の件は厳しかったんじゃないですかね?」
「......」
ポールの問いにバネガは無言だった。ポールはそれに構わず話を続ける。
「今回の件も真相を暴き出しただけでも青銅級の活躍をしてますよね。もう少し優しくしてやってもいいんじゃ......」
「それじゃあ足りん」
バネガはポールが言い終わるかどうかといううちに話を被せてきた。
「足りんというと?」
「ケビンもジャックも強さだけで言うなら新人の域を超えている。すでに単体だけでも青銅級と互角に戦える実力がある」
「ほうほう」
「特にジャックは総合的な能力なら白銀級と言っても遜色ないレベルだ」
「それだけ買ってるなら、もう少し協力的に扱ってやってもいいじゃないですか?」
「だめだ。今甘やかして伸び悩まれてしまったらそれこそ守護士全体の損失だ。お前もそうやって潰れていった期待の新星を何人も見てきただろう?」
「まあ否定はしませんがね」
そうこうしているうちに酒とつまみが運ばれてきた。二人は乾杯して酒を一気に飲み干す。ポールの表情は変わらなかったが、バネガは一気に赤くなっていた。
バネガはぼやくように言う。
「ただでさえあいつらは”炎将”フィル・ブライアンの息子という肩書を持っているんだ。ちょっとやそっとの活躍ではすぐに期待外れと言われてしまうだろう」
「なるほどね」
「お前、フィル殿に会ったことは?」
「ありますぜ。守護士の合同訓練で一度稽古をつけてもらったが、あのおっさん強すぎだよ。人間やめてやがるぜ」
ポールはそう言うと大声で哄笑しながら二杯目の酒を飲み干した。バネガもふっと笑った。
「だろうな。あれは英雄だ。戦歴も実力も並の人間が及ぶところじゃねえ。その息子たちが同じ土俵に立つんだ。生半可な道じゃねえよ」
「なるほどなるほど! つまり今回のはおやっさんの愛の鞭ってことだな!」
「あほめ。ただまあ”理想郷”が出てくるのは予想外だった」
「”理想郷”か......何者なんですかね? あいつら」
「わからん。これまで何人かメンバーは判明しているがどいつもこいつもフィル殿並の実力者ばかりだ」
「おっかねえなあ......」
「ああ、ただ......」
「ただ?」
「ウェルカ市でのケビンたちの活躍の報告書は見ただろう?」
「ああ、とても黒鉄級の活躍じゃなかったな」
「まあそうだが、俺が言いたいのはあいつらの遭遇した”火薬”と”航空艇”だ。これは”理想郷”と関係ない気がしてな」
「というと?」
ポールの質問にバネガは自分でも考えを整理しつつ口にしている様子だった。
「”理想郷”の連中は良くも悪くも欲望に忠実だ。行動が直線的なことが多い。ただ、ケビンたちの追っている件はもっと複雑な陰謀の匂いがする」
「しかも人手も金も組織力もあるやつらか? たまったものじゃねえな」
「そうだな。だから今回の件が片付いたらお前には連峰の方を探ってもらうぞ?」
バネガにそう言われて、ポールはうげっという顔をした。
「あの広い山を? 俺一人でですか?」
「ああ、ケビンたちにはドキアで調査を行ってもらう。エレン殿の件もあるしな」
その名前を聞いてポールはピクリと反応した。
「おやっさん、やっぱりあの子は......」
「ああ、金髪に緑の眼、オーランド流の達人であの話し方とくればほぼ間違いないだろう」
ポールはぺしんと自らの頭を叩いた。
「まったく、何が目的なのやら」
「わからん。ただこの街が目的じゃないのかもしれん」
「というと例の二か月後の?」
「あくまで可能性の一つだがな」
ふむとポールは頷いた。それから頭を振って陽気に笑った。
「ま、わからんことを今考えてもしょうがないでしょう。守護士は目の前のことを一つずつ片付けていくしかない」
バネガはそれもそうだと思った。今は情報が少なすぎる。とりあえず自分にできることはいつでもどのようにも動けるようにしておくだけだと腹を括って、今日の晩酌を楽しむことにした。
朝ってどうしてこんな眠いんですかね......二度寝の誘惑に勝てない......




