第三十九話「ポール・ロランツ」
吹き荒れる嵐をものともせずに、ケビンは守護士の支部に帰ると真っ先にバネガの胸倉につかみかかった。
「どうしてあの依頼自体がおかしいことを言ってくれなかったんですか!? 言ってくれればフェリスがさらわれることはなかったのに!」
「......」
バネガは沈黙を貫いた。
「何か言ってくださいよ!」
「ケビン!!」
ジャックの声が突然、ケビンを押しとどめた。ケビンの首元にはいつのまにか刃が当てられていた。
刃の主は若い男だ。鋭い視線に東方風の意匠、手に持っているのは薙刀と言われる武器であろうか。遠間からぴたりと間合いを把握し、ケビンの首の薄皮一枚を正確に押し当てていた。胸元には白銀級を示す守護士のバッチが輝いている。
「その手を離しな。坊主」
「......」
ケビンは言う通りにするしかなかった。
「また依頼の説明をしなかったのかい? おやっさん」
おやっさんとはバネガのことだろう。バネガは襟を直しつつ肩をすくめた。その反応に男は笑った。いつものことなのであろう。
「だが、守護士が依頼の詳細を支援者に聞くのは基本だぜ? ガキども。そんなこともできないで人に当たるのはお門違いってもんだ」
ケビンは何も言えなかった。ケビン自身そういうことはフィルやターナーにしっかりと教わってきたからだ。今回の件を引き起こしたのは自分たちの慢心だとケビンも理解していた。
「で? 突然でてきたあんたは誰だい?」
ジャックが男にあまり興味のなさそうな声で聞いた。
「おっと、自己紹介がまだだったか。俺はこのマース市の担当守護士のポール・ロランツってもんだ。期待のスパールーキーたちの話は聞いてるぜ?」
「そりゃどうも、おっさん」
さっき「ガキ」と言われた意趣返しだろうか。ポールとジャックは睨み合っていた。
先に根負けしたのはポールだった。ケビンに突き付けていた刃を引いて、三人に尋ねた。
「それで? 一体どうしたんだ? 先輩に話してみ?」
ポールが先にひいて、ジャックも怒りの矛を収めたのか、先ほど屋敷で起こったことを説明した。
そして、大人しく聞いていたポールだったが、”理想郷”の件になるとポールだけでなくバネガも反応した。
「あいつら、この街にも出やがったのか」
「ウェルカ市で捕まったと聞いていたが......この街でも出るとはな......バネガさん、俺が出ますか?」
「......そうだな。炎魔塔だったか......四人で行くといい」
「四人?」
ポールは眉を吊り上げた。明らかに不服そうである。
「何か文句でもあるのか? フェリスは俺たちの仲間だぞ?」
ジャックが突っかかるのを無視してポールはバネガに聞いた。
「バネガさん、相手はあの大陸中で問題になっている理想郷のメンバーだぜ? 連携もできない新人を連れて行くのは......」
明らかに小馬鹿にしたような態度にケビンもジャックも席を立った。実力も見ていないのに馬鹿にされるいわれはなかった。それを手で制したのはバネガだった。
「相手が理想郷だからこそだ。今回の犯人も相当な実力者だ。ただ相手を倒すだけならお前を向かわせればすむが、盤面が複雑化するなら人手がいる。黙って連れていけ」
バネガに言われてポールは大人しく引き下がった。どうやら二人には相当な信頼関係があるようだ。
「ケビン・ブライアン、ジャック・ブライアン。この支部の支援者として正式な依頼だ。炎魔塔にポール・ロランツと行き、フェリス・アービングを理想郷から奪還してこい」
バネガはエレンにも向いて懇願した。
「エレン殿には申し訳ないが、手を貸してほしい。報酬はきちんと払おう」
エレンはふっと笑った。
「もちろん。人質をとるなど初めから気に入らなかったのだ。このエレン・ミンスター、喜んで手を貸そう」
エレンの快諾にバネガはこくりと頷いた。外の嵐はいつの間にか止み、晴れ間が覗いて
いた。
どなたかわからないのですが(もしかしてわかる?)、誤字報告いただきありがとうございます。
どうしても過去話の管理が追い付かないので助かりますm(≧◇≦)m




