第三十八話「お前は誰だ」
屋敷の奥、レンヌの部屋の前まで来たジャックとエレンは扉を蹴破った。ケビンが止める暇もなかった。
部屋の中には驚いた表情のレンヌ、そして両脇に執事と庭師のばーさんがうなだれたまま控えていた。
「三人ともどうしたのかしら? そんな怖い顔してらして?」
レンヌがおびえた声で言った。ジャックは部屋の中を見渡してレンヌにすごんだ。
「フェリスはどこだ?」
「フェリスさん? 今お手洗いに行きましたわ?」
「どこのトイレだ?」
「ま! 男性が女性のお手洗いの場所を聞き出そうとするなんてはしたないですわ?」
そういってレンヌはくすくすと笑った。外ではいつの間にか嵐が吹き荒れている。
「俺でダメなら、エレンを行かせる。早く場所を答えろ」
ジャックは厳しい表情でレンヌに対峙した。
「あらあら、困りましたわ。どうしてそのような怖い顔をしていらっしゃるの?」
「そもそもこの屋敷に着いた時から違和感はあったんだ。まるで綺麗にされていない屋敷に、住んでいる場所すら知らない親友のメイド、極めつけは生活感のない部屋の数々だ」
「......」
ジャックの解説に、レンヌも執事たちもうつむいて何も答えず、ただただ黙っていた。
「そしてエレンの調査結果だ。この屋敷は今は無人らしい......」
ジャックは魔導杖をレンヌに向かって突き付けた。
「答えろ! オーレンヌ・マイア! フェリスはどこだ! そしてお前は何者だ!」
「......うふふ......うふふふふふふふふふふふふ!」
レンヌは不気味に笑い始めた。エレンとケビンが警戒心を最大にし、各々武器を構えた。
しかし、その笑い声は彼女一人で収まらなかった。まずは執事と庭師がカタカタと笑いだし、それから壁際のぬいぐるみや人形たちが笑いだした。ぞっとしない光景である。
ケビンたちはお互いの背をかばい合うようにしていつでも動けるように武器を構えた。
その笑い声がぴたりと止んだ。
その時である。ぬいぐるみの一つが口から刃を出しながら、ジャックの背目掛けて襲い掛かってきた。
「危ない!」
ケビンが咄嗟に弾いたがそこから第二のぬいぐるみが同じように襲い掛かってくる。
「ちっ!」
今度はケビンに襲い掛かるぬいぐるみをエレンが舌打ちしながら切り裂いた。
だがそこからはあっという間だった。ぬいぐるみや人形たちが次々と刃物を持って襲い掛かってくる。一体一体の攻撃力は大したことはない。ケビンたちなら難なく対処できるのだが、その人形たちは嵐のように襲い掛かり、ケビンたちは完全に防戦一方だった。
「あらあら? 意外と大したことないのね?」
つまらなそうに言うレンヌには先ほどまでの薄幸の美少女の様子はなかった。長く白い脚を組み、手の甲に顎を載せつまらなさそうにする様は、まるで傾国の美女ともいうべき妖艶さを醸し出していた。
「ラミエルを倒したというからどれほどのものかと思ったら、全然お話にならないじゃない?」
「ラミエル!? まさか! 理想郷か!?」
ジャックが以前の変態騒ぎの時に、敵が口にしていた組織の名を出すと、レンヌは冷たく笑った。
「ええ? そうよ? もっと早く気づければよかったわね?」
レンヌは更に腕を振るった。すると両脇に控えていた執事と庭師もおよそ人間とは思えないカクカクとした体の動きをしながら突っ込んできた。二人の両手にはいつの間にかナイフが握られている。
「ぐっ! フェリスをどうした!?」
執事の攻撃を受け止めながら、ケビンは必死の声でレンヌに問いかけた。
「ああ、あのお姉さん? 可愛くて気に入ったから私のお友達に加えることにしたわ。可愛いのよみんな。見せてあげたいわ。私のお人形コレクション」
「ぐ! この変態め!」
「ふふ、ありがとう。私たちには最高の誉め言葉だわ。さあそろそろ終わりにしましょう?」
そう言って、レンヌは指をくいと動かして、さらに激しく人形たちに襲わせた。ケビンたちが段々と服も体も切り刻まれていく。
「ほら、このままあられもない姿にしてあげる」
レンヌの唇から愉悦が漏れる。完全にサディストの顔だった。
「ぐぐ......くそ!」
その時、ジャックが毒づいた。彼も杖で人形たちを打ち払っていたが、全てを撃退できず、段々と服が破れていた。
「そんなに見たきゃみせてやるよ!」
そういってジャックは上を脱いで上裸になった。そして気合一閃、庭師の方を杖でフルスイングで吹っ飛ばした。
「どうだ!」
「うえっぷ」
勝ち誇るジャックと対照的に、レンヌがえづいていた。ジャックはその様子を見てピンときた。
「ケビン! お前も脱げ!」
「え!? なんで!?」
「後で説明する! とりあえず脱いで俺に合わせろ!」
ケビンは頷いた。ジャックがこの状況で全く無意味なことをするわけない。攻撃の一瞬のスキをついて、上着を脱ぎ棄てた。
「脱いだぞ!」
「よし! せーのでポーズだ!」
「なんで!?」
「いいから! せーの!」
はいっといって、二人はポージングをして自分自身の筋肉を大いにレンヌに見せつけた。
レンヌはそれを真正面から見てげぽげぽげぽと床に吐いている。先ほどの美少女の姿などどこかへ消えてしまっていた。
「なんてもの見せるのよ!」
レンヌの抗議にジャックは鼻で笑った。
「ふん! 相手の弱点を容赦なくつく! 兵法の基本だ!」
「ねえジャック? 俺らって本当に守護士だよね?」
ケビンは自分のさせられている行動に思考が追い付かず、子供のようにジャックの手を引っ張っていた。ジャックはその手を邪魔だと振りほどく。
「いまだ! エレン!」
「おう! オーランド流ーー紅蓮若火!」
出会った時のように辺り一帯を炎が包み、人形たちごと燃やしていった。執事と庭師は炎を避けたが、残りは跡形もない。
「ちっ!」
レンヌは舌打ちして、執事に自分を持ち上げさせた。そして庭師が先行して窓をぶち破り、執事もそれに続いた。逃げたのだ。
ケビンたちが慌てて窓の外を見たが、そこには誰もいなかった。その代わり声が聞こえてきた。
「お姉さんは預かったわ。返してほしければ、炎魔塔までいらっしゃい? 遊んであげるわ」
まんまとフェリスを連れ去られたケビンたちは歯噛みした。外の嵐はまだ止みそうになかった。
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