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第三十話「自らの航海」

 もう一方のヘルドックもアメリアとジェイドが難なく倒していた。アメリアは魔導銃をドーランにつきつけた。


「終わったぞ、ドーラン。それともまだ何か残っているのか?」


 ドーランはうつむいていた。ただただ黙っていた。


「何か言ったらどうなんだ?」


 アメリアが更に続けた。しかし相も変わらずドーランは何も答えない。


「キャプテン・キッドのクルーの名が泣くぞ?」


 アメリアがその名を出した瞬間、ドーランの眼に怒りの炎がともった。


「てめえが、あの人の名口にするんじゃねえ!」


 ドーランの唇はわなわなと震え、手に持ったシミターは矛先が定まらなかった。


「やはりあの船の一員だったのか」


 冷静に言うアメリアに対し、ドーランは感情的になりながら怒りをぶつけた。


「そうだ、お前らが騙し討ちのように殺した同胞たち最後の船員だ!」


「騙し討ち? キャプテン・キッドは海賊だったんだろう?」


 ケビンが不思議そうな顔をした。海賊を騙し討ちとはおかしな話だった。


「知らないなら教えてやる。そいつらがどうやってキャプテンを殺したのかをな」


 ドーランが憎しみを込めた目でアメリアを睨みつけながら語り始めた。


「そもそもキッドの船長は海賊なんかじゃねえ。レイカー王国のれっきとした海軍の一員だ」


 ドーランの話にケビンたちは驚愕した。初めて聞く話だったからだ。しかし、アメリアたちは知っていたのか反応は見受けられなかった。


「あの当時、この海は帝国に支配されていた。レイカー王国の貿易船は高い関税をかけられ、雀の涙ほどの利益を生み出しても、帝国出身の海賊たちがやってきてすぐに強奪されちまう。俺の最初の船もそうだった」


ドーランは当時のことを思い出して、悔しくて歯噛みする。


「だが王国の海軍は帝国に逆らう事は出来ず、俺らは泣き寝入りするしかなった。そんな苦境を救ってくれたのがキッド船長だ! 海軍将校にも関わらず、俺たちみたいなごろつきを雇ってくれたあの人は次々と帝国の海賊船を沈めていった。あの人のおかげで帝国と同盟を結ぶ頃には、この海に手出ししようなんて輩は居なくなっていた! なのに......なのに!」


 ドーランはアメリアにシミターの矛先を突きつけた。


「お前の親父ーーオドラスの野郎はキッド船長を討伐することにしたんだ! 帝国に手を出しすぎたキッド船長が同盟の邪魔になったからだ!」


 ドーランは悔し涙を流していた。だが睨みつける眼の光は些かも衰えていない。


「それは違うぞ?」


 そこに声を挟む者がいた。いつの間にか手下どもを倒し、合流したオドラス市長たちがケビンたちの後ろから現れていた。


「何が違う! オドラスのクソ野郎!」


 ドーランの罵言にラルバとメイソンが反応しかけたが、オドラスがそれを手で押しとどめた。


「キッドは最初から全て受け入れて、戦っていたんだ」


「ふ......ふざけるな! 何を世迷言を言いやがる! お前が船長の何を知っているというんだ!」


「知っているとも。あいつもかつては同じ船に乗った同士だからな」


「な...なんだと?」


「キッドは同じ海を乗り越えた仲間さ。ここにいるラルバとメイソンもな。お前のいう通り、あの頃の海はひどいものだった。誰かが法を無視してでも秩序を無視しなければいけないという話になったとき、真っ先に手を上げたのはキッドだった」


「だ......だが! それが本当だとしても貴様らが船長を討伐したことには変わりあるまい!」


「ああ、初めからそうなることは私もあいつも覚悟の上だったからな......」


「ばかな......俺は船長から何も......」


「若かったからだろうな......見習いのお前を巻き込みたくなかったんだろう......」


「だが! そんな証拠どこにある! お前らの作り話だと証明することができるか!」


「それは......」


 オドラス市長が言葉に詰まったその時だった。


「証拠は俺だ!」


 ジェイドが一歩進み出て叫んだ。


「ジェイド!」


 止めようとするオドラス市長を制止し、ジェイドはドーランに向かって宣言した。


「俺の名前はジェイド・ボーゲルだ! この名前をお前は知っているだろう!?」


「ボーゲル......まさか! それは船長の姓! 既にほとんどの者が知ることもない船長の姓を......」


「そうだ! 親父はオドラス市長に......これから自分を倒しに来る男に自分の息子を預けたのだ。それが何よりキャプテン・キッドがオドラス市長を信頼していた証だろう!」


 ドーランは目に見えて動揺していた。自分がこの十年信じてきたものが足元から崩れたのだ。すでに自棄になっていた。


「うるせえ! うるせえうるせえ! お前の名なぞ何の証拠になる! あとからオドラスに聞いただけかもしれねえだろう!」


 ジェイドは頷いた。


「そうだな、そうかもしれん」


 そして同時に三又槍を構える。


「だけどな、俺は育ててくれたオドラス様を......そしてアメリア・キャプテンを信じてるんだよ。船乗りが自分の信じた海を渡らねえのは死んだも同じさ」


 ドーランは驚愕した。そのセリフは最期の別れ際にキッドがドーランに遺した言葉と一緒だったからだ。ドーランはジェイドの後ろにかつての船長の面影を見ていた。


「ぐおおおお! くそおおおお!」


 それでもドーランは認めることはできなかった。自分の信じた道を生きるのはドーランも一緒であった。彼も船乗りなのだから。


 ドーランは胸元の笛を力任せに吹いた。すると先ほどまで息絶えていたように見えてヘルドックが突如として復活した。


 ヘルドックの一方はアメリアを、もう一方はケビンたちに襲い掛かる。彼らは既に疲弊しきっており、防御もままならない状態であった。


「ウォーターバレット!」


 その時どこからともなく水の散弾がヘルドックを襲った。ヘルドックは勢いよく放たれた水に一瞬怯んだ。


「炎型一の形・業炎五竜爪!」


 そして後から一人の剣士が飛び出してきた。彼は一瞬の内に五回剣を振り、ケビンたちがあれだけ苦戦したヘルドックたちを一瞬で倒してしまっていた。


「「親父!?」」


 ケビンとジャックが同時に叫んだ。剣士の正体はフィルであった。いつの間に島に上陸したのであろうか。


「パパと呼べい!」


 フィルはそう言いながら二人の息子に鉄拳を落とした。ダメージを受けた体にフィルの拳は強烈すぎたらしい。二人ともピクリとも動けなくなってしまった。


 フェリスは恐る恐る二人を木の枝でつついている。


 その様子を無視してジェイドはアメリアの無事を確認し、再び槍をドーランに向けた。ドーランはそれでもあきらめていなかった、毅然とシミターを構えて睨み返す。すさまじい復讐心であった。


「黄金級守護士もきた。これ以上は何もできんぞ?」


「黙れよボン。俺は俺の海を行くさ」


 しかし、二人がぶつかり合う事はなかった。やはり突如として物陰から飛び出した影が、ドーランに当て身を食らわせて、気絶させてしまったのである。


「なんの真似だ?」


 飛び出したのはスタントンであった。スタントンはドーランを担ぎあげると、つまらなさそうに言った。


「こんやつでも高く買いたいというやつがいるらしくてな......仕方がないから回収だ」


「近頃の傭兵は人さらいもするのか?」


 スタントンはアメリアを睨んだ。


「知っていたのか?」


「まあな。貴様黒い蠍の砂漠の鉄甲鬼だろう?」


 スタントンは笑った。そうまで調べがついているならば、ケビンたちが追い付いてくるのも時間の問題かもしれないと本気で思っていた。


「そいつらに伝えろ。次は風の都だと」


 そしてスタントンは人ひとり担ぎ上げながら、上空へ飛んだ。彼が飛んだ先には縄梯子が垂れ下がっており、スタントンはそれを片手で掴んだ。飛び去って行くスタントンを一同は呆然と見つめたが、一方でケビンたちは驚愕した。


 スタントンを連れ去ったのは航空艇である。そしてその航空艇は音が出ていなかったのだから。

ようやく水の都編まで終わりそうです!

次の冒険の構想も出来上がってるので

頑張って書きます!

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