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第二十七話「出航」

 パーシバル号はアメリアの船だ。大きさは中型船といった感じだが、マストのの帆に加えて前後に一つずつ、計三枚の帆が翻っていた。船首には女神の像が捧げられており、海を豪快にかき分けて進んでいた。目指すは髑髏島。航海は順調であった。


「うぼええぇぇぇええぇ!!」


 ......ジャックが船酔いになったことを除けば......。


 ケビンとフェリスはジャックの介抱をするために船内中を駆け回っていた。普段一番頼りになる兄貴分がこうなるとは、ケビンもフェリスも予想だにしていなかった。


「ほら、船医さんから酔い止めの薬をもらってきたから飲むんだ」


「うう、悪いなケビン......」


 ジャックは弱弱しそうにケビンから水に溶かした薬をもらっていた。フェリスが呆れたようにいう。


「ほらタオルよ。あんたたち船に乗ったことなかったの?」


 ジャックが感謝しながらタオルを受け取り、フラフラになりながら答えた。


「よく考えたら......なかった......な......俺ら基本的に山育ちだし......うおええぇえぇえぇ」


 またジャックが海に吐いていた。フェリスはこれから決戦だというのにと頭を抱えていた。


 そこへ笑いながらアメリアが来た。


「まさかジャックにそんな弱点があったとはな。意外だったよ」


 恨みがまし気に見るジャックに代わってケビンが答えた。


「多分、陸に上がれば治るとは思うんですけど......」


「ううむ、髑髏島に入る前の海域でもっと激しく揺れると思うんだが、それ以前にこの海域は......」


 アメリアが言い終わるかどうかといううちに船がドーンと揺れた。海に落とされそうになるのをケビンたちは船の縁などにしがみつき必死に耐えた。ジェイドがアメリアを呼びに来た。


「キャプテン! 来ましたぜ!」


「ああ! ケビン! フェリス! クラーケンだ!」


 アメリアが叫ぶと同時にソレが海中から船の横に姿を現した。それはタコのような魔獣だった。脚が八本あり顔がひょっとこのように滑稽な形をしている。問題はその大きさが船より大きいことだった。


「ぼやぼやしてんじゃないよ!」


 アメリアの怒号にケビンはハッとさせられた。


「ジャック! 使い物にならないならさっさと船室に引っ込みな! あんたを助けてる暇なんてないよ!」


 ジャックは顔を悔しそうにしながらも奥に急いで避難していった。流石に憎まれ口をたたく余裕はなかったようだ。アメリアは避難していくジャックを横目で見ながら船員たちに的確に指示を出していく。


「ジェイド! アレの準備はどれくらいでできる!?」


「あと五分くだせえ!」


「遅い! 三分でやれ!」


「アイアイ、キャプテン!」


「ケビン! フェリス! 三分だけ力を貸せ! あいつをこの船から引きはがすんだ!」


 ケビンとフェリスは頷いた。何をする気なのか知らないが、船長の指示に従わないわけにはいかなかった。


 だが、状況はさらに悪化した。船縁のあちこちから魔獣が飛びしてきたのだ。それはまるで魚のような魔獣であった。魚と違うのは足が生えていて、鋭い牙を持っていることだ。


「ちっ! サハギンか!?」


 アメリアは舌打ちをした。クラーケンとサハギンの群れを同時に相手どるのは流石に厳しかったのだ。


 だがその不安は杞憂に終わった。どごんっと鈍い音がすると、サハギンの一匹がケビンたちの頭上を越えて海へと叩き落されていった。


「がっはっはっ! お嬢! 雑魚どもはわしらに任せな!」


「そうですね。この程度の敵、キャプテンが相手どるものではありません」


「そういうわけだ、アメリア! 好きに暴れなさい!」


 いつの間にか甲板に出ていたオドラス市長・ラルバ・メイソンの三人がアメリアたちを守るようにサハギンを相手どって戦っていた。齢を全く感じさせない荒々しい戦い方である。


 アメリアはふっと笑って叫んだ。


「ご老人方、あまり無理をすると腰をやるから気をつけな!」


「誰が老人だ(ですか)!?」


 三人の抗議を背中に受けながら、気を取り直してアメリアは前を向いて仕切りなおした。


「さあケビン、フェリス! しっかりついてきな!」


「「はい!」」


 アメリアの号令に二人とも気を取り直していた。


「無型二の形・飛竜!」


「トルネードショット!」


 ケビンが気の竜を放つと同時にフェリスもも魔導器を発動させて竜巻を放った。竜巻が気の竜を取り囲んでクラーケンに直撃する。キングリザードを倒した二人の連携技だった。


 しかしその技をもってしてもクラーケンは微動だにしていなかった。サイズがデカすぎるのだ。


 クラーケンの脚が横薙ぎに薙ぎ払われる。ケビンたちは飛んで躱したが、通り過ぎた時にごおっと凄まじい音がした。当たれば体がバラバラになってしまうかもしれない。ケビンとフェリスの背に冷や汗が伝った。


「メイルシュトローム!」


 アメリアが魔導器を発動させた。海面に渦潮が起こり、クラーケンを飲み込んでいく。流石にサイズが大きすぎて完全に飲み込まれることはないが、完全に体制は崩れていた。


「はあ!」


 いつの間にかマストに上っていたアメリアは気合と共に飛び降りて、クラーケンの脚をシミターで真っ二つにした。


 クラーケンは痛みで蠢いていた。


「一本一本確実にダメージを与えるんだ!」


「「はい!」」


 ケビンとフェリスもそれぞれ脚の一本に狙いを定め始めた。


「火型五の形・炎柱剣!」


 ケビンが火を出して脚を焼けば、


「ウィンドスライサー!」


 フェリスは風でクラーケンの脚を切り刻んでいった。少しづつダメージを与えていた。


 アメリアも黙ってみているわけではなかった。マストからマストへ、まるで猿のように素早く移動しながら、船を壊そうとするクラーケンの脚を両断していく。


「たあっ!」


 四本目の脚をフェリスが寸断したときだった。


「きゃあっ!」


 反対側から来た脚に気付かず、フェリスが吹き飛ばされた。甲板に転がるフェリスにクラーケンの追撃が迫る。フェリスは覚悟を決めて目を閉じた......しかしフェリスの身体に衝撃が来ることはなかった。フェリスがゆっくりと目を開けるとそこには青白い闘気を噴出してクラーケンの脚を真っ向から受け止めているケビンがいた。


「ケビン!」


「無事か! フェリス!」


 ケビンの身を案じる声にフェリスは我に返った。


「ええ、大丈夫。ケビンは?」


「気で防いだから問題ない。合わせられるか?」


「誰に言ってるのよ!」


 その様子を見ていたアメリアはふっと笑った。いいコンビだと思った。そしてジェイドがアメリアのもとにやってきて叫んだ。


「キャプテン! 準備できました! いつでも!」


「よし! ジェイド! タイミングはお前に任せる! ケビンとフェリス! 最強の一撃を叩きこんであいつを後退させるよ!」


「「「アイ! キャプテン!」」」


 ケビンもフェリスもノリノリだった!


「火型五の形・炎柱剣!」


「ウィンドスプレッド!」


 ケビンの放った炎の柱をフェリスの風が広げてクラーケンに襲い掛かる。クラーケンは全身を焼かれてもだえていた。


 アメリアはそれに続いた。


「ビックウェーブ!」


 大津波がクラーケンを襲った。ケビンたちの火は消えたが、クラーケンは船から遠ざかった。その瞬間ジェイドの声が響き渡った。


「ってぇ!!」


 船の横に空いていた穴から轟音が鳴り響きクラーケンに直撃した。大玉が飛び、大爆発を引き起こした。


「アメリアさんあれって!?」


 ケビンが驚いたように聞くと、アメリアは笑って答えた。


「火導砲さ! 少し準備に時間がかかるが凄まじい威力だろう?」


 そう言っている間にも火導砲が次々にクラーケンに撃ち込まれている。クラーケンはたまらず海の向こうへ逃げ出していった。


 それを見届けたアメリアがシミターを掲げて叫んだ。


「てめえら! 私たちの勝利だぁ! 勝鬨をあげなぁ!」


 アメリアに続いて船員たちも手を天に掲げて叫んだ。無論ケビンとフェリスもだ。


 最後のサハギンを海へと叩き落したオドラス市長がそれを困ったように見ながら、アメリアに向かって叫んだ。


「アメリア! 勝利に沸いているところ悪いが、そろそろだぞ!」


「わかってるよ! 野郎ども! ここからが本当の正念場だ! 配置につきな!」


「おおお!!!」


 アメリアの号令を受けて船員たちは忙しく動き始めた。ケビンとフェリスはこれから何が起こるのかわからず、オドラス市長たちに聞きに行った。


「市長! これから何が始まるんですか?」


 オドラス市長の代わりにラルバが答える。


「入るんですよ。髑髏島の海域にね」


 ラルバの言葉にメイソンも続く。


「さ~て、ガキどもの技術を見せてもらおうかな? ケビンとフェリスはどっか捕まってな。最悪振り落とされるぜ?」


 二人ともかつての血が騒ぐのか楽しそうにしている。


 ケビンがオドラス市長たちに聞いた。


「でも、航海術も操舵術もお三方が知っているんですよね? アドバイスしなくていいんですか?」


 三人は目が点になった後、豪快に笑った。ラルバすら大口を開けて笑っている。


 オドラス市長がまだ笑いをかみ殺しながら、涙をぬぐって言った。


「安心してくれ、ケビン殿」


 アメリアは目を閉じて船首に立ち、何かを待っていた。


「アメリアとジェイドはな」


 ジェイドは静かに舵を握ってアメリアが動き出すのを待っている。


「私たちが持てる技術のすべてを叩きこんだ、海の申し子たちだよ」


 アメリアの眼がかっと開いた。


「取り舵ぃ! いっっぱーい!!」


 船員たちが応っと船長の呼びかけに答える。ジェイドが波の流れを読んで絶妙に舵を切った。


 その瞬間、ガクンと船の進路が変わった。いつの間にか辺りは岩肌が目立つ地帯になり、危険な場所に船は入り込んでいた。


 ケビンたちはとても立っていられなかった。船は右に左に、あわやぶつかるという瞬間に急旋回して岩肌を避けていく。


「動きが遅れてるよ! 死にたくなかったらもっと反応上げな! 次! 三秒後に面舵いっぱい!」


「アイアイ! キャプテン!」


 アメリアの怒号と船員たちの呼びかけに答える声が連続で甲板上に響き渡る。ケビンたちはあまりの激しさに目を白黒させていたが、オドラス市長たちは仁王立ちで弟子の成長を笑いながら見守っていた。


(これが本物の船乗りか!?)


 ケビンが声も出せないまま感心していた。


 そうこうしている間に、いつの間にか船の動きは落ち着きを取り戻していた。


「さあ! てめえら! 戦闘準備だ! 激しくいくよぉ!」


「うおおおおおお!」


 アメリアがシミターを振り下ろした。その先には目的の髑髏島が待ち構えていた。

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