第二十五話「不穏な動き」
酒場を出たケビンたちは守護士の支部に帰る道中で集めた情報を整理していた。
「現時点での二人の意見を聞いておきたいんだが、ラルバさんとメイソンさんーーどちらが今回の事件の犯人だと思う?」
ジャックがケビンとフェリスに意見を求めた。
「......」
「......」
二人はしばらく考え込んでから、まずはケビンが口を開いた。
「ラルバさんは犯人じゃないような気がする。オドラス市長に忠誠を誓っているみたいだし、不正に関しての悪い噂も聞かないし。能力的にはできそうだけど、動機が見つからないかな?」
フェリスも同時に自分の考えを述べた。
「メイソンさんも同様ね。オドラス市長のことを未だに信頼しているみたいだし、ラルバさんのことも悪く言いつつも戦友のように思ってて、彼らを裏切るような真似をするとは思えないわ?......しかも密貿易なんて細かいことできる性格にも見えないし......」
二人の意見にジャックも頷いた。
「俺も同意見だ。オドラス市長とラルバさん、メイソンさんの三人は強い絆で結ばれている。誰に聞いてもーー本人たちに聞いてもその印象は間違いないだろうーー残る可能性は三人とも共犯という可能性だが......」
「それは考えにくいな。だったらアメリアさんに捜査させる意味が分からない。さっさと彼女を他の街にやった方がよほど効率的にできるはずだ」
ケビンの声にジャックも同意した。
「ああ、とするとやはりそれ以外の人間が犯人か......俺の予想が正しければそろそろ......」
ジャックが言葉を区切ったところでそいつらは現れた。ケビンたちを取り囲むように、ガラの悪そうな船乗りたちが物陰から姿を現したのだ。
「ジャック、こいつらって......」
「ああ、おそらく”メイソン”さんの支持者だろうぜ......」
ケビンの呼びかけにジャックが答えた。ジャックの予想が当たっているのか、船乗りたちはじりじりとナイフを持って近づいてくる。
「ひーふーみー......八人か。怪我させないってなるとちょっと多いわね......」
小剣を構えながらいうフェリスに対して、ジャックはあっけらかんと言った。
「いや、多少なら怪我させても構わんぞ? こいつら一般人じゃないからな。だろ?」
ジャックに問いかけられた瞬間、船乗りたちが少し動揺したように見えた。その隙をケビンが見逃さなかった。
「無型一の形・竜爪!」
一瞬にして三度切りつけて相手のナイフを弾き飛ばす。
「てめえ!」
「ストーンショット!」
ケビンが技を放った隙に横合いから切りつけようとした敵はジャックが石の塊で吹き飛ばしていた。
「シェフィールド!」
反対側ではフェリスが二人を相手どって圧倒的な速さでナイフを弾き飛ばしていた。
残りは二人ーーそう思ってケビンとジャックが振り向くとあとの船乗りたちは逃げ出していた。盛大に肩透かしを食らったが、気を取り直してうずくまっている二人に目を向けた。
ジャックがドスの利いた声で船乗りに聞いた。
「で? あんたらは誰の命令でこんなことをしたんだ? 正直に答えないなら守護士の規約に則って拷問で聞かなきゃならんのだが?」
無論嘘である。守護士の規約にはしっかりと拷問などは禁止されている。ケビンやフェリスは呆れた顔をしていたが、船乗りの一人には効果があったようで、怯えた声で話し始めた。
「ひっ!? ま、待ってくれ。これはメイソン様の為になるって言われたんだ。港の為になるからって俺らは!」
「誰に言われたんだ?」
ジャックが問うと、船乗りは正直に答えた。
「ドーランさんだ! あの人がそう言うから俺らは......」
「はあっ!!」
「ぐおおぉぉぉおおおおぉぉ!」
船乗りが言葉を続けようとした瞬間、気合と共に気弾がジャックを襲った。ジャックはそれに気づき、間一髪魔導杖で防いだが、思いっきり吹っ飛ばされた。
「ジャック!?」
ケビンが吹き飛ばされたジャックを見やり、その後気弾が飛んできた方向を確認すると、家の屋根の上に一人の男が立っていた。
全身黒ずくめのスーツ姿、サングラスをかけ、腕には魔導石を埋め込んだガントレットがはめられていたいた。
「あの人ーー確かダーモットっていう帝国商人と一緒にいたスタントンだったわね?」
ケビンとともに昼の争いを見ていたフェリスが名前を思いだした。すさまじい武の匂いを放っていた男が今は超然とこちらを眺めていた。
そしてスタントンが屋根から地面へまるで体重がないかのようにすたっと降り立ったーーその瞬間だった。
ケビンの気を抜いた一種の隙を突かれて懐に入られた。ケビンが反射的に避けれたのはフィルとの訓練の賜物であろう。一瞬後にケビンのいた所をスタントンの重そうな拳が通り過ぎていた。
「シェフィールド!」
「無型一の形・竜爪!」
ケビンとフェリスでスタントンの身体が流れたところに最速の技を放った。当たるはずだった。しかし、スタントンは生身とは思えない速さでしゃがみ込み二人の技を避けて、そのまま足払いを掛けた。二人は地面に倒れこんだ。すぐに起き上がろうとしたケビンが見たのは、同じく起き上がろうとしていたフェリスにスタントンが拳を叩きこもとしている姿だった。
「フェリス!」
焦ったようなケビンの声が響いた。
「連牙!!」
その瞬間横合いから拳の連打がスタントンを襲った。襲ったのはジャックだった。主義を捨てて紅狼流を使ったのだが、その拳はすべて見切られた。
スタントンは落ち着いてすべての拳を避けると、攻撃が止んだ瞬間を見計らって、ジャックの大きな体に前蹴りを叩きこんだ。ジャックは再度吹き飛ばされた。
「くそ! よくも!」
ケビンが起き上がってスタントンに剣を振るったがこれも避けられてしまう。当てる事すらできなかった。明らかに技量に差がある。
「ストーンバインド!」
「!?」
ケビンの攻撃を避けていたスタントンは急に体を崩した。いつの間にか脚に地面が巻き付いてた。ジャックが再度魔導杖を手に取り、スタントンの動きを妨害したのだ。
「フェリス!」
「わかってるわよ! シェフィールドダンス!」」
フェリスはいつもより速く動きスタントンに襲い掛かった。
「ちっ!」
戦い始めてから初めてスタントンに焦りの様子が見れた。明らかによけるのが精一杯なのである。脚を封じられてそれでも避けられるのは流石であるが......
「真・無型一の形・豪竜爪!!」
そこでケビンが渾身の一撃を放った。四連撃がスタントンに襲い掛かる。それでもスタントンは三撃まで避けたが、ケビンの最後の一撃はスタントンのサングラスを弾き飛ばした。
「はあ!」
ここからさらに追撃を繰り出そうとした、ケビンとフェリスをスタントンは気の放出だけで弾き飛ばした。
「うわ!」
「きゃあ!?」
ケビンとフェリスがジャックと同じ箇所まで転がる。
その間にスタントンは壊れたサングラスを拾い上げた。そしてケビンたちを見たーー強烈な笑みを浮かべて。その笑みは手ごたえのある獲物を見つけて喜ぶ獣のそれであった。
スタントンの殺気が膨れ上がり、今日初めて構えを取った。そのままステップを取り次の攻撃のリズムを取り始める。
ケビンたちも覚悟を決めた。次の一撃に対応できなければ命を落とすことを本能的に感じ取っていた。
「そこまでですよぉ、スタントンさん」
場の緊張が解けるような声が聞こえた。いつの間にかスタントンの後ろに葉巻を吹かしながらダーモットという帝国商人が立っていた。
「邪魔をするな、ダーモット」
気弱なものがみたらそれだけで失神してしまいそうなスタントンの眼光を受けて、ダーモットは笑いながら言った。
「いえいえ、ここは私に従ってもらいますよ? 今は商売中ですからね? あなたも団長を怒らせる気はないでしょう?」
「......ちっ」
舌打ちしてスタントンは拳を収めた。そしてまた獣のように跳ねてどこかへ行ってしまった。
その様子を見送って、ダーモットはケビンたちに謝罪した。
「申し訳ありませんねえ。誰かがここで戦っているという話を聞いたもので。まさか守護士の方々とは思いませんでしたよ?」
ダーモットはいけしゃあしゃあと言った。
ジャックはその言葉に一応反応しておいた。
「わかっててやったんじゃないのか?」
「まさか!? 我々帝国商人はいつでも市民の味方ですとも。当然守護士の方々のお仕事も支援させてもらいます。今日はたまたま不幸なすれ違いが起きただけですよ」
ダーモットの主張に三人ともあきれ顔だ。ダーモットはその様子を見て満足そうにうなずいた後、「では、私はこれで」と言って去っていった。
ケビンたちはその場に倒れこんだ。ラミエルとやった時以来の疲れ方だった。
そしていつの間にか襲ってきた船乗りたちは姿を消していた。




