第二十三話「船員組合組長」
男たちを取り逃がしたケビンはフェリスから文句を言われていた。
「ふつーあそこで油断とかしないでしょ?」
「......」
ケビンも返す言葉がないので黙っている
「あいつらから情報を引き出すことが出来てればそれで事件解決だったじゃない? どうして取り逃がすのかしら」
まあまあとジャックがフェリスをなだめる。
それでもフェリスは続けた。
「大体あんたそういうの多いのよ。どこか抜けてるというかさ? さっきのも拘束するなりしてまず動けなくしてから後で話を聞けば......」
「だぁっーー!! うるせぇーー!」
遂にケビンがキレた。
「お前だって、気絶させた敵にまんまと逃げられてるだろうが!! 他人のこと言えんのかよ!」
ケビンが指さして言うと、フェリスも痛い所を突かれたのかムキになって言い返した。
「はあ!? 逆ギレ? ちょっとみっともないじゃないの? 器が小さくない?」
「お前だってネチネチと......この根暗女!」
「誰が根暗女ですって!? この抜け柵!」
「な......この!」
「なに? やるの? かかってきなさいよ!?」
顔を赤くして、それでも女の子だからと手を出せないでいるケビンに対して、フェリスはファイティングポーズを構えてシャドーをしていた。ケビンが殴りかかってきたら、カウンターする気満々である。
またかとチームワークの前途多難さにジャックが頭を抱えていると、三人は目的地の前まで来ていた。ジャックが二人に言った。
「ほら、着いたぞ? いちゃついてないで任務だ」
「「誰がこいつなんかといちゃつくか!?」」
二人は顔を真っ赤にして言い返していた。ジャックははいはいと言いながら、今日アメリアと話をした酒場に入っていった。
☆☆☆
昼間来た時と違って夕暮れ時になると酒場は賑わっていた。店内のあちこちから船乗りたちの今日の戦果や賭け事の争い合う声が聞こえ、看板娘が忙しく駆けまわっていた。
ケビンたちはその喧騒の中、隅っこのテーブルである男の観察をしていた。
齢は四十前後であろう。背はケビンよりより少し高いか、赤髪で筋骨隆々の体格をしており、首の筋肉などフェリスの腰くらいありそうであった。その男は大勢の船乗りに囲まれて陽気に大ジョッキを傾けてがっはっはと大笑いしていていて、なんとなくオドラス市長に似ているような気がした。
「あれがメイソンっていう船員組合の組長さん?」
「ああ、さっき子分の一人がーー「組長にいつもの」ーーって言ってたから間違いない」
フェリスが聞くとケビンも同意した。任務になればこの二人は先ほどの喧嘩を忘れたかのように連携できるのがジャックにとってせめてもの救いだった。
「しかし、さっきのラルバって副市長と言い、あのメイソンと言いーー相当な手練れよね?」
「なんでも二人ともオドラス市長が現役だった時からの仲らしいぞ」
「それが今となっては密貿易の元締めねぇ......」
フェリスはつまらなさそうにジュースをストローで飲みながら呟いた。
「でもあんたそんな情報どっから仕入れてきたのよ?」
フェリスが聞くとジャックは目線をカウンター席にやった。そこではジャックの目線に気付いたマスターがにっこりと親指を立てていた。
「あのマスター、親父のファンらしい。聞いたらなんでも教えてくれたよ」
ははっとフェリスは半眼で苦笑いしていた。
「それで? あいつーーメイソンの情報はどうやって引き出す気なの?」
フェリスがジャックに聞くと、ジャックも困ったような顔をしていた。
「それなんだよなぁ......本当なら酒場の船乗りにちゃちゃっと聞く予定だったんだが......」
そう言葉を濁してジャックはケビンとフェリスをチラリと見た。彼らの手にはジュースが握られている。ジャックは露骨にため息をついた。
「ちょっと!こいつはともかく私まで足手まといっていうつもり!?」
「こいつはともかくってどういう意味だ!? こういう場にフェリスみたいなのがいることが場違いだろう!」
ケビンとフェリスが言い合っているのを見てジャックがまた頭を抱えていた。どっちもどっちである。
ジャックが次の手を考えていると、酔っ払った船乗りーー極めつけにガラの悪そうなのが二人近づいてきた。二人はニヤニヤしながらケビンたちのテーブルに近づくとフェリスに対して話しかけた。
「なぁ、ねーちゃん。そんな所で喧嘩するくらいなら俺たちと飲まないかい? 子供の相手は飽きただろう?」
「そうそう。なんでも奢ってやるからよぉ。こっちでどうだい?」
二人ともフェリスの足やらヘソやらを見ながら下卑た笑みを浮かべている。
フェリスは露骨に嫌そうな顔をした後、なにを思いついたのか、急にケビンの腕に自分の腕を絡ませた。
「えー? でもぉ? 彼氏が他のお兄さんたちと飲むと怒るし~」
フェリスのどこから出しているんだろうという声にジャックは一瞬サブイボがたったが、それ以上に彼氏扱いされたことにケビンは天高く驚いていた。しかもフェリスの少々小ぶりな胸が当たっている。ケビンは顔を真っ赤にして目を白黒させていた。
船乗り二人はああっ?という感じでケビンを睨んだ。ケビンは必死に否定しようとしたが、フェリスに足を踏まれて黙らされていた。
「そんなこと言うなよ、ねーちゃん。彼氏より楽しませてやるぜぇ?」
フェリスは明らかにしつこい男たちにめんどくさくなってきていた。
「う~ん、でもぉ? 私強い男が好きなのよねぇ? 彼さっき言ってたのよ? ここにいる連中程度俺一人いれば十分だって?」
「なにぃ!?」
ケビンがまたしても驚愕していた。全く身に覚えがなかったからだ。
しかし酔っ払いたちには関係なかった。手をパキポキと鳴らしながらケビンに詰め寄った。
「へぇ? にーちゃん俺らのこと舐めてくれるじゃねえか」
「待ってくれ! 俺はそんなこと一言も......」
「うるせえ!!」
船乗りたちはケビンに殴りかかっていった。ケビンはそれを店を駆け回りながら避けていく。避けるたびに物が飛び、誰かにぶつかるので段々と被害はひどくなり、いつの間にか店中で大乱闘が起こっていた。
その様子を隠れて見ながらジャックがフェリスに抗議した。
「うちの弟を変なことに使わないでくれよ」
「あら? いいじゃないこれくらい。どうせケビンの相手じゃないのは本当だし」
(へえ?)
ジャックは少々意外に思った。いつの間にかフェリスはケビンのことをそれなりに評価していたようだった。
「あ? でもちょっとまずいかも」
ん?とジャックがフェリスの素っ頓狂な声に反応すると、ケビンがメイソンの真ん前に偶然出たところであった。
「てめぇか~? この乱闘の原因は~!」
メイソンとケビンの身長はほぼ変わらなかったが、体重は大分違うようだった。メイソンの岩のような拳を受けてケビンはたたらを踏んだ。
「ケビン! まともにやり合うな! 回り込むんだ!」
ジャックのアドバイスが聞こえたのか、ケビンは足でメイソンをかく乱し始めた。
先ほどまでの乱闘はいつの間にか収まり、いつの間にか船乗りたちの群れで、ケビンとメイソンを中心に円形闘技場のようになっていた。
「なにをちょこまかと逃げとるんじゃ~!!」
「逃げなきゃ当たるだろう!」
ケビンも至極もっともなことをいって、メイソンの拳から逃れ続ける。
業を煮やしたメイソンは無茶苦茶に腕を振り回してケビンをコーナーへと追いやった。好機と見たメイソンは思い切り腕を振り上げて渾身の一撃を叩きこもうとした。
「無型三の形・月輪!」
ケビンはいつも剣を使ってやる技を素手で行った。メイソンの攻撃は横から弾かれ空を切る。
「はあ!」
ケビンは気合一閃、がら空きのメイソンの鳩尾に拳を叩きこんだ。
「うっ!!?」
その瞬間メイソンは白目を向いて仰向けに倒れこんでいった。




