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第二十二話「副市長」

 ケビンたちはまず副市長の方から捜査を進めることにした。アメリアの話だと副市長はいつも港の関税局で働いているらしい。ケビンたちは早速、港で話を聞くことにした。


「でも、今回ってばれないように調査しなければいけないわけでしょ? ちょっと難しいんじゃないかしら?」


 フェリスの問いにケビンも応えた。


「確かに......守護士が聞き込みしてたらそれだけで怪しまれそうだ」


 ケビンたちが考え込むのを余所に、ジャックは笑って気軽に言った。


「まあ俺に任せておけって」


 そう言ってジャックは港近くの市場に入っていった。そして、手ごろな商店をみつけて店主と話し始めた。


「よお、旨そうな果物だな。見てっていいかい?」


「ああ、いいよ! 守護士のにーさん。うちは新鮮なものばかりだからね! 値段も他と比べたら安いし!」


「確かにそうだな。いい品だ。でも関税も高そうなのによくこんな値段で売れるな」


「まあそこは無理やりうちもやりくりしてるさ」


「大変だな? そう言えばここ最近噂を聞いたな。副市長が脱税をしているとかなんとか?」


 ジャックからそう言われて店主は目が点になった。そして笑って言った。


「にーさん、それは完全なデマだぜ。俺は各地で色んな人間相手に商売やってきたけどさ......あんな堅物今まで見たことないってくらいだぜ?」


「へえ? そんなになのか?」


「ああ、昔はオドラス市長の船でやんちゃしてたって話だけどな......それでも今は鋭利な刃物って感じで......俺たち商人はあの人の前で不正なんてできんよ」


「なるほどな......人の噂なんて当てにならんもんだ」


 店主とジャックはそのまま二三談笑して、ジャックは商品を一つ買ってこちらへ戻ってきた。


 フェリスは感心したように言った。


「へえ? うまいもんね」


「まあ、コツさえ掴めば簡単さ。相手をおだてて、関係ない所からカマかけて情報を引き出す......お前らもやってみろよ?」


 よーし!と気合を入れてケビンが他の店主の所に飛び込んでいった。


「やあ! おじさん。美味しそうなものがそろってるね?」


「......うちは金物屋なんだが、あんた食うんかい?」


 ケビンはすごすごと帰ってきた。フェリスは呆れたように言った。


「何バカなことしてるの? さっきのジャックと同じことをすればいいだけじゃない? みてなさい?」


 そう言って今度はフェリスがすたすたと歩いていった。


「こんにちはおじさん」


「やあお嬢さん。何か用かい?」


「美味しそうな魚がそろっているなと思って......見させてもらってもいい?


「ああ、いいとも」


「ありがとう! こんなに美味しそうなのにとても安いのね」


「ああ、今日は大量だったからね! 少しおまけさせてもらってるのさ!」


「そうなの? これだけ安いと関税とか大変じゃない?」


「......いやうちは国内の魚しか獲ってないから関税とか関係ないけど......」


「へえ......」


「ああ......」


「......それちょうだい」


「あいよ......」


 ぴちぴちと活きのいい魚を手に持ってフェリスが帰ってきた。


 ケビンとフェリスはジャックの前でうなだれたまま黙っていた。


「......お前らバカなん?」


「「こいつと一緒にするな(しないで)!!」


 二人がお互いを指さして言った。ジャックはため息をついて言った。


「お前ら応用力なさすぎるだろう......」


 ジャックは頭を抱えたがどうしようもない。何とか三人で情報を収集することにした。


「......」


 そしてそれを見つめる怪しい集団が彼らの後ろにいた。


☆☆☆


 ケビンたちは悪戦苦闘しつつなんとか情報を聞き出していった。ある程度情報を集めきったところで再度集合して互いの情報を整理することにした。


 ジャックが二人に聞いた。


「それで......お前らどうだった?」


 まずケビンが答えた。


「とりあえず不正関係で副市長から悪い話は聞かないね。むしろそういうのは許さないタイプみたいだ」


 ケビンに続く形でフェリスも答える。


「私の方も似たようなものよ? それに市長に対してもかなり忠実らしいわ」


 二人の話にジャックは頷いた。


「ああ俺の方も似たようなもんだ。脇の甘い市長をよく補佐してるってな。副市長は忙しすぎて不正なんかしてる暇もなないって話だな」


「私に何か用かね?」


 突然声を掛けられて、三人は振り返った。


 そこには白髪交じりの初老の男がいた。ポロシャツにチノパンと一見親しみやすい街のおじさんという出で立ちなのだが、如何せん目が鋭すぎる。


 三人が警戒していると、男が肩をすくめて言った。


「申し遅れました。副市長のラルバです。御見知りおきを、守護士の諸君」


 まさか調査対象から接触されるとは。一気に緊張感が増した中、ジャックが二人を手で制しながら聞いた。


「俺たちを知っているのか?」


「無論だとも。この前の泥棒事件の解決の立役者だろう?」


 ジャックは気付かれないように舌打ちした。そっちで答えられるとは思っていなかったのだ。


 副市長は知ってか知らずか首をかしげるようにしてケビンたちに聞いた。


「それで? 私に聞きたいことがるんじゃないのか?」


 調査の本当の目的を話すわけにはいかない。ジャックが言い淀んでいると、代わりにケビンが聞いた。


「あの!? メイソンさんのことをどう思っていますか?」


 メイソンの名を出された瞬間、ラルバの眉はつり上がった。鋭利な役人と言った感じの雰囲気をかなぐり捨てて、憎々しげに吐き捨てた。


「メイソン? 不愉快で耳障りのする名前だな。あのバカゴリラのせいで我が船団がどれだけ損害を被ってきたか。操舵の能力とオドラス様への忠誠心がなければとっくにサメの餌にしているよ」


 まさかこれだけの罵声が急に出てくるとは思わなかったケビンたちはどきりとしてしまった。


 ラルバは恥ずかしい姿を見せてしまったことを後悔するように、コホンと一つ咳ばらいをした。


「まあ、今のは忘れてくれ。あいつのことを調べるならいくらでも協力しよう。それではな」


 そう言ってそそくさと行ってしまった。その姿を見送ると、ジャックはケビンの肩を叩いた。


「でかしたぞ、ケビン。まさか副市長からもう一人の候補の話を聞けるとはな」


 フェリスも感心したように言った。


「ええ、びっくりしたわ。中々機転が利くじゃない」


 ケビンが照れたようにしていた。そしてある程度の情報が集まったので、三人は次にメイソンの情報を集めることにした。


 ......あえて人気のない路地へ入った三人は談笑をやめて、武器を取り出した。代表してジャックが静かに言った。


「さっきから、こそこそと後を付け回してるやつら......出て来いよ?」


 ジャックの声に応じるように黒ずくめのフードを被った男たちが前に二人、後ろに二人とケビンたちを挟み撃ちするように出てきた。


 前にいた黒ずくめの男の一人が一歩進み出る。


「副市長をこれ以上詮索するのは止めろ」


 ケビンはにやりと笑った。


「嫌だと言ったら?」


「......こうなる......」


 黒ずくめの男たちは突如としてナイフを持って襲い掛かってきた。


「ジャック!」


 ケビンが叫ぶとジャックも心得たとばかりに魔導器を発動させた。


「グランドウォール!」


 石の壁が立ちはだかり、後ろの二人を遮断してしまう。これで実質三対二だった。


「シェフィールド!!」


 フェリスが先に加速して先行する黒づくめの男とすれ違い、奥の男を狙う。


「おのれ!」


「お前の相手はこっちだ! 無型一の形・竜爪!」


 先行した方はフェリスを狙おうとしたが、それはケビンに阻まれた。ケビンの三連撃が黒づくめに襲い掛かる。


「ぬ! ぬおおお!!?」


 黒づくめの男は防ぐのが精一杯であった。


 一度体勢を崩してしまえばケビンの優勢は覆ることはない。徐々にケビンの剣圧によって押し込まれていった。


 一方のフェリスの相手も全くなす術がなかった。男が一度ナイフを振るう間にフェリスは三度相手を切りつけていて、男はすぐに傷だらけになった。


「せや!」


「ぬぐぅ!」


 ケビンの裂帛の気合と共に相手をしていた男はナイフを取り落とした。ケビンが男の首に剣を突き付ける。


「ここまでだな」


 ちらりとフェリスの方を見やると、フェリスも男に当て身を食らわせて気絶させたところだった。


 ケビンは目の前の男に向き直って言った。


「それで? どうして俺らを狙ったんだ?」


「......」


「答えないならアメリアさんに引き渡すだけだぞ?」


「......ラルバ様のためさ......」


「何?」


「ケビン! そいつ何か手に持ってるぞ!?」


 ジャックが警告したときには遅かった。黒ずくめの男は玉のようなものを取り出し地面に叩きつけると、もくもくと煙幕が広がった。


 煙が晴れるとそこには誰もいなかった。フェリスが気絶させた男も消えており、ケビンたちは折角の情報源を逃したことを悔やんだ。

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