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第十九話「水の魔獣」

 キングリザードはグエエっと鳴いて、頬を膨らませた。その次の瞬間、口をすぼめたかと思うと、人の頭ほどもある水鉄砲を繰り出した。


 ケビンたちは紙一重でそれを避けたが、水鉄砲の当たったところは溶けていた。


「気を付けて! キングリザードは猛毒もちよ! 触ったらもだえ苦しんで死ぬと思いなさい!!」


 なんとも素晴らしいアドバイスである。


「グランドウォール!」


 そうこうしているうちにジャックはせっせと毒除けの為の壁を作っていた。石の壁は水鉄砲が数発当たると溶けて穴が空いていたが、それでも何発か防げるのはありがたかった。


 ケビンは水鉄砲を避けながらフェリスに尋ねた。


「フェリス! こいつの弱点はないのか!?」


「蛇が嫌いらしいわ!」


「カエルだからね! でも蛇なんてどうすればいいんだよ!」


「知らないわよ! こんな強い魔獣がいるなんて聞いてないもの! 準備なんかしてないわ!」


「二人とも! でかいのがくるぞ!!」


 ジャックの警告と同時に二人はバッと横に飛びさすった。するといつの間にか体勢を大きくのけ反らせたキングリザードが、先ほどよりもはるかに大きい水鉄砲を放った。


 水鉄砲の着弾の衝撃波が避けた二人にも波及したが、二人はその勢いのまま技を放った。


「炎型五の形・炎柱剣!」


「ウィンドスライサー!」


 二人の攻撃を受けたキングリザードは大きくよろめいた。だが斬撃自体に効果はなく、ぬめりとした身体に傷一つついていなかった。しかし代わりに炎がなかなか消えず、キングリザードは広場の奥の湖まで走って消す羽目になってた。


 それを見たジャックがケビンに叫んだ。


「そうか! ケビン! ガマの油だ! あいつ油に体表が覆われてるから炎が効くんだ!」


「なるほど! それなら! 炎柱剣!」


 ケビンが炎を放つと次々とキングリザードは燃えていった。しかし、焼けるのは表面だけで、中まで届いているわけではなかった。


「ジャック! そこまで効いてないみたいだぞ? どうする!?」


「わかっている! とにかく焼いて焼いて焼きまくれ!」


 ジャックの指示通り、ケビンは炎でキングリザードを焼いた。すると段々と炎で燃えなくなってきた。表面の油が乾いてなくなってきたのだ。


 ジャックはしめたと思った。これを狙っていたのだ。


「よし! ケビン! フェリス! これであいつの身を守っていた油が消えたぞ! あとは攻撃しまくれ!」


 なるほどと思うと同時に二人は心得たものだった。素早く攻撃態勢に移った。


「無型二の形・飛竜!」


「トルネードショット!」


 ケビンの放った気の竜の周りを竜巻が囲む。そしてキングリザードの鼻面に直撃した。キングリザードは傷だらけになり、鼻を抑えて後ろによろけていた。ジャックはチャンスだと思った。


「ケビン! もう一発だ!」


「よし! 炎柱剣!」


 とどめのケビンの一撃だった。キングリザードの足元から炎が吹き上がり身体を焦がす。


 しかし、そこで異変が起こった。炎の足元でドンッと大爆発が起きたのだ。ケビンたちは凄まじい爆風で地面を転がされた。


 爆風が止み、硫黄臭い煙が晴れると、そこには目を回して気絶したキングリザードがいた。


 ケビンたちが起き上がり、恐る恐るキングリザードの様子を見るが立ち上がる様子はない。


 フェリスは驚いたようにケビンに尋ねた。


「あんた...あんな大技も使えたの?」


「いや! あんなの使える訳ねぇ!」


 ケビンは慌てて否定した。炎を爆発させるのは高等魔導である。まだケビンに使える代物ではなかった。


 ケビンとフェリスのやり取りを傍目に、ジャックは地面を調べていた。ケビンの炎は魔導で爆発したというよりも足元だけ爆発した感じであったからだ。


 しばらくしたところでジャックは奇妙なものを見つけた。黒い粒が地面に大量に落ちていたのである。ジャックはそれの匂いや感触を確認した。


 その様子に気付いて、ケビンとフェリスはやり取りをやめて、ジャックに近づいた。ケビンがジャックに聞く。


「ジャック。それはなんだ?」


 ジャックは真剣な面持ちで答えた。


「火薬だ......」


 ケビンはゴクリと喉を鳴らした。その物質には最近聞いた覚えがあったからだ。


「どうしたの?」


 ジャックとケビンの緊張した表情にフェリスは不思議に思って尋ねた。


 ケビンとジャックはフェリスにハイネン村であった事件のことを話した。フェリスは考え込むようにして口に指を当てている。


「航空艇と火薬ね......」


「ああ、特徴的な硫黄の匂いや量からもハイネン村の火薬とここの火薬は同じものだと見て間違い無いだろうな」


 ジャックもまた真剣な表情で言う。


「そう......実はね? ここの調査に来たのはただの未調査地域の開拓だけが目的じゃなかったの」


 二人とも驚いたように顔を上げた。代表してケビンが聞く。


「どう言うことだ?」


「うん、探索士仲間からの情報でね。ここの遺跡近辺を出入りしていた男たちがいるっていう情報が前にあったのよ」


 ジャックは呆れたように言った。


「おいおい、契約違反だぜ? そう言うことは最初に言ってもらわんと」


「一応その男たちを見かけなくなったから調査っていう話だったからね。主目的はあくまで開拓の方だったし......ただ二つ目の目的は探索士でもない男たちが遺跡で何をしてたのかの調査も兼ねてたわ」


 悪びれる様子のないフェリスにケビンたちはガックリとした。段々とフェリスの人となりが分かってきた。要するに口下手なのである。


「でもやはり気になるわね。こそこそ火薬なんか隠して何をするつもりなのかしら」


 フェリスの言葉にケビンが反応した。


「そりゃ火薬の使い道なんて燃やすか爆発させるかのどちらかだろう?」


 フェリスの問いにケビンもジャックも肩をすくめた。わかるわけがない。しかしどちらにせよコソコソ隠れて何かしている分、あまりいいことに使うとは思えなかった。


「兎に角、帰って報告しようぜ。もう調査は完了でいいんだろ?」


「あ、ちょっと待って」


 ジャックが提案すると、フェリスは走って祭壇の方に向かった。そして小さい香炉のようなものを取り出して祭壇の上に置いた。


「フェリス、それは?」


 ケビンが物珍しそうに尋ねると、フェリスは何でもなさそうに答える。


「え? あれ? まあ探索士のお守りみたいなものよ」


「「ふーん」」


 ケビンとジャックがあまり興味なさそうに相槌を打つ。そして完全に興味を失うと洞窟の来た道を戻っていった。


☆☆☆


 来た道を数日かけて戻り、ケビンたちは今回の調査の顛末と、一連のごたごたで報告しそびれていたハイネン村の事件について、ターナーに改めて報告した。


 ターナーは困ったように言った。


「ジャック、ケビン......それにフィーも......ちゃんと報告することは報告してもらわなきゃ困るよ。僕も聞かなかったけどさ......」


「「「はーい! ごめんなさ~い」」」


 とても反省しているとは思えない様子にターナーはがっくりとし、ケビンたちは互いに顔を見合わせて笑っていた。


 気を取り直して、眼鏡をクイッとあげてターナーは本題に入った。


「さて、音の無い航空艇に火薬......それに怪しい男たちか......どう考えても何かが裏で動いてるね......他に気になるものはあったかい?」


 ターナーが尋ねると、三人は首を横に振った。それを見たターナーがまた考えるそぶりをみせ、そして優しい笑みを浮かべた。


「よしわかった! とりあえず航空艇の方は心当たりがあるからちょっと確認してみるよ。あんな大きなものそう簡単には作れないだろうしね。三人はその間別件の依頼があるからそっちをこなしてもらえるかな?」


 ターナーから新しい依頼と言われて三人の興味はそっちに移った。今度はどのような案件だろうと身を乗り出す。


「今回の依頼もオドラス市長からなんだ。詳しいことは市長の娘から伝えるそうだから三人とも港の指定の場所まで向かってもらえるかな?」


 三人は露骨にゲッという顔になった。市長の娘と言えばあのゲボラである。特に何かされたわけではないのだが、彼女に会うとどうしても疲れるのだ。


 完全にやる気をそがれている彼らを見て真実を知っているターナーはくすくすと笑っていた。

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