第十八話「水導窟」
「ケビン! そっちは任せたわよ!」
「言われなくても! はあ!!」
ケビンの振るった剣が蝙蝠型魔獣・ウォンバットに命中して敵を燃やし尽くした。
「ジャック!」
「ストーンバレット!」
ケビンが指示するより早く、ジャックは無数の石の礫で近づいてきたもう一匹のウォンバットを退治していた。
「ええい! キリがない! フェリスまだか!?」
「もうちょっと待ってよ! ウィンドシーカー!」
ジャックの指示にフェリスは焦ったように応えた。そして魔導器を発動させて、風の流れで目的のものを探していた。
フェリスは風の流れが一際大きく乱れるのを感じるとともに真上を指して言った。
「あそこよ!」
フェリスの指の先には大型のウォンバット......マザーウォンバットがこちらを見下ろしていた。まるで攻撃の届かないケビンたちを嘲笑うかのように翼を大きく広げてキキっと金切り声を上げていた。
「ジャック! 頼む!」
「オーケー! ストーンウォール!」
ジャックが魔導器を発動させると石の壁がせり立った。ケビンはその壁の先端に乗り、壁が突き上がる勢いのままジャンプをした。
だが、届かない。マザーウォンバットはそれを見て油断した。翼をバタつかせて挑発までしていた。
「無型二の形・飛竜!」
しかし、ケビンの攻撃はそこで終わらなかった。ケビンの剣気が竜の形をして飛翔し、その顎がマザーウォンバットを飲み込んで切り裂いた。
マザーウォンバットは切りもみしながら地面に落ちて動かなくなり、統率者を失ったウォンバットたちは我先にと逃げていった。
「ふぅ~。しかしこの洞窟......本当に広いな」
ケビンが一息ついて感心したように言うと、フェリスも小剣をしまいつつ、ケビンに応えた。
「ここは洞窟というより、神代の遺跡だからね。まだまだ調査しきれていない部分は多いわ」
ジャックが疲れたように言う。
「本当にこんなところにお宝なんてあるのか?」
洞窟は薄暗いだけで、あと目につくものはゴツゴツした岩肌と道の脇を流れる水くらいであった。
「さあね? あるかもしれないしないかもしれないわ。ただこっからは未調査地域だから何かあるかもしれないわね」
「前途多難だなおい」
フェリスの言葉にジャックはぐったりとしていた。
三人がなぜこのようなところにいるのかと言うと、話は数刻前に遡る。
☆☆☆
「三人ともご苦労様。大変だったね」
支部に帰るとターナーが温かく三人を迎えてくれた。
「特にジャック、ケビン。二人とも相当傷を負ったらしいけど? 大丈夫かい?」
ケビンとジャックはお互いに顔を見合わせた。そして不敵に笑って肩を回したりして自身の健在ぶりを各々アピールした。
ターナーは二人の頼もしさに思わず笑って、そういえば一つ忘れていたと聞いた。
「勝負の結果はどうする? 最後はジャックの技がとどめだったと聞いたけど?」
それに三人は顔を見合わせた。まずはフェリスが口を開いた。
「私は負けでいいわよ?二人の助けがなかったらやられてたしね」
するとジャックが返した。
「だけど、所々あったフェリスの援護がなければ勝てなかったからな......安易に俺らの勝ちっていうのもな......」
最後にその場にいたみんなの視線がケビンの方を向いた。ケビンはバツが悪そうにしつつ渋々と言った形で言った。
「まあ、俺はジャックへの謝罪が欲しかっただけだからジャックがいいのであればなんでもいいんじゃないか? 最後のフェリスの一太刀がなかったら俺がやられてた訳だし......」
ケビンを除いた三人は素直じゃないケビンの姿にプッと笑った。そして三人の意見を聞いたターナーが場を締めた。
「なら、今回は引き分けということかな?」
「それでいいよ(わ)」
三人が口を揃えて言うと、ターナーは満足したように頷いた。そして三人に尋ねた。
「さて、今回の事件の顛末を教えてくれるかい?」
ターナーに問われると、三人はそれぞれ今回の事件の概要を話し始めた。
三人の話を聞いたターナーは思案する格好となった。
「理想郷......しかも第六位......そう名乗ったんだね?」
ターナーに聞かれると、ケビンが代表して答えた。
「はい......聞く限り変態たちの秘密組織みたいで......ターナーさんは何かご存知ですか?」
「いや、組織の名前はちょっと聞いたことがないな......ただ気になったのは”第六位”の方だ」
ジャックもターナーの言葉に頷いた。
「それは俺も気になっていた。六っていうのがもし単純な強さを表す順番だとしたら、大陸五剣の師範代より強い変態が少なくともあと五人はいることになる......ぞっとしないぜ」
ジャックが薄ら寒いものを感じていると、フェリスも続けた。
「そうね......しかもそのレベルの人材をまとめて留めておくことのできる人材があちら側にあるという事だわ......組織の規模も想像できない......」
四人の間で重苦しい沈黙が降りた。やっていることは馬鹿馬鹿しい限りなのだが、それゆえに理解不能で、敵の実態がまるで掴めないのだ。不気味さが際立っていた。
その空気を打破するようにターナーが手をパンっと叩いた。
「ま! 分からないことを気にしていてもしょうがない。それより次の依頼の話をしようか!」
それを聞いてケビンとジャックは俄然前のめりにあった。ターナーはその反応に満足し、依頼の話をし始めた。
「依頼内容はウェルカ市の近郊にある水導窟の遺跡探索なんだけど......実は依頼主はそこのフィーなんだ」
ケビンとジャックがフェリスの方を向いた。フェリスは視線を向けられると静かに顔を背けた。
「フィー、今回の件、ジュリオ君と共に行ってもらう予定だったけど、この二人でもいいかい? ジュリオ君もフィル殿もこっちにまだ帰ってこられないみたいなんだ」
フェリスはちらりとケビンたちを見ると、極めてクールに言った。
「構わないわよ? 今回の事件である程度連携できるようなったわけだしね。ここで改めてジュリオさんと連携を再確認するのも面倒だわ」
ケビンとジャックは顔を見合わせた。出会った頃は蛇蝎のごとく嫌われていたのだから大変な進歩であった。
ターナーはうんうんと頷きながら言った。
「そうか! 三人とも仲良くなれたようでよかった! これから安心して三人に任務を任せられるね!」
「た・だ・し! 私の脚を引っ張ったら承知しないわよ?」
フェリスは忠告すると同時にビシッとケビンたちを指さした。
ケビンは反論しようとしたが、それはジャックが抑え、代わりに今回のことについて聞いた。
「そういえばフェリスは探索士だって言っていたよな? 今回の任務はそれ関係か?」
「そうよ。この辺の遺跡はまだ未調査地域が多いわりに魔獣が少ないからね。ちょっとお世話になっている人から調査地域と地図の範囲拡大を頼まれたの」
”探索士”とは各地に点在する神代時代の遺跡を調査することを生業とする者たちのことである。主に教育機関や研究機関に属して調査することが多いのだが、中には遺跡の財宝目当ての者がいるため、「遺跡泥棒」と揶揄されることもある職業である。
どうやらフェリスは何かしらの機関の調査を依頼される信用のおける方の探索士であるようだった。
「でも未調査地域の遺跡にはお宝が見つかることも多いからねぇ~ちょっとわくわくするよね?」
ターナーの暢気な言葉に、ケビンたちもふんっふんっと鼻息荒くうなずいていた。いつの世も宝探しは男のロマンなのである。
その男どもをフェリスはバカを見る目で冷たく見つめていた。
☆☆☆
そんな経緯があって、ケビンたち三人は水導窟の中を歩き回っていた。
しかし実際の探索士の仕事は地味なものが多く、測量やらマーキングやらで中々前に進む事は出来ず、それどころか奥に進むたびに魔獣が襲ってくるようになっていた。
ケビンもジャックも慣れない作業にへとへとになっていたが、フェリスだけは真剣に遺跡調査を根気よく続けていた。
彼女の真剣な眼差しと、頬を汗が伝う姿がすごく魅力的でケビンはさっと目をそらしてしまった。
そして調査も三日目になり、ケビンたちがさらに奥に進むと大きな空間に出た。そこだけぽっかりと穴が広がっており、光の加減か鉱物の輝く光なのか、壁全体が青く光っていて幻想的であった。
「おお!」
「これは......」
「きれい......」
ケビン、ジャック、フェリスが順番に感嘆の声を漏らした。
特に真ん中に配置されている祭壇らしき遺物が自然と人工のコントラストを醸し出し、奥の湖とも相まって神代に相応しい神秘的な様子であった。
ケビンは初めて見る物に興奮し、ふらふらと遺跡に近づいていった。そのときフェリスがはっとなって叫んだ。
「危ない!」
ケビンがその声に瞬時に反応し、後ろに下がった瞬間、上から舌のようなものが降ってきて、先ほどまでケビンが立っていた場所を急襲した。
「ちっ! ストーンショット!」
ジャックが魔導器を発動させると大きな暗い影が石の塊を避けて地面にずしんっと降り立った。
影の大きさは五メートルほどであろうか? 蛙のような姿かたちをしていた。フェリスが警戒心をあらわにした。
「気を付けて! キングリザードよ!?」
大きな緑色の蛙はぐええええっと鳴いて、ケビンたちに襲い掛かろうとしていた。




