第0.5話「師弟対決」
第十六話を読んでいるのが前提の話になります。
草原の中央にぽっかりと開いた円形闘技場のように草が剥げた場所で、ターナーが口を開いた。
「双方とも準備はいいかい?」
それに応えるように両側の二人――先にフィルが、次いでケビンも応えた。
「無論......」
「早く始めてくれよ。ターナーさん」
血気盛んなケビンと、落ち着きを払っているフィルを見て、ターナーは笑った。そしてここに宣言する。
「それでは! これよりケビン・ブライアンの守護士認定試験を始めます。見届け人は私――ターナー・ドルン! 試験内容は守護士フィル・ブライアンに一撃を入れること!」
ターナーはそこで言葉を切り、ケビンとフィルを交互に見た。二人の気が充実し、いつでも始めれることを感じると、振り上げていた腕を下ろして叫んだ。
「始め!」
ターナーの声と同時に突っ込んだのはケビンだった。先手必勝。実力差がある分、虚を突かなければ相手にならないことはケビンにも分かっていたのだ。
「無型二の形・飛竜!」
開始前に練り上げていた気の斬撃をフィルに向かって飛ばした。
「喝っ!!」
フィルはその斬撃を真正面から斬り伏せた。だが、ケビンも初撃が防がれるのは重々承知していた。
「火型五の形・炎柱剣!」
今度は魔導器を発動させて剣を下から上へと振り上げる。すさまじい炎がフィルに襲い掛かる。これはフィルも避けざるを得ず、横にばっと飛んだ。
ケビンはここだと思った。振り上げた剣をその勢いのまま思いっきり横薙ぎに回した。
「火型六の形・火炎車!」
炎をまとった横薙ぎの斬撃はフィルの避ける方向へ襲い掛かった。弱い魔獣ならそれだけで寸断されそうな一撃だ。しかし、その斬撃をフィルは冷静に見ていた。
「炎型六の形・業炎車輪!」
フィルの回転とは逆の回転で刃同士をぶつけた。だが威力ははるかにフィルの方が上であった。ケビンの剣は弾かれ、手はあまりの衝撃に痺れていた。
「ふんっ!!」
そして無防備になったケビンにそのままフィルは肩から体当たりを食らわせた。ケビンは吹き飛ばされ大地を転がる。ケビンが即座に起き上がろうとすると、そこには剣を大上段に構えたフィルがいた。
「ぬんっ!」
「うわっ!!」
なんとか剣を頭上に掲げて、受け止めたが鍔迫り合いになってしまった。フィルとケビンでは体重差がある。すぐにケビンが押され始めた。フィルが余裕の表情でいう。
「どうした? まさか今ので終わりじゃないだろう?」
「ぐぐぐっ!! 誰が!」
ケビンはフィルの剣をすかすと、下段蹴りをフィル目掛けて放った。フィルはこれも冷静にバックステップでよける。
「うらあああぁぁっ!」
気合と共にケビンがフィルに斬りかかる。だが、フィルはケビンの技一つ一つを丁寧に撃ち落とし、時には切り返して対応した。
試験開始から半刻経とうとした頃、業を煮やしたケビンが渾身の突きを放った。この時既にケビンは幾度もフィルに打ち据えられてボロボロである。
「甘いわ! 炎型三の形・猛火満月!」
フィルの剣が炎をまき散らしながら正面に対し円を描くように薙ぎ払われた。ケビンの突きは掬い上げられて、自身はもろに炎を浴びてしまい膝をつく。
フィルはケビンを見下ろしながら嘲笑った。
「この程度で守護士になろうとは片腹痛いわ! その剣で誰を護るというんだ?」
ケビンはフィルを睨みつけた。力の差は開くばかりだ。ケビンは肩で息をしていた。それでも――ケビンは立ち上がった。このまま終わるわけにはいかなかった。ケビンの誇りと信念が彼を突き動かしていた。
ケビンは剣を正中段に構えた。フィルもケビンの意を汲み取り同じ構えを取る。両者ともこれが最後だと察していた。
数瞬時が流れる。辺りは妙に静かであった。
最初に動いたのはケビンだ。
「無型二の形・飛竜!」
初めの打ち合いと同じように気の竜の顎がフィルを襲う。フィルは同じように剣で竜を叩き潰した。
「火型五の形・炎柱剣!」
これも最初とまったく一緒。フィルは拍子抜けした。この駆け引きの数の少なさは戦士として致命的である。今回は不合格になってもらおうと考え始めていた。
「炎型六の形・業炎車輪!」
炎の柱をよけて先ほどと同じように逆回転の技をぶつける――ぶつけたはずだった。フィルの剣はそこにあるはずのケビンの剣とぶつかることなく空を切った。
完全にケビンを見失った。フィルは瞬時に気でケビンを探すとすぐに見つけた。彼は上空を高く舞い上がっていたのだ。
「くっ!?」
太陽を背にしたケビンの眩しさでフィルが一瞬目をやられた。
「火型外の形・赤竜刃!!」
フィルの視力が回復する一瞬の隙をつき、縦回転しながら炎の出力を上げる。まるでジェットエンジンのように炎が放出されて、ケビンはフィルに真っすぐに飛んでいった。
「ぬおおおぉぉっおお!!?」
初めて見るケビンの技にフィルは驚愕し、回避するので精いっぱいだった。地面に着弾したケビンはその勢いのままゴロゴロと大地を転がっていく。
「なんつー自爆技だよ......」
あきれたように言うフィルの籠手には真新しい一筋の切り傷が入っていた。