第十七話「親衛隊」
ラミエルとの一戦後、すぐに市長と街の警備兵はケビンたちが休んでいることろに現れ
た。彼らの姿と辺り一帯の被害の大きさからどれだけの激戦だったかを察した警備兵たちはケビンたちに敬礼をし、市長は自ら彼らを起して労いの言葉をかけた。
ラミエルは警備兵に投獄されることになった。市長が王都に捕縛したことを連絡すると、余罪追及のために王都から連行するものを派遣するという事になったらしい。
そして、ケビンたちはその日は市長宅で一夜を過ごすことになった。市長の計らいでその日彼らは激戦の癒しを取ることが出来、ぐっすりと眠ることが出来た。
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翌日、ケビンたちが市長宅を辞して、次の依頼を受けに守護士の支部へ向かおうとすると、軍の一団に出くわした。どうやらラミエルを連行する為の軍らしい。
警備兵たちの詰め所で上官らしき女性が手続きをしていた。
ケビンたちはそれをぼーっと眺めていたが、その内手続きをしていた女性将校と目が合った。
女性将校はケビンたちに気が付くと、一時的に手を止めて彼らのもとへきびきびとした所作でやってきた。
「もし、あなたたちはもしかしてラミエル・ベラルトを捕獲した守護士の方々ですか?」
きれいな女性だった。少しきつめの顔をしていて、短い茶髪と軍服が圧迫感を与えいた。だが、うっすらと化粧をしている顔からもれる笑みはフェリスとは違う美しさだった。
「はじめまして。親衛隊副官のマリーナ・ファンベルと申します。以後お見知りおきを」
そう言うと、タイトスカートから伸びた、ハイヒールを履いた足をきちっと揃え敬礼した。まさしく大人の女性といったいでたちであった。
同時に三人は悟った。
(あ......パンツの人だ!)
と......そして三人はかわるがわるマリーナに挨拶を返した。
「は......はい! 初めまして! ケビン・ブライアンです。あの......頑張ってください!」
「ジャック・ブライアンだ......まあ生きていればいいことあるって!」
「フェリス・アービングよ......まあその......負けないでね?」
初対面の人から励ましの言葉をもらったマリーナは口の端をひくつかせた。この三人が何を知っているのか察したのだ。
マリーナはこほんっと一つ咳ばらいをして気を取り直していった。
「ケビン君とジャック君の話は聞いているわ? 二人とも本当に大きくなったわね」
「あ......もしかして親父の昔の?」
ジャックが何かを察したように言うとマリーナもにっこりと笑って返事をした。
「ええ! 将軍......フィル閣下には新兵の頃にお世話になったわ。閣下は元気かしら?」
「ああ、無駄にぴんぴんしているよ」
ジャックが皮肉気に言うとマリーナもくすくす笑った。その様子を見ながらフェリスはケビンの脇腹をつついて小さな声で言った。
(ねえ? ケビン、気づいている?)
(ああ、この人......隙が無い)
(ええ......親衛隊の副官というのも伊達ではなさそうね)
マリーナはその様子を知ってか知らずか大人の笑みを浮かべながら話していた。
「あの人が軍を辞めてから色々あったけど、元気そうにされているならよかったわ。今度ご挨拶に伺うと閣下に「お? 白パンツの君ではないか?」......てめぇ! 大概にせんとぶち殺すぞこらぁ!! 人のパンツ盗む変態のくせに一丁前に人間の言葉話してんじゃねぇぞオラァ!!」
そう言って人が変わったようにハイヒールのかかとで他の親衛隊に連行されて話に割り込んできたラミエルを蹴り始めた。何かが決壊してしまったのであろう。何度も何度も先ほどの大人の余裕はどこへやら、鬼の形相で蹴っている。
「はあっ! はあっ! はあっ! 離せ! お願いだからあいつをここで殺させて!」
「大尉! 落ち着いてください! こやつは王都で裁判にかけなければなりません!」
「このあほは裁判で何言うか分からないでしょ!?」
親衛隊の猛者数人が羽交い絞めにしてなんとかラミエルからマリーナは引きはがされていた。
ケビンたちはマリーナの豹変ぶりにドン引きし、ラミエルはボロボロになりながらもどこか嬉しそうだった。
しばらくして落ち着いたのか、マリーナは先ほどと変わらぬ笑顔でケビンたちに向き直った。こめかみに血管は浮いたままであったが。
「お見苦しい所をお見せしたわね。私たちは王都へ帰投するけど、何かあったら訪ねてきてください」
そう言って雛菊のように笑うマリーナにケビンたちも礼を言った。
「はい! ありがとうございます! マリーナさんもお仕事頑張ってください(白パンツか......)」
「王都に行ったらうまい店とか教えてくれよな!(白パンツは意外だったな......)」
「黒パンツの方が似合うわよ?」
最後のフェリスの言葉に(それ以前のケビンたちの考えも顔に出ていたようだが)、また一つこめかみに血管を増やしながらも、マリーナはぎこちない笑顔を崩さず、三人に握手をして親衛隊に号令を下した。
「全軍、帰投!」
「イエス! マム!」
マリーナの号令に親衛隊は一糸乱れぬ動きを見せた。それだけで彼らの錬度が伺えた。
しかし、ケビンにはどうしても一個だけ聞きたいことがあった。だから彼は大声で目的の人物を呼び止めた。
「ラミエル! 一つ聞きたいことがある!」
ケビンに呼び止められるとラミエルはボロボロのままケビンの方を振り向いて答えた。
「なんだ?」
「どうして満月の夜に行動したんだ? 隠密には向いてなかっただろう?」
ケビンの問いにラミエルはふっと笑って答えた。
「何を決まり切っていることを......満月だとテンションが上がるであろう?」
「そんな理由か......」
少し照れたように言うラミエルにケビンたちはげんなりするだけだった。できれば二度と関わりたくないと切実に祈るばかりであった。
そして、ラミエルは親衛隊に連行されていった。ケビンたちは早朝から疲れながらも、気を取り直して守護士の支部に向かうことにした。
☆☆☆
その様子を市長宅からオドラスは眺めていた。まことに頼もしき若者たちであると感心していた。
その市長に後ろから声をかけたものがいた。
「あれが”炎将”フィル・ブライアンの息子たちかい?」
市長が後ろを振り返るとそこには一組の男女がいた。声かけた女性の方は長い金髪にオドラスとよく似た黒い瞳、男性の方は黒髪に浅黒く灼けた肌が特徴的だった。
「おお!? アメリア! それにジェイドも帰っていたのか!?」
ジェイドと呼ばれた男性は深々と一礼し、アメリアと呼ばれた女性は市長に近づいて二人でハグをした。
「仕事は順調か?」
市長が聞くと、アメリアは肩をすくめて答えた。
「密漁船を三隻沈めてきたぜ。相手にもならない玉無ししかいねかったがな」
そして二人でがっはっはっと笑った。
「しかしなんだってゲボラに私の替え玉なんかさせたんだい?」
そう言うと、市長は笑った。
「なに! フィル殿の息子たちがどの程度か見てみたくてな......まああれほどの使い手が出てくるとは予想外だったが......彼らには悪いことをした」
市長が少し反省したように言うとアメリアはそれを見て笑った。
「まあ変態がそこまでの手練れとは思わんわな! だがまああの三人だけでやるなんて中々やるじゃないか!」
「うむ......まさに......さすがはフィル殿の息子だ」
二人は感心したように頷いていたが、急に真剣な面持ちになって市長はアメリアに尋ねた。
「それで? どうだった?」
「ああ、やはり物資がどこかへ流れているみたいだ......それも戦争が出来る量のな」
「そうか......どうしたものかな?」
「あいつらに任せてみたらどうだい?」
アメリアが顎でケビンたちを差した。市長も頷いて同意する。
「そうだな、彼らならこの件の突破口を開けるかもしれん......また依頼を出すことにしよう」
「その時は私とジェイドも紹介してくれよ? 市長の娘がいつまでもキングマンキーだと思われてるのもアレだしな」
そう言って二人で笑いあっていた。そしてジェイドは二人の悪戯小僧を困った顔で見つめていた。




