第十五話「紅狼流」
「舞え! 鞭乱陣!!」
先ほどフェリスを追い詰めた技だった。ラミエルを中心として爆撃のように辺りの地面や物がダンッダンッとはじけ飛ぶ。
「無型三の形・月輪!」
ケビンはその鞭の嵐に対し、月を描くように剣を回して防御しながらラミエルの結界ともいうべき鞭の間合いを測ろうとしていた。
「グランドウォール!」
ジャックもまた石の壁を次々と生み出して鞭の内側へと潜り込もうとしていた。
しかし、やはり武においてはラミエルに一日の長があった。ケビンには間合いを悟らせることなく機先を打つように攻撃し、ジャックに対しては石の壁を潜り込む準備が整う前に次々と壊していった。
すぐに二人とも先ほどのフェリスのように手詰まりとなると、ラミエルはつまらなそうにいった。
「さてさて? こんなものかね? さらにスピードを上げるぞ?」
ラミエルの宣言通り、彼の鞭の速度は目視できないところまで到達していた。一人でに床や木箱が吹き飛んでいく。まるで銃撃戦の中にいるかのようであった。
「ぐおっ!?」
遂にジャックが鞭の一撃を浴びた。腕を掠めただけで大きなダメージではないが、それでも一撃受けただけで、鈍い痛みが体中に駆け巡っていた。本当に当たればただで済まないであろう。
ケビンとジャックは互いに目配せをした。ここに至ってグズグズしていればさらに状況は悪くなると踏んでのことだった。
「サンドウォール!」
ジャックが魔導器をを発動させると砂塵が舞い上がりラミエルは襲った。
「ぬっ!?」
ラミエルは片手を上げ、砂が目に入るのを防いだが、一瞬視界から二人の姿を見失った。
「火型六の形・火炎車!」
ケビンは体を横に回転させながら、剣に紅蓮の火をともし、ラミエルに迫った。自身の剣がラミエルに当たるのをケビンが確信した瞬間だった。
「甘い......天槌鞭!」
ラミエルの鞭の先端が上空から降り注ぎケビンの身体に命中していた。
「がはっ!?」
「焦って攻撃が直線的になったな。どこから来るかわかれば対処もしやすいものだ」
ケビンがあまりの衝撃に一瞬動きを止めると続けざまにラミエルは余ったもう一本の鞭をケビン目掛けて振るった。
「うおぉぉおおぉおぉぉぉ!!」
ずどんという衝撃と共にケビンが建物の壁に叩きつけられた。どうにか剣で鞭をガードしていたが、すぐには立ち上がれないほどの大ダメージだ。
「ケビン!?」
「いいのか? よそ見をして?」
ジャックが心配の声を上げるのと、ラミエルの冷徹な声が聞こえたのは同時だった。いつの間にか横合いから鞭の先端がジャックのもとに迫っていた。
「ぐっ!?」
......間に合わない!......とジャックが覚悟を決めたその時であった。
「ウィンドスライサー!」
フェリスが魔導器を発動させて風の刃でジャックに迫りくる打撃から守った。ラミエルもそれに気づき、鞭を器用にふるって風の刃を叩き落していた。
「ちっ!」とフェリスは舌打ちした。折角気配を消していたのに、台無しになってしまったからだ。ラミエルは余裕の面持ちで彼らに告げた。
「さて、エースが大ダメージ、隙を伺っていた一撃も今ので効果はなくなってしまった......もう手詰まりではないかね?」
ケビンもフェリスも押し黙った。確かにここから逆転するのはひどく難しかったらだ。しかし、勝利を確信するラミエルに異を唱える者がいた。
「まだだぜ、アイアンフィスト!」
ジャックの拳が鉄鋼で覆われた。そしてジャックは半身になりまるで武道家のような構えをとった。
ケビンが慌てたように、痛む体を無理やり立ち上がらせて叫んだ。
「ジャック! それは使いたくないって!」
「それは今言っている場合じゃないだろう?」
ジャックはにっと不敵に笑った。ラミエルはジャックを興味深そうに見ている。
「ほう? 貴公......やはり魔導士にしては隙がないと思っていたが......武術の心得があるかよ」
「昔近所のじいちゃんに教わったやつだけどな......それなりに楽しませてやれるはずだぜ? 筋肉が傷つくから使いたくないんだけどな」
「おもしろい、その構えにも見覚えがあるぞ? かかってくるがいい!」
「ああ! 言われるまでもねえ! うおおぉぉおおおぉぉ!!」
「ぬ!? これは!!」
ジャックが裂帛の気合と共に自身の気を放出させた。紅い気が彼から放たれ、ラミエルの気とぶつかり合い、辺り一帯を震わせる。ラミエルはジャックの気の強大さに初めて冷や汗を垂らした。
ジャックは笑った。強がりだったかもしれない。それでもここで負けるわけにはいかなかった。負ければ変態にされるのだから!
「いくぜ! 気狼拳!」
ジャックが正拳を前に突き出すと狼の形をした気の拳がラミエル目掛けて飛んだ。ラミエルは初めて攻撃を避けた。その攻防の間にジャックは前へと突進する。
「ぬん!」
ラミエルが両腕を振るうと無数の鞭がジャックに襲い掛かった。しかしジャックはこの攻撃を冷静に見極めている。
「連牙!」
ジャックは身に降りかかる鞭と同じだけの拳を繰り出して鞭の嵐を防いだ。すさまじい芸当だった。その間にも徐々に二人の間の差は縮まっていく。
「面白い! これならどうだ? 双鞭破嵐!」
先ほどフェリスにとどめを差そうとした技であった。二本の鞭が竜巻となってジャックを襲う。
「気狼拳!」
再度拳から気の狼を放つ。ただし先ほどと違うのは拳を回転させていたことだ。気の狼はぐるぐると回りながら竜巻の中心に飛び込んでいった。そして、お互いの技が交錯した瞬間ーー竜巻も狼も霧散した。
「なんと!? 回転と逆回転の気を放つことで技を相殺させるとは!? なんという格闘センス!」
驚くラミエルを余所にジャックはあと数歩の所まで差し迫っていた。
「だが、まだだ! 天槌鞭!」
さきほどケビンを仕留めた技だ。最後の最後で届かないかと思われたその時であった。
「ウィンドスライサー!」
フェリスが風の刃でラミエルの鞭を撃ち落とした。ジャックは援護に感謝しつつラミエルを睨んで咆哮した。
「倒れろやぁぁああぁ! 地走牙!」
ジャックは一瞬地面に倒れるほど深く沈み、地面に付く寸前で飛び上がり、その反動の勢いのままラミエルの顔面目掛けて拳を放り込んだ。
「ぬ! ぬおおぉぉぉおおおぉぉ!?」
しかし、ラミエルにも武人としての意地があった。ジャックの拳が当たる寸前、残るもう一本の鞭でジャックを横薙ぎに薙ぎ払っていた。
「ぐあああぁぁあぁああ!」
結果、ラミエルもジャックも吹っ飛んでいた。ラミエルは仁王立ちのまま数メートル踏ん張りつつも後退させられ、ジャックは海の近くまで飛ばされ、ゴロゴロと転がり、海に落ちる寸前で止まった。
どちらのダメージが大きいかは明らかだったが、それでもジャックの攻撃に意味はあった。仁王立ちだったラミエルは初めて膝をつき、鞭の片方は飛ばされていたのだ。それでもラミエルはにやりと笑った。
「なるほど、やはり紅狼流か......まさか紅き狼の技を受け継ぐものがいたとはな」
その言葉にジャックが意気も絶え絶えな様子で返した。
「なんの流派かとか知るかよ。昔、ハイネン村に住んでたじいちゃんに数年習っただけだしな。しかも基礎は教えたとか言ってどこかに消えやがった」
ラミエルは笑った、数年習っただけで、ここまでの強さにたどり着くものなどそうはいない。明らかに”天才”というやつだった。組織の為、ますます欲しくなったとラミエルが思ったその時であった。ジャックがニヤッと笑ってラミエルに告げた。
「それよりいいのかよ? こうしている間にも俺なんかとは比べ物にならないほど強い奴が回復しちまったぞ?」
「何? !?」
ラミエルがはっと振り向くと、そこにはゆらりと青白い闘気をまとったケビンが立っていた。
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