第十四話「鞭罪天」
間違えて十五話あげてました。
申し訳ありません。
ケビンはフェリスを抱えたまま油断なく剣を構え、ラミエルに対峙していた。
ケビンがちらっと横目で先ほどまでフェリスが立っていた場所を見ると、そこには一直線にえぐれるようにできた道があった。自分もフェリスも当たればただではすまなかったはずだ。ケビンの背に冷たいものが流れていた。
一方のラミエルは先ほどまでの猛撃を止め、感心したようケビンを見つめていたが、不意ににっと笑ってケビンに話しかけた。
「少女を救うために我が技の前に飛び込んでくるとは......やるではないか少年。名を聞いておこうか?」
「......ケビン・ブライアンだ」
「ふっ......やはりそうか。先ほどのジャック・ブライアンといい中々に楽しませんてくれる」
「......そんなに余裕こいてていいのか?」
「何? ぬっ!?」
ラミエルは何かに気付きばっとその場を飛びさすった。すると一瞬後にラミエルの場所から石の柱が突き立ったではないか。
ラミエルが着地し、油断なく構えるとそこにはジャックがいた。どうやら追いついてきたらしいーーそしてこれで挟み撃ちが完成した。ラミエルはまんまと嵌められたにもかかわらずふっと笑った。
「ケビン・ブライアン、それにジャック・ブライアン......」
名前を呼ばれた二人は眉をひそめた。そして代表してジャックが答えた。
「なんだ?」
ラミエルはジャックの方に目を向けながら二人に呼び掛けた。
「貴公らのことは多少調べさせてもらった。まさかあのフィル・ブライアンの息子とはな......中々に将来が楽しみじゃないか......」
「それはどうも? それで? なんでわざわざあんた程の男が俺ら新米守護士のことなんてわざわざ調べるんだ?」
ジャックは警戒していた。先ほどの身のこなしといい、今の気の練り方といい......やはりこの変態は武において自分たちのはるか先をいっているーー恐らくフィルと同クラスの化け物ーーそんな男が自分たちを調べるなどありえなかった。何か他に目的があるはずだった。
「ふむ、いや実はな......二人とも我らとともに来ないか?」
ケビンもジャックも面食らった。ラミエルの言葉が予想外だったからだ。ジャックは情報を引き出すためにラミエルに問いかけた。
「なぜ俺たちがお前と一緒に......待て”我ら”だと?」
「ふふっそうだ。我らが組織ーー”理想郷”で共に理想の世界を作ってみないかという話だ」
「”理想郷”? そんな組織聞いたこともないぞ?」
「当然だ。我らは闇に生きる者たち。同じく闇の深淵を覗き込もうとしなければ我らの姿など見えてこぬよ」
変態の分際で一々気障な喋り方をするラミエルにいい加減ジャックがイラついてきていた。だがジャックは我慢して聞いた。
「それで? お前らの目的は?」
「目的か......無論、我らの欲望がすべからく、何物にも阻害されることなく、成就する世界の形成と言ったところか」
「......もしかしてそれは......変態どもが自由に表に出てくる世界ということか?」
ジャックの答えにラミエルはふっと笑った。どうやら正解のようであった。ジャックはフルフルち震えながら叫んだ。
「あほか!? そんなことのために陛下にまで手を出そうしたのか!?」
ラミエルは心外そうにジャックに答える。
「何を言う? 男として生まれたならば、頂を目指すのは当然であろう? 貴公らは目の前に障害があったらそれを乗り越えようとはしないのか?」
ぐっとジャックは詰まってしまった。ラミエルの言う事はもっともなのだが、どうにも変態行為と一緒にされると異を唱えたくなる。代わりにケビンが答えた。
「だが! どうして俺らがお前らと一緒に行かなければいけないんだ!」
またもラミエルは微笑した。何を分かり切ったことをと言わんばかりである。
「同志たちからきいているぞ? ジャック・ブライアン、ケビン・ブライアン。貴様らハイネン村で嬉々として女装をしていたそうじゃないかーーしかも全裸で」
「「ちょっと待て!?」
ケビンたちは驚愕した。ここにきてラミエルがなぜこうも熱心にケビンたちを誘っているのかが分かった。ようするに目の前の変態は自分たちのことを同類だと思っているのだ。
「あんたたちやっぱり......」
ケビンに抱きかかえられたままになっていたフェリスがケビンを振りほどき、「やっぱり」と言って、後ずさりしながら彼から離れていった。
「やっぱりってなんだ!? あれは仕方がなく!」
「全裸で女装する必要って何よ!!」
「いや! 確かにそうなんだが説明させてくれ!」
ケビンの様子は完全に浮気男がばれた時のそれであった。ケビンは作戦立案者のジャックに怒りの矛先を向けた。
「ジャック! お前のせいでこんなことになったじゃないか!」
「いや、待て!? お前も作戦に乗ってきただろう!」
ジャックは心外だった。何より自分ひとり変態にされるわけにはいかなかった。その争いを止めたのは意外な人物であった。
「まあ待て。わかる、その気持ちはよくわかるぞ?」
ラミエルはそう言って一瞬タメを作ると、その後に致命的な言葉を言い放った。
「私も昔は自分の性癖に困惑したものだ」
「「俺らは違う!」」
もうこれ以上彼に口を開かせるわけにはいかない。ケビンとジャックは両側からラミエルに襲い掛かった。
「無形二の型・飛竜!」
「ストーンショット」
ケビンが凄まじい速度で飛び込んで斬りかかると同時に反対側から石の塊がラミエルに迫った。
「ふんっ!!」
しかし、ラミエルが鞭を一振りすると、ケビンは吹き飛び、石の塊は弾け飛んでしまった。すさまじい技量である。
大技をこともなげに繰り出したラミエルはケビンに興味深そうに聞いた。
「貴公、もしや流派はハイデンベルク流か?」
ケビンはぐっと立ち上がると、剣を構えなおして答えた。
「ああ、そうだよ。変態が剣の流派まで知ってるとはな」
「無論。幾度となくやり合った。私はかつてマグネル流の師範だったからな」
「なにい!!?」
ケビンは心底驚いた。そして剣の流派に詳しくないジャックがケビンに聞いた。
「マグネル流って知っているのか?」
「俺のハイデンベルク流と並ぶ大陸五剣の一つだ。しかもそこの師範と言えば大陸に五人といない最上級の位だ!」
ジャックもフェリスも信じられなかった。なぜそれほどの男が変態に?という気持ちであった。
ラミエルは懐かしそうに天を見上げて語る。
「懐かしいな、あの頃は何に咎められることなく上を目指せばよかった」
まるで手の届かなくなってしまった遠くを見るように、ラミエルは目を細めた。その様子にケビンは半分興味で、半分嫌悪感で聞いた。
「なぜ、それ程の人がパンツ泥棒など......」
ラミエルはケビンを見ると哀しそうに笑って頭を振った。
「違う。違うのだよ、ケビン・ブライアン。マグネル流の師範が闇に堕ちたのではない。闇に堕ちたものがマグネル流の師範になったのだよ」
「何? どういうことだ?」
ラミエルはまるで道の先に立つものとして、後に続くものを諭すように優しく言った。
「マグネル流の最高峰にアイネクラインというものがいるのは知っているな?」
ケビンは黙って頷いた。剣に生きるものなら無論その名は知っていた。五剣聖ーー”双剣聖女”アイネクラインーー大陸最高の剣士の一人だった。そしてその名に思い立った時、ケビンははっとした。
「彼女を一目見た時、体中に電撃が走った。あの美しい方に少しでも近づきたいと......あの方が見ている光景を共に見てみたいと......」
「あ......あんた......まさか......」
ケビンが震えていた。「バカな......そんなことがあっていいのか」と心底絶望していた。ラミエルはそして自嘲気味にとどめの一言を放った。
「そして強く思ったのだ。この方の薄衣がほしいと......」
「あんた! パンツ欲しさに大陸最強に肉薄したのか!?」
ケビンがどれだけ努力しても見えてこない頂に、目の前の男は性欲だけで近づいたのだ。ケビンは足元が崩れたかのように動揺していた。
「ふっ......そう褒めるな」
「褒めてねえ!」
照れたように言うラミエルにケビンは大きな声で突っ込んだ。そしてこのやり取りの間にジャックもフェリスもげんなりとしていた。
「もっとも、肝心の所で我が目的は悟られ、アイネクライン殿にぼこぼこにされてしまったのだが......いつか再度あの頂に挑戦する為に、私はこうして己を鍛えているというわけよ」
どうやら一連のパンツ騒動はすべて彼の修練であるらしかった。ラミエルは誇らしげな様子であったが、問答は終わりとばかりにその強大な気を放出し始めた。ラミエルの周りに桃色の闘気が見え、三人を圧した。
「さて、もうこれくらいでよかろう? 返答次第では力づくでも連れていくが......いかがかな?」
ケビンとジャックは互いに目を見合わせた。敵は強大、しかも異常者だ。飲み込まれそうになるのをぐっとこらえて二人同時に叫んだ。
「「くそくらえだ!!」」
ラミエルはゆらりと両手を胸の前で交差させて笑って言った。
「よろしい、では力づくだ。理想郷第六位ーー”鞭罪天”ラミエル・ベラルト......参る!
」
かつてない強敵が三人の前に立ちふさがっていた。




