第十一話「市長」
ターナーの提案した依頼はウェルカ市の市長の依頼だった。勝敗の条件はどちらが依頼をいち早く解決できるか。
ただし、これには一つ条件があった。依頼内容について、別々に調査をするのはいいが、依頼内容を聞くのは全員でという事だ。今回の勝負は依頼者には全く関係のないことなのだから当然である。
したがって、ケビンとジャック、それにフェリスは三人連れだって依頼者のもとへ向かう羽目になっていた。
仏頂面でお互いに目を合わせようともしない二人の間をジャックが気まずそうに歩いていた。
「......」
「......」
「......だぁっーーーーー!! お前ら! 辛気くせぇええ!! これから依頼主に会うのにそんなんでどうするんだ!!?」
ジャックがその場の雰囲気に耐え切れずに叫ぶと、フェリスはそっぽを向いて言い放った。
「別に話すことなんてないんだからいいじゃない」
その言葉にケビンも同意した。
「そうだな。とっとと依頼を聞いて別行動しようぜ」
「あら? 珍しく意見が合うじゃない? お利口よ? ポチ」
「誰がポチじゃ!?」
ジャックは段々ともしかしていいコンビなのではと思い始めた。しかし、鼻息荒く睨み合う二人を前にしてすぐに「ないな」と肩を落としてため息をついた。
そうこうしていると、市長の家についた。家はウェルカ市を一望できる高台に上に建てられており、見方によっては白い家の壁と青い海のコントラストが眩くて、品のいい邸宅になっていた。
お金持ちとはこういう家に住むのだろうか? ケビンは幾分緊張した面持ちで扉をノックして「ごめんくださーい」と呼びかけた。
数刻そこで待っていると中から「はいはい」と声がして、中から品のいい執事服を着た男性が出てきた。彼は見た瞬間ケビンたちの素性を知って諸々察したようだが、念のため尋ねてきた。
「これはこれは、守護士様ですか?当家になんの御用でしょうか?」
恭しく挨拶をしてきた執事に対してケビンも礼をもって答えた。
「はい! 俺......私はケビン・ブライアン。と申します。本日こちらのウェルカに着任してきた守護士です。こっちの髪の赤いのがジャック・ブライアン。こちらの女性が協力者のフェリス・アービングです。市長が出されたという依頼についてお話を伺いたいのですが、御目通り願えないでしょうか?」
ケビンのしっかりとした挨拶に執事もニッコリと笑って「主人にお取り次ぎしますので少々お待ちください」と家の奥に戻っていった。
ケビンの意外としっかりとした挨拶にフェリスも驚きを隠せないようで、目をまん丸にしながら言った。
「あんた、ちゃんと話せるのね」
「どういう意味だ!」
「いや、褒めてるのよ? 貴族様相手にしっかりと挨拶できる人なんて中々いないもの」
珍しく感心されたようにフェリスにされると、ケビンも照れ隠しのようにぶっきら棒に言った。
「まあ、この辺は親父に仕込まれたからな」
それにジャックが同意するように答えた。
「意外と厳しかったよな。普段大雑把なくせに」
フェリスはふーんっと興味深そうに聞いているところで執事が戻ってきて三人を手招いた。
「お待たせしました。主人がお呼びです。お三方とも中へお入りください」
執事の招きに三人は幾分緊張した面持ちで屋敷の中へ入っていった。
☆☆☆
三人は応接室で待たされることになった。応接室は客人を招くだけあって随所にお金がかけられた様子ではあったが、華美な様子ではなく、むしろ壁に船の部品や獲物の魚拓などがかけられ質実剛健といった面持ちであった。
少し面食らいながらも三人は待ち時間の間、出された紅茶と茶菓子を楽しんでいると、執事より屋敷の主がもうすぐくることを伝えられて、背筋を伸ばして待つことにした。相手はこの街の権力者だ。どのような人間が来るのか分かったものではなかったからだ。
するとやにはに応接室のドアがダーンっと大きな音を立てて開いた。三人が驚くとそこに一人の大男が立っていた。
フィルと同年代くらいであろうか。浅黒く灼けた肌に仕立てのいい白シャツの胸元から覗く大胸筋。短く刈り込んだ黒髪と口の周りを覆う黒い口髭は、粗野だが同時に威圧感と迫力を醸し出していた。
大男はニッと笑って屋敷中に響き渡るほどの大声で話した。
「諸君! 我が家にようこそ! 私がこのウェルカ市の市長ーーオドラスだ! よろしく! がっはっは!」
オドラスは大声で笑うと、ケビンたちに近づき一人一人に力一杯ハグをした。あまりの熱さにケビンもジャックも市長の熱を移されたかのように自身の体温が上がるのを感じていた。(フェリスだけはむしろ下がっていたが)
ひとしきりハグを終えるとオドラス市長はケビンたちにソファーに座るように促し、自身も椅子に座って早速話を切り出した。
「さて、守護士諸君。ここに来たということは依頼を受けてくれるということでいいのかね?」
市長の問いには代表してケビンが答えた。
「はい、ここにいる三人で当たらせてもらいます。それで......依頼の内容というのは?」
ケビンの問いに市長は重々しく頷いた。そしてケビンの顔を見て口を開く。
「うむ。そうだな。簡単に言うと泥棒を捕まえて欲しいということだ」
「泥棒.....ですか?当家で何か盗まれたものでも?」
「いや、ない。これから盗まれるのだ」
三人とも不思議なことを聞いたと思った。なぜこれから盗まれることを市長は知っているのだろうと。
ケビンたちの顔を見て、市長も説明不足を感じたのか補足をし始めた。
「言葉足らずであったな。実はその泥棒から予告状が届いたのだ」
「予告状?ーーですか...」
ケビンが珍しいこともあるものだと顔をキョトンとさせているのとは対照的に、市長はさらに重々しく頷いて話を続ける。
「そうだ。いつどのように忍び込まれたかもわからん。だがある朝起きると娘の枕元にこれが置いてあったのだ」
そう言うと市長はポケットから一枚の紙を取り出し、ケビンたちの前に置いた。
ケビンはそれを手に取り、文面を見た。ジャックとフェリスもその紙を覗き込むようにしている。
紙の文面にはこう書いてあった。
「次の満月が昇るとき、穢れを知らぬ乙女の聖衣をいただきに参ります」
フェリスは驚いたように顔を上げた。そして市長に尋ねた。
「この聖衣ってもしかして神々の秘宝! あるの!? この家に?」
フェリスの問いに市長は首を振って答えた。
「いや、違う。そこで言う聖衣とはパンツのことだ」
「「「......はい?」」」
三人とも思わず聞き返してしまった。自分たちが今耳にした単語が信じられなかったのである。
無理もないと言うように市長は目で三人の疑問に答えた。そして一から順に説明し出した。
「うむ。今王国で問題になっているのだ。パンツを盗む怪盗がいるとな。しかも高貴な女性や娘ばかりを狙う.....恐ろしい男だ」
三人はまだ市長の話が頭に入ってこなかった。「コウキナヒトノパンツバカリネラウドロボウとは?」といった感じであった。
市長は困惑する三人をよそに話を続ける。
「特に恐ろしいのがだ......この泥棒......老若関係なく女性であればだれでもいいという事だ」
ジャックが恐る恐る聞いた。
「というと?」
ジャックのというに市長はまた頷く。
「うむ......三か月前は公爵様の五歳になる娘のパンツ......先々月は教会の女性司教のパンツ...そして先月は......」
「「「先月は?......」」」
三人が声を揃えて聞き返した。誰かが生唾をごくりと飲む。
「ついに女王陛下のもとに予告状が出された」
「「「はあ!?」」」
三人は驚愕して二の句が告げなかった。この国の女王陛下は最高権力者にして齢60にもなる。ハイリスクノーリターンにもほどがあった。
「そ......それで? 陛下のその......パンツは?」
代表してケビンが聞くと市長はなおも真剣な表情で続けた。
「無論、軍と親衛隊がことにあたり、なんとか陛下の御身は無事だった......しかし......」
「「「しかし?」」」
「あまりに強敵過ぎて王宮に被害が出るからと、親衛隊の女性副官のパンツを代わりに持ち出すことで手を打ったらしい」
......大丈夫かこの国?
ケビンたちは本気で自国の行く末を案じ始めていた。その三人をマッハで置いてけぼりにし、市長は悲痛の面持ちで嘆願した。
「そして今回......我が町にもその魔の手が伸びてきたというわけだ。愛しい我が娘ーーゲボバは夜も眠れぬ有様......頼む! 我々を救ってはくれぬだろうか!?」
そして市長はガバッと頭を下げた。放心していた三人は慌てて市長の頭を上げさせた。そこまでしてもらうほどのことではないように思えたからだ。
代表してケビンが頼もしく市長に答えた。
「市長、ご安心を。相手がどのような者であろうと、守護士の理念に則り必ずやご息女の御身は守ってみせます」
「おお!」
市長はケビンの言葉に感銘を受け手をギュッと堅く握りかわした。
そして市長は執事に申し付けた。
「おい! 娘をここへ連れてきてくれるか? 勇敢な彼らを紹介しなければ」
そう言われると執事は「かしこまりました」と娘を呼びに行ったのであった。




