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第九話「出会い」

 世界が燃えていた。視界に飛び込んでくる光景は一面火の海で、どこにも逃げ場はないように思えた。辺りからは怒号と悲鳴が聞こえ、生き物の灼ける焦げ臭いにおいが充満していた。


誰かが大声で叫んでいた。


「□□□!! こっちだ! 早く!」


「無理だ! もうそちらには行けない!」


「馬鹿なことを言うな! 残された子たちはどうなる!?」


「□□□! 行ってくれ! その子たちを!?」


「お前らを置いて行けるわけないだろう!」


 燃え盛る光景の隙間から見えるのはどこかの城下町であろうか。紅蓮の大蛇が容赦なく城を食い尽くし、崩壊するのも時間の問題のように見えた。その中で懸命に男が子供二人を抱え、城から抜け出そうとしていた。そして後に男女二人が続いていたのだが、城の天井が崩れ分断されてしまっていた。


「せめて!! せめて△△△殿だけでも!」


「いいえ! 私たちのことは諦めてください! その二人を......愛しい我が子たちを......どうかお願いします!」


 火の回りはさらに激しさを増し、残された男女を救う術はもはやなかった。そして覚悟を決めた二人はお互いを最期の瞬間まで離さないとしかと抱きしめ合い、二人の子供を慈愛のこもった目で見ていた。


 子供を抱えた男は無念とばかりに涙をこらえ、彼らに背を向け最後の約束を果たすために走り去っていった。


 燃え盛る男女の顔はフィルとマリアンヌによく似ていた。


☆☆☆


 ケビンはバッと飛び起きた。動機は早鐘のように打ち鳴らされ、寝汗で着物はぐしょぐしょに濡れていた。


 幼いころからたまに見る悪夢であった。フィルもマリアンヌも無事に生きているというのになぜか昔からこの夢を見てしまうのだ。


 一度だけマリアンヌに相談したことがあったが、「勝手に殺すんじゃねえ」と拳骨を落とされてからはあまり見なくなったのだが、油断するとどうしても見てしまう。


 ケビンは冷や汗をぬぐいながらベッドに入っていた。そしてジャックはそれに気づきつつも狸寝入りを決め込んでいた。


 外はまだ闇の帳が降りており、朝日が顔を出すのはまだまだ先であった。


☆☆☆


 朝起きると、ケビンはいつも通り戻っていた。昨夜のことなど何もなかったかのようにふるまい、よく食べよく話した。その様子を見てジャックは安心した。ひとまず大丈夫そうであった。


 むしろひどさはこちらの方が上であった。ドムは今朝になってようやく目を覚ましたのだが、リンはそれを見て大泣きする有様であった。


「ひっ......ぐすっ......あんた、死んじゃったかもと思ったじゃない! バカ!! ぐすっ」


「いや~でも危なかったからな~なんも考えずの身体が動いちまってさ~」


「そんなの! あそこの守護士二人にやらせばいいじゃない! あんたは弱虫なんだから!」


 そう言ってリンはケビンとジャックの二人を指さした。しかし、二人ともあの瞬間は間に合わなかったのだ。二人ともバツが悪そうにし、ドムが怒られるのは申し訳ない気持ちになり、助け舟を出そうとした。


 だが、それはドムが片眼をつぶって止めてみせた。リンにもそのことはわかっているのだ。分かっていてどうしようもなくなって当たり散らしているだけなのだ。


 ドムの気遣いをケビンとジャックは長い付き合いから察し、ここはドムに任せることにした。


 三人が笑っているのに気付いたリンはまたうわ~とドムのベッドに顔を埋めて「バカッ~」ち言いながら泣きじゃくっていた。


 リンが落ち着くとケビンとジャックは早速村を出ていくことにした。事件は解決したが、まだ謎は残っていたからだ。音もなく着陸していたであろう航空艇。このことをウェルカ市のターナーに伝えることは急務だったからだ。


 ちなみに昨夜の猿は(信じがたいことに)ドムの説得で旅館で働くことになった。なんと一日リンゴ三個で手を打ったらしい。魔獣と交渉が出来るとはにわかに信じがたいのだが、今回の功労者のドムが自信をもって断言するのだ。ケビンもジャックも(もちろんリンも)口をはさむことはできなかった。


 そうして、二人はハイネン村を後にした。村民は事件解決のお礼と言って引き留めたがったが何とか振り切ることが出来た。


☆☆☆


 道中、彼らの話題はもちろん謎の航空艇のことであった。村民に改めて聞いて回ったがそのようなものを見覚えはないという事だった。空挺乗りは見かけてもその乗り物は誰も見ていないという......実におかしな話で合った。


「仮にもし音の出ない航空艇があるのだとしたら......そんなもの一貴族や商人が用意できるものじゃない......大貴族、大商人、あるいは国家......なんにせよ怪しすぎて大分きな臭くなってきたぜ」


 ジャックが苦虫を噛みつぶしたような顔で言うと、ケビンも鷹揚にうなずいた。


「ああ、それに火薬の件も気になる。航空艇を使うってことはそれなりに大荷物のはずだ。その量の火薬を運んでたっていうのはどうにも気になる」


「だな。いずれにせよ今の俺らの手には余る事態だ......ターナーさんや親父と連携して......おい! あれ!」


 ジャックが急に眼の前の方向を指さした。ケビンがさっと視線をやると、そこには魔獣の群れに囲まれるフードを被り、ローブを羽織った人の姿があった。


 ケビンとジャックはその瞬間急いで駆け出した。ケビンは焦った声でジャックの名前を呼んだ。


「ジャック!」


「分かってる! グランドウォール!」


 ジャックが魔導器を発動すると、ローブの人と魔獣の間に壁が生え、彼の人を取り囲むように覆った。ローブの人は急に壁がせりだしてきたので驚いた様子であった。


 危機は去ったかのように見えたがどうやら相手は飛行系の黄色い魔獣である。ジャックのグランドウォールでは簡単に飛び越えられてしまう。だからジャックは叫んだ。


「ケビン!」


「ああ! 火扇剣!」


 ケビンも魔導器を発動させて剣を振るうと炎が扇形に迸った。炎はジャックの魔導のおかげでローブの人物に届くことはなく、後方半分の敵を焼き尽くした。


 距離にして数メートルあろうか、この距離まで来ると敵の姿が見えてきた。ハチ型魔獣のクインビーだ。ハチ型といっても大きさは人間の頭くらいもあり、尾から生えている針には毒が仕込んであり、体力のあるものでも刺されると数日は動けず、解毒薬がないと最悪死に至らしめる危険な魔獣であった。


 しかもこのクインビー、とにかく動きが素早いのである。剣技を使うケビンはまだしも、ジャックの土魔導には相性の悪い敵であった。


「ジャック! 壁を!」


 ジャックは言われる前に壁の後ろ半分を消していた。これでローブの人物と合流しやすくなった。ケビンが叫んだ。


「あんた! こっちへ!」


 ローブの人物も心得たものである。素早く下がってケビンたちの方まで走ってきた。


 しかし、その後ろからクインビーが三匹壁を乗り越えて迫ってきた。


 ケビンはローブの人とすれ違うとそのまま追いすがろうとするクインビーのうち一匹と対峙し、走る勢いのまま突撃した。


 ケビンはまた魔導器を発動させて剣を振るった。先ほどと違うのは剣を下から上へ力任せに振り抜いたことである。


「炎柱剣!」


 ケビンが叫ぶと下から業火が一本の大きな柱のように突き上がった。不意を突かれたクインビーは避けることもできず炎に飲まれ燃え尽きていった。


 ケビンがそのまま後ろを振り向くと丁度ジャックが二匹を相手にローブの人物を自分の大きな背に隠し戦っている所だった。


 ジャックの魔導ではクインビーの速さについていけないため仕方なく杖を振り回して攻撃していた。


 ジャックのフィル譲りの戦闘センスは流石の一言で、見事クインビーの内、一匹の頭蓋に杖の先端がクリーンヒットし、クインビーはどこかへ吹っ飛んでいった。残り一体......二人がそう思ったその時であった。


 クインビーは確かな手ごたえを感じ油断したジャックの脇をすり抜け、ローブの人物に襲い掛かったのである。


 「危ない!」とケビンが叫ぼうとしたその時であった。ローブの人物はその袖からきらりと銀色に光るものを出し、目にも止まらぬ速度でクインビーとすれ違った。


 一瞬の沈黙の後、クインビーの頭はずり落ちるように大地に転がり、体は力なくその頭を失ったまま不時着した。


 ローブの人物がその手に持っていたのは短刀であった。ナイフよりも幾分か長く鋭い物騒な代物で、ケビンたちが戸惑っているとローブの人物はそのフードに手をかけ自身の素顔を露にした。


 そしてケビンたちは二度驚いた。てっきり男だと思っていた、フードの中からできてたのは端麗な顔立ちの美少女だったからである。

ようやくヒロインがだせました!!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 序章~第九話まで拝読しました。 キャラの描写が丁寧で、読み手に印象付けようという気持ちが伝わってきます。 あらすじを見ると、私はまだ序盤をうろついているようですね。 今後の展開が楽しみです…
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