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反省すべきこと

あ、また暗い、た、楽しく・・・

 「さあ~いくぞ~」


 気合充分で昨日転移した場所を思い浮かべながら心を落ち着かせようとする。向こうに行く予定には待ち遠しい程の準備の時間があったので、着替えを済ませ剣鉈を腰の方に邪魔にならない様装備して、まだかまだかと待っていた。いよいよ行けるとなると気持ちが高揚する。声に出さず異世界転移の発動を思い浮かべればすぐに足元の感覚は無くなり真っ白に視界は塗りつぶされる。それはすぐに収まり足元にまた感覚が戻るといよいよ、


 「さあ~今日も頑張るぞ~」


 昨日見たのと同じ景色を確認し、ついつい声を上げてしまう。そんなテンションで周囲を窺うがやはり何もない状態では敵の気配は感じられなかった。なのでケイさんに言われた通りに、透き通って向こうが見え邪魔にならない状態のマップ画面をまず目の前に呼び出し、続いて索敵スキルを発動する。するとマップ上には前方に無数の赤いマークが浮かび上がって来た。たぶん気付かずにいただけで昨日もいたのであろう敵の数に驚きつつも腰より剣鉈を抜き一番近くの敵に駆け寄って行った。


 昨日の最後の方ではもう敵よりも早さは優り攻撃が掠ることも無くなっていたので、あのぶよぶよした感覚の敵をゴルフクラブで殴り続けるよりは刃物の方が有効ではないかと考え、いったん剣鉈で切り付けてみる事にした。そして向こうもこちらに気付いたのか向かってくる頭の方を交わし側面へと回ったところで思いっきり振り下ろしてみる。

 

 「あ、あれ?」


 結論から言うと一撃だった。切り裂かれた処から緑色の液体を吹きだしたかと思うと、昨日の様に霧の様に消えていった。ゲームでいう会心の一撃の様なものかとも思い、近くに居る次の敵にと駆け出し繰り返してみれば、やはり同じく一撃であった。打撃に強く切り付けに弱かったのか、それ以降も一撃多くても二撃でかたずけていった。マップ上の赤い点を近い所から片っ端に近付いては倒しを繰り返し、途中途中でケイさんのレベルアップの声が響き渡ると尚更自分の動き、力強さが良くなっているのに気付き夢中で走り回っていた。


 率直言うと調子に乗っていたのだろう。行く前は考えていたことが頭の中から抜けていた。段々と森の傍へと近付きもうそろそろ帰る事を考えていた時、赤い点が一種類の敵だけを表している訳ではない事を思い出させるように黒い物体が高速で突っ込んできた。かろうじて躱した、躱したはずなのだが左手にかすめたのだろう、一瞬の感覚の後手がしびれて動かなくなり激痛がはしる、慌てて距離を取り敵を確認してみれば1mはありそうな巨大なムカデであった。とっさに出来た事、


 「異世界転移」


 病室を思い浮かべ逃げ帰った。弱点を探すとか武器を変えるとか、そんな心の余裕は全然なかった。索敵していて目印が有る、それなのに用心して敵を見定めることもせず不用意に自分から突っ込んでいったのだ。


 「ばかだなぁ・・・」


 ちょっと強くなったくらいで調子に乗りこの様である。眼の淵にうっすら浮かぶ涙は痛みではなく悔しさだった。ちょっと前の弱いと判り切っていた自分ならこんな事をしていただろうか?スキルを貰ったことで慢心してたんじゃないのか?そう心に問いかけると余計情けなくなってきた。手を見ると結構腫れている、その事もどうしたらいいのか判らない。色んな気持ちがないまぜになり頭の中をぐるぐると回っていると、心に優しく響くその声が


 <まずは回復魔法スキルを創造しましょう。悩むのはそれからでもいいはずです。>


 <どんな回復魔法スキルが良いのか異世界の敵を知らなかった自分には創造できませんでした。ケイさんは判りますか?>


 <向こうの世界の回復職の方が持っているスキルが判りますので、いまは自分の手を回復させるスキルをと創造してください、此方で補助します。>


 <分かりました。回復魔法スキルをお願いします。>


 <回復魔法スキルを獲得しました。今回は初期のヒーリングとキュアーの、キュアーの方を使ってみてください。>


 「キュアー」


 左手に意識を向けながらそう呟くと腫れがすーと引いていく。それに伴い激痛も引いていった。なので、


 <ケイさん、いつも有難うございます。今回は自分の責任で・・・>


 そう言い掛けたとき、


 <直人さん、天啓とはどんなものか知っていますか?>


 不意にそう訊ねられ首を横に振り悩んでいると、


 <普段はレベルアップや獲得したスキルの個人への啓示、最近はこれが多いので間違いありませんが、過去偉人に対し神よりの教えや導きをも指導してきたのが本来の天啓の役目なのです。今回貴方様はこのスキルの事を誰にも話さぬ様いわれています。その為誰にも相談できない事も無理のない事です。なので神は私をつけられたのです。如何か悩みがある時は相談してください、力に成りましょう。>


 さっきまで目の淵に薄っすらと浮いていただけの涙が、いまはもう溢れていた。両親を亡くしてから本当に心から相談できる相手がいなかった自分に、相談していい、力に成る、そう言ってくれた相手が現れたのだ。その相手に対し、口から出たのは素直な一言、


 <ありがとう>


 だけであった。


 

よろしくですです。

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