表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ゆめまち日記  作者: 三ツ木 紘
9/20

ツギハギメモリート(前編)

 授業に対する集中が切れたため、教室をぼんやりと見渡してみる。


 テストを終えて数日、学校では衣替えが始まっており今はその移行期間だ。その為、長袖の制服を着た人と半袖の制服を着た人が入り交じっている。


 移行期間中は、冬服と夏服の両方の制服が着られるため、その両方を使って制服ファッションをしている人が校内で偶に見られる。

 制服という限られた選択肢の中から工夫してオシャレしているのだから、その労力に感心する。

 ようやく授業終了を知らせる鐘が鳴り、解放される。

 テスト明けで緩む切った頭では、その日最後の授業の一時間は集中が持たない。


「ようやく終わった」


 一日の疲労を吐き出すように言いながら帰り支度を始める。


 もっとも今日は帰り支度を早く始めてもすぐに帰れる訳ではない。半袖の制服を着た男子学生が笑みを浮かべてこちらに寄ってくる。


「今日は勿論時枝も行くよね」

「今、その準備をしているんだよ」

「おっと、それは申し訳ない」


 花山は軽口を叩いておどけて見せる。


 すると後ろから

「お疲れ様です。今日部活ありますよね」

 と言いながら長袖を着た女子生徒が隣に来る。


「お疲れ、東雲さん。勿論あるよ。ただ、時枝が準備まだみたいでさ」


 何だか急かされている気分だ。素早く荷物をまとめて立ち上がる。


「準備終わったぞ」

「了解。じゃあ行こうか」

 そうして三人は部室へと向かった。


 部室前に着くと花山が部室の鍵を開ける。

「花山は鍵を持っているんだな」

「前、山吹先輩に会った時に貰ったんだ。二人の分も部室の中にあるよ」

「そうなんですね。それは楽しみです」

「楽しみって……。単に鍵だけだろ」

「いやー、こういう時は素直に喜んでくれる人の方が好かれるだろうね」


 花山はこちらを横目で見ながらニヤリとする。


「別に好かれなくて結構」


 話を断ち切るように部室内へと入った。


 部室内にはそれぞれの定位置があり、自分の定位置は教室後方の窓際だ。そこに設置された机の上には鍵が置かれていた。


 これが花山の言っていた鍵かと思いながらキーケースに仕舞う。

 前の方にいる東雲を見ると鍵を大事そうに持ちながらポケットに仕舞っていた。


 ふと東雲の机の上に何かが飾られているのに気付く。


「東雲、机のそれは何だ?」

 声を掛けられた東雲は「これですか」と飾られた何かを指差す。

 その返事に頷くと

「これは写真立てですよ。お気に入りの写真だけここに飾っているんです」

 と笑顔で説明してくれる。


「わざわざそこまで……」

「なんだか写真部っぽいじゃないですか」

「まあ、写真部だからな」

「確かに写真を飾るのはいいね。僕も今度プリントアウトして持ってこようかな」


 花山も写真を飾るのに乗り気だ。今までほとんど写真を取っていない自分としては飾るものは何もない。それが少し気まずかった。


 しばらく雑談をしていると、部室の扉が開き山吹が入ってくる。授業を終えてすぐ来たのかカバンの口が空きっぱなしだ。

「みんなお待たせ」

「お疲れ様です。山吹先輩授業いつもより長かったんですね」

「そうなの。遅れてごめんね」


 花山の言葉に返事をしてから、カバンの中からノートと紙を取り出す。


「みんな花山君から聞いたかと思うけど、六月に一泊二日で写真を取りに行こうかと思ってね。

 花山君から聞いている限り他に予定はないって聞いているけど大丈夫かしら」


「大丈夫です」

「はい」

 肯定の返事だけが発せられた。


「それなら良かったわ。じゃあ、予定通り六月二週目の土日で行きましょう。

 準備はカメラとそれに付随する機器、あと御泊りの準備をしておいてね。場所は高澄(たかすみ)村に行く予定よ」

 高澄村、か。

 高澄村といえば枝垂町から電車で約二時間の場所だ。

 しかも最短時間が二時間というだけで、電車やバスの乗り継ぎ次第では倍程度時間がかかる。


 田舎民が田舎というのは失礼だが、正しく田舎の中の田舎とも呼べる場所だ。

 もちろんそんな場所を写真部の全員が知るはずもない。


「すみません。そこってどこですか。宿泊施設とかありますか」


 予想通り花山が尋ねる。見ず知らずの地名に戸惑っているようだ。


「宿泊する場所に当てがあるからそこに泊めて貰えるようお願いしているの。

 場所は……、そうね。ここよ」


 山吹は話しながら携帯を取り出し、地図で高澄村の場所を映し出す。


「結構田舎ですね。ここに写真を撮れるような場所ってあるんですか」

「ええ、あるわよ。とっておきの所が」


 山吹は満面の笑みを浮かべる。余程自信があるのだろう。


「わかりました。当日楽しみにしておきますね」

「私も楽しみにしています」


 先程まで山吹の話を必死でメモをしていた東雲が顔を上げて返事をする。


 今回の撮影旅行の予定表は先輩が作ってくれているのだからメモはいらないだろうと思うが、東雲はこの旅行を楽しみにしているからこそ出来る限り詳しく知りたいと思っているのだろう。


「じゃあ当日は授業を終えた後部室に集合ね」


 写真部員全員が当日の集合場所と時間を認知した所で今日は解散となった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ