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ゆめまち日記  作者: 三ツ木 紘
16/20

ウタカタメモリート前編上

 キーンコーンカーンコーン。

 試験終了の鐘がなる。


 この高校では、一年生から三年生まで同じ時間帯にテストを行う。そのため、普段授業で用いる鐘の音の設定を変え、テスト用に合わせている。


 ようやく終えた期末試験。

 そして迎える夏休みのカウントダウンに心躍らない人などいない。晴れやかな表情が教室中に舞っていた。


 残る授業も夏休み前というスパイスをかければ全く辛くなくなると考えると不思議なものである。


 自分達も待ち遠しいものがあるという点ではクラスのみんなと同じだ。しかし、それと同時に少なからず不安もある。それがみんなとの違いだろう。


「なんでそんなに暗い顔をしているんだよ。感触が悪かったのかい?」


 涼しい顔をした花山がこちらに向かってくる。


「いや別に。テストは普通だ」

「それは意外だね。今回のテストは結構難しかったはずだけど」


 失敬な奴だな。


「これでも今回は勉強したんだよ」

「時枝がね。じゃあ、何でそんなに暗い顔をしているのかな」

「暗い顔って」


 不快感を顔で表現する。誰だって暗い顔なんて言われればいい気はしないだろう。

 ……まぁ、「暗い」に返す言葉のあてはないのだが。


「土曜日の事を考えると色々と不安な部分もあるだろ」

「その事か」


 納得したという表情を浮かべた後に、

「僕はあまり考えないようにしているよ」

 と花山は言葉を続ける。


「それが出来たら苦労しないんだよ」


 頬杖を付きながらため息交じりに話す。


「ははは。まあ、少しコツがいるからね。それよりも時枝が水掛先生との交渉を成功させるとは思わなかったよ。未だにどうやったのかイメージが湧かないね」


 わからないならそれに越した事はない。


「企業秘密だ」

「固いね」


 花山は朗らかに笑う。その背後に一人の女性がこちらに向かってくるのが見えた。その向かう先はここのようで、傍まで来ると立ち止まる。


「皆さん、何を楽しそうに話されているんですか?」


 先程まで別の女性グループに混ざっていた東雲だがどうしたのだろうか。


「いやね。時枝が土曜日の日の事を考えると緊張するんだって」


 事実だから否定は出来ないが、なんか癪に触るな。


「それは私もわかります。やはり、テスト期間中もずっと気になっていましたし」


 それは気にしすぎなのではないだろうか。

 それよりも気になる事を東雲に尋ねる。


「東雲、あの人達と離れてきて良かったのか」


 先程まで東雲がいたグループを指差す。


「大丈夫です。少しだけ離れるとお伝えしたので。これからみんなで遊びに行くんです」


 語尾に音符が付きそうな勢いだ。余程嬉しいのだろう。


「そうか。それならまあいい」


 特に居辛くなったとかでなければこれ以上話を広げる必要はない。


「ところで東雲さんは何か用事があって僕達を尋ねに来たのかな?」


 それを聞いて、そうでしたと言い、手と手を合わせる。


「あの、土曜日の件の確認ですが、午後一時二十分に部室集合ですよね?」


 東雲の確認に頷く。


 その日は午前の授業を終えた後、部室で水掛先生と共に噂の真相を知る人の話を聞く事になっている。


 山吹には時間と場所だけを伝えており、具体的な話の内容は伝えていない。というよりは、よくよく考えれば勝手に山吹の秘密を調べただけであり、いざ伝えるとなると罪悪感が顔を出す。

 どういった反応をするのかを考えると不安しかない。


「分かりました。また、土曜日の午前の授業が終えた後、声をかけてくださいね」


 笑顔を見せた後、先程のグループに戻っていく。そしてそのまま教室を出る。


 今からみんなで遊びに行くのだろうか。


 その様子をボーっと見ていると、

「僕達二人になっちゃったね」

 同じくその様子を見ていた花山はポツリと呟く。


 そんな様子の花山を見て、席から立ち上がり花山の方にポンと手を置く。


「そんなことないだろ」


 そう言って先程から騒いでいる男子四人を指差す。


「あいつらも他に遊びに行く人を探しているみたいだし一緒に行って来たらどうだ?」

「ははは。確かにね。なら、彼らと遊びに行くことにしようかな」


 そういいながら床に置いていた鞄を持ち上げる。


「時枝は来るかい?」

「別にいい。……いや」

「ん?」

「偶には良いか」


 少し驚いていたが、すぐに元の表情に戻る。


「そう来なくっちゃ」


 花山とともに男子四人の輪に入る。彼らも遊び相手が丁度集まったようで、早速出発するようだ。


 花山にとって自分が遊びに行くにしろ、行かないにしろ、関係ないはずだ。それでも素直に喜んでくれるのを見ると、良い友達を持ったなと感じるのだった。


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