咲耶と家の食糧事情
こちらの世界に来てからというもの、料理をする機会が増えたなと、咲耶は感じていた。
地球から離れる前、ガイアから好きな事をしても良いと言われて、思わず本音をこぼした。その咲耶の願いを汲み取り、自宅の1室が喫茶店のような部屋となっていた。
咲耶の自宅自体は、少し年季が入った洋館だ。亡き父の強い要望で、故郷の様な家を随分探し歩いたらしい。どういう経緯で父親の持ち物になったのかは不明だが、咲耶はこの洋館が気に入っていた。
全室にある窓は、ステンドグラス が使われており、1室ごとに風景や動物、神話にでてくる神や星座をモチーフに作られている。
母親が小物作りが趣味の為、ステンドグラス のペンダントを作ってもらった事がある。
淡い虹色のガラスを切り取って作った、小さなペンダント。いつか手が空いたら、作ってみたいと思う。
そんな願いを隠しながら、短時間で出来るお菓子を作っていた。クルードを呼びに行ったのだから、かなりの量を作らないと、すぐに皿が空っぽになってしまう。
冷凍してあるクッキーの生地を大量に切り、予熱しておいたオーブンに入れ焼いてゆく。
その作業と並行して、ホットケーキを何枚も焼き、皿に重ねてゆく。
「それにしても、男性だからなのか、みんなよく食べるよね。さっきご飯食べたばかりなんだけどなぁ〜」
ーーチィーンーー
オーブンが焼き上げの合図を知らせる。キッチンには甘い香りが溢れてかえり、咲耶は匂いだけでお腹がいっぱいになる。
そこへ、クルードを連れてクロガネが入ってきた。自室に篭り切っていたクルードが、空腹を訴えたようだ。
「咲耶様ーー何か腹にたまる物をもらえんか? 空腹で頭が上手く回らん。」
「まあ、自業自得という所でしょうね。咲耶様、その焼きたてのホットケーキをクルードに頂いても宜しいでしょうか?」
物欲しげに見つめるクルードを見兼ねて、クロガネが咲耶に許可をもとめる。
「うん。熱いから気をつけて。それと、好みで蜂蜜やバターをのせて食べてね。」
冷蔵庫からバターや鉢様が入った容器をわたしながら、後どれくらい焼けばよいか思案する。
「クロガネさー、んん。クロガネ、まだホットケーキ焼いた方がいいかな? かなりの量を焼いたつもりなんだけど。」
ついつい、前の呼び方になる咲耶。今もクロガネの少し悲しそうな表情が見えたので、慌てて言い直す。
「いや、この辺でよろしいかと思います。お疲れ様でした。後片付けは私がいたしますので、咲耶様はお茶の方をお願いしてもよろしいですか?」
「はい。じゃあ、林檎繋がりでアップルティーにしようかな。」
咲耶は食器棚から数人分のカップを用意しながらお湯を沸かす。
お湯が沸騰する短い間、咲耶はずっと気になっていた事を尋ねてみた。
「ねえ、クロガネ。もうそろそろ、家の食材が底をつくんだけど、トリフェーンの人々の様に、街の外に探しに行かないといけないのかな?」
「おや、そんなに減っておりましたか? いや、この数日でかなりの食糧を消費してしまいましたね。」
皿の泡を水で洗い流しながら、クロガネは咲耶を安心咲耶させる。
「ご心配には及びません。カザミが準備をしている筈ですので、お茶の時にでも聞いてみましょう。」
「そうだとありがたいです。この世界には地球というか、日本にあった当たり前の物がないから心配になってしまう。」
その不安を解消する為に、クロガネ達3人がいるのだ。咲耶の手助けをしながら、自信の笑みをみせるクロガネだった。




