咲耶と思い出
ー咲耶。この絵本を見てごらん? 小さくて可愛らしい妖精や小人が描かれているよー
優しい父の膝の上に乗り、絵本を読んで貰う咲耶。そう、幼き頃の咲耶と父親の姿だ。
ーあなたの描かれる物語は、妖精や動物ばかりだけど、可愛らしくて大好きだわー
そんな父親の隣で、優しい笑顔を見せてくれる母親。
これは咲耶の小さい頃の記憶ーーまだ父親と同じ様に、見えない物達を純粋に信じていた頃だ。絵本には、北欧の世界に息づく妖精の生い立ちや、冒険譚が綺麗な挿絵と共に描かれていた。
ーこの世界の全ての物には生命が宿るんだよ。我々には見えないだけで隠れてるのさ。小さくて恥ずかし屋さんばかりなんだ。ー
小さい頃の咲耶は、父親が読み聞かせる絵本が大好きだった。父親は北欧出身の童話作家。学生の頃、日本の神話や昔話に興味を惹かれ留学したら。そこで母親と出会い、結ばれたという。
父が描いた作品には、花の妖精が良く出てきて、困った小人や動物達を助けてあげる物語が多かった。
大きくなった今でも、父親の童話は手にとるし、父親の趣味で集めた歴史書や神話の描かれた本などは、目を通してたりしている。
そんな本を一冊手に取る。その本には、名もなき妖精達が、妖精の女王様に貰った花の苗を大切に育てる物語である。小動物達も生き生きと描かれいて、知らず知らずのうちに夢中になって、クロガネが自分を呼ぶ声で現実に戻った。
「咲耶様。何か面白い事が描かれていましたか?」
咲耶の手にある本を覗き込み、問い掛けるクロガネ。自分の呼びかけに気がつかなかった咲耶が心配であるようだ。
「ううん。少し思い出に浸っていただけだよ。それよりも、この物語に出て来る妖精や小人を、実体化は出来ないのかな?」
咲耶達は今、創作魔法を試してみようと話し合っていた。実際にやってみた方が解るだろうと言う事になり、様々な案が出されていた。だが、地球とトリフェーンでは考えかたや思想が異なり、意見がまとまらないでいた。
そこで小休止となり、咲耶は何かアイデアがないかと、自宅の本を手に取っていたのだ。
咲耶の家には、父親の本好きが昂じて一部屋丸々書庫にしてしまったくらいである。その書庫で本を読み漁っていた。
一冊を読みながら、咲耶は小人や妖精を樹の育成に手伝ってもらえないかと考えていた。
「ねえカザミ、クロガネ。1つ思いついた事があるんだけど聞いてくれる?」
咲耶は手に取っていた父親の絵本を胸に抱きしめ、皆が集まる部屋に戻った。
竜は創作魔法では『生命を創れない』と言っていた。
では、先程カンザールが呼びかけた精霊に妖精や小人という『依代』を与えることはできないだろうか。日本の昔話にでてくる、付喪神の様に……




