咲耶と素朴な疑問
「よ〜し、林檎の苗木も百本作ったぞー!」
「葉の色艶よし、幹も丈夫だな。よく頑張ったなドゥーロ」
優しく頭を撫でられて、顔がにやけるドゥーロ。カンザールの褒め言葉が今1番嬉しいのだろう。
朝から取りかかった作業に時間をかなり取られ、気がつけば昼を少しまわっていた。
「見事に苗木だらけになりましたね。切りの良いところみたいですので、一旦家に戻って昼食にしましょう。先に咲耶様とカザミが戻って、昼食の準備をしてくれているようですから。」
木陰でこれから使う石の準備をしていたクロガネが、カンザール達に声を掛ける。
「待たせてしまったようだな。流石に苗木百本を用意するには、時間と手間が掛かる作業だからな。」
ドゥーロが増やした苗木を、カンザールが1つずつ丁寧に、カザミが用意した稲藁に包む作業に取りかかっていたのだ。
「下準備はこれで完了だが、花の苗木の方はまだ持ち運び出来ない状態なのだろう?」
「えーと……、ごめん師匠。増やしただけで、何にもしてなかった。だから俺が今から行ってくるよ。直ぐに終わらせてくるから、師匠は先に家で待っててよ。」
今にも駆け出しそうなドゥーロに、やんわりとカンザールが止めに入った。
「いや、それならば、一緒に作業をした方がいい。能力の使い方やコツを教えながらやる事にしよう。」
どうだ?と、問われるドゥーロは満面の笑みでうなずき、とても嬉しそうだ。
「では話しがまとまったようですので、皆で戻る事にしましょう。咲耶様がお待ちでしょうからね。頑張ったドゥーロ君にお菓子やパンを用意してくださってるはずでしょうからね。」
そんな会話を交わしながら、作業を終えた3人は咲耶の待つ家へと向かうのだった。
刻は少し巻き戻りーーー
咲耶は今、カザミと共にキッチンで昼の準備に取りかかっていた。
朝ご飯は和食にしたので、昼はパンとスープ、サラダなど軽めの物と、オムライスを準備していた。
パンは発酵に時間がかかるので、最初に取り掛かる。咲耶が生地を用意している間に、カザミは自分の秘密の部屋から、沢山の野菜と卵など必要な食材をひと通り用意し、咲耶の冷蔵庫になおしてゆく。
「ずっと聞こうと思っていたのだけど、食材の調達は言わなくても察しがつくようになった。でもね、異世界にこの家ごと引っ越してきたのに、どうして家電製品は動いてるんだろう? 家には自家発電機はなかった筈だし……」
パンの生地を丸めながら、気になっていた疑問を打ち明ける咲耶。
そんな咲耶に、カザミもスープを作りながらどう説明するべきかと悩む。
ちなみに、カザミが作っているスープは、野菜がたっぷり入ったミネストローネだ。
こういった家の中の家電や道具の事は、ドワーフのクルードの方が得意分野なのだ。だが本人は、自室にこもったまま出てくる気配がない。何に熱中しているか分からないが、早く戻ってくれれば良いものをーと、心中で悪態を吐きつつ、鍋をお玉でかき混ぜながら自分が知っている範囲内で説明し始めた。
「ウチも専門外やから詳しいわけやないけど、ガイア様がこの部屋を色々扱った際に、そこん所も触ったようなんや。まあ、電気や科学がない世界に向かわせるわけやし、考え無しやないんや。咲耶はんが不自由せんごとクルードと何やら触った筈……やな?」
少し自信なさげに話すカザミが珍しい。ふわふわの尻尾さえも、元気がないように見える。まあ専門外ならば仕方がないと、クルードが戻ってきてから色々問う事にした。
(だけど、部屋以外まで改装されてるとは。まあ、気が付かなかった私もどうかと思うけれどね。けれど、本当にどんな作りになってるのだろう?)
家の中は、地球で暮らしていた頃と全く変わらずじまいであった。
電気・ガス・水道……。疑問だらけである。
早く自室からクルードが出てくる事を願うばかりの咲耶だった。




