咲耶と本とお世話役
登場人物紹介
カザミ 地球の狐族(妖狐)
幻術、妖術が得意。咲耶のサポートメンバーの1人
物資の調達、保管、管理を一手に引き受けている。
元は稲荷神の元にいた為、口調がうつって語尾が少しおかしい。
咲耶の事を溺愛し、咲耶の手作りお菓子が今1番の好物だ。
「それではカザミ、林檎の苗木をお願いします。この林檎には石の力を使わないで良いんでしたよね?」
「はい。咲耶様の庭であれば、石の補助なくとも立派な大樹になると思います。」
咲耶はカザミから苗木を受け取ると、石碑からだいぶん離れた、陽当たりの良さげな場所に苗木を植える事にした。
最初は手で土を掘り返そうとしたが、綺麗な咲耶の手を傷つけてはなりません。と、カンザールが風の魔法の応用で、空気の球体を作り固い土の部分を風で撹拌させる。竜巻の力の弱い状態だ。
その空気をたくさん含んだ土に、林檎の苗木を植えようとした咲耶に、少しその場から離れていたクロガネが、ドゥーロと共に戻ってきた。2人の手には、大きな籠が持たれていた。
「さすがクロガネやね〜。腐葉土をとってきてくれたんやな。」
「まあ、そのままの状態で埋め直すよりも、土作りに必要な腐葉土を混ぜた方が、樹の成長を助けてくれるでしょうしね」
カンザールが下準備した土に、クロガネが腐葉土を混ぜてゆく。
「ドゥーロ君。苗木をちょっと支えてくれるかな?」
「こんな感じでいいのか?」
樹の幹を掴み倒れないように掴むドゥーロ。苗木の根元に土をかぶせて、ドゥーロに手を離すように告げる。
「林檎の樹よ、どうか大きく立派に成長して下さい。そして、成長したあなたから、兄弟達を作る為に枝を分けてください。」
咲耶は体内の魔力を苗木に注ぎ込む。一気にではなく、ゆっくりと暴走してしまわないように樹の成長に合わせて魔力の質を変える。
(私の魔力よ、どうか林檎の樹に力を。いろんな病気に負けず、立派な大樹に成長してくれますように! 私の仲間たちや庭に住む数多の生き物達の憩いの場所になってくれますようにーー)
咲耶の手が淡く柔らかな光を放つ。
ゴゴゴッ……ゴゴゴッ……
大きな音を立てながら、樹が成長し始める。樹の幹は大人3人分位の太さになり、樹の高さはゆうに10メートルくらいになっただろうか。あまりの大きさになった樹に、力を送り過ぎたのではないかと、咲耶は不安に駆られた。だが、その不安を拭い去ったのはドゥーロとカンザールの師弟組だ。
「何回みても、咲耶の能力は不思議だよなぁ〜。樹の妖精である俺でも、こんな芸当は無理だ。」
「それに、樹の嫌がってる風な声は聞こえぬな。逆に喜び生き生きとした感情が伝わってくる。」
2人の言葉を聞き、大樹に成長した林檎の樹が嫌がっていない事を知れて、ホッと気を抜く咲耶。
「これだけ立派な樹に育ってくれはったら、甘い果実も期待できますわ〜」
「いや、まだ安心は出来ませんよ。この本によりますと、林檎の樹が甘い果実をつけるには、受粉が必要と書かれています。」
ページをめくりながら、樹の成長に必要な情報を探すクロガネに、呆れた声をかけるカザミ。
「クロガネはん。その本はどこから持ってきたん? さっきまで何も持ってなかったやろ?」
鋭い指摘に、クロガネが樹に止まる眷族のカラスを自分の元に呼ぶ。
「本は咲耶様の自宅に沢山ありましたので、少し拝借いたしました。そんな事より、受粉はどうしますかね。別の種類の林檎の樹を植えて自然受粉を期待したい所ですが、確実な方法は人工受粉ですかーー」
この先の事を考えるクロガネに、カンザールが1つの提供を持ちかける。
「トリフェーンには精霊や妖精と呼べる者達が多く存在しております。その精霊達に樹の世話を任せていただけませんかな? 樹や花の世話ならば得意な者ばかりです。如何ですかな?」
カンザールがいっているのは、地球の物語に出てくるシルフやイフリートを指す。だが、成長の手助けならば、名もなき小さな精霊達でも事足りると思ったが、この場はカンザールのに頼る事にした。
「では、カンザールさん。精霊にお願いしてくれますか?」
「承知いたしました。それと、私の事はカンザールと呼び捨てでお願い致します。」
「でもーー」
咲耶が反論しようとすると、横から同意する声が聞こえた。
「カンザールはんだけ呼び捨てなんて、やめてほしいわ。呼び捨てするなら、全員にしてくれるとほんに嬉しい〜わ。なあ、クロガネはん。」
カザミの言葉を肯定するクロガネに、とうとう折れるしかない咲耶であった。




