咲耶とカンザールの過去編4
火竜族の長、フォティア
水竜族の長、ヒュドール
地竜族の長、カーリアン
いずれもこの場所に居るはずのない者達が、カンザールに語りかける。
「これより、我ら長の力を結集して、あの敵を退ける」
「そしてこの先、この地と我ら長が守りし大地は、約束の刻を迎えるまで何人なりとも、踏み込む事は出来ない。」
突然の竜の長の登場に、避難勧告。マスターの元に向かうつもりだったカンザールは、出鼻を挫かれる。
いや、そんな事を気にしている場合ではなかった。自分の里をここまで完膚なきまで破壊した犯人の正体を知る権利は、カンザールに与えられた当然のものだ。
扉の先に姿を消した火竜、水竜を追いかけるように姿を消し始めた地竜のカーリアンを、咄嗟に呼び止め質問を投げかける。
「地竜様。一体この先で何が起こっているのですか? 我がマスターはご無事でいらっしゃるのですか?」
一介の騎士が竜の長が決めた事に反論するなど許されない行為だとは分かっていた。
たが、何も知らずにこの地を去るなど、いや、主人を守れないなどカンザールの矜恃が許さなかった。
カーリアンは他の長達を先に向かわせると、カンザールの瞳をじっと捉えて見つめる。
「お前は……ほう、そう言う事か。」
「ん?」
自問自答するカーリアンに、真っ直ぐ見つめ返すカンザール。そんな若きエルフが気に入ったカーリアンは、カンザールに1つ助言を与える気になった。
「風の騎士よ。これからお前を待ち受ける運命は、屈辱に苛まれる長き年月となるだろう。だが、我らの眠りし刻を破るのは、お前がいつか出会う高貴なる女性。そして、我ら長が支えし方の運命をも左右する者。」
「地竜様。それは未来予知?」
竜族の長には各々秘めし能力があると言われている。火竜は活力と破壊。水竜は癒しや潤いを。風竜は時空間を操る力を。そして地竜は生命の大地の記憶を読み解く英知を。
カーリアンは、大地の声を聞き取りながら、話せる情報を精査してゆく。
「この先にいる敵は、星の消滅が招く断末魔。今まで全ての生き物が蒔いた各々の罪。」
地竜は深い溜息を溢し、大地が今現在も悲鳴を上げる様を感じ取り嘆き悲しむ。
「では、魔族や人、あらゆる者達の犯した罪が、大地を傷つけ滅ぼすといわれるのか?」
冷静さを欠くカンザールに、カーリアンは静かに言い聞かす。
「いや、それだけではない。大地の化身たる創造主が目醒めぬ理由も罪だけとは言えぬ。」
カンザールの前に魔法で映像を作り出しながら、説明し始める。
「人で例えるならば、創造主は男。そして世界樹は女を意味する。
他の世界は知らないが、この世界の理は世界樹と創造主がいて成るもの。だが、世界樹が枯れ落ちる寸前のこの時、余命を伸ばす我らに牙を剥くのは、魔族や人の破壊衝動が招いた死神としか言いようがなかろう。」
ーーーいつまで無駄話をしているつもりだ?
カーリアン達の指示に従い、この地より去れ、カンザール。我が騎士よーーー
扉の前で禅問答を繰り広げていたカンザールに、頭の中に直接響く声。それは紛れもなく
、自分の忠誠を捧げた相手、風竜ティエラのものであった。




