咲耶と忘れられた人物
「自己紹介は終わったみたいですね? じゃあ、話は食事でもしながらでも大丈夫そうですか?」
部屋の奥から顔を出した咲耶が、クロガネに問い掛ける。
「はい。若干1名が立ち直っていませんが、咲耶様の食事を食べれば元に戻る筈。」
「いや、その前に酒をよこさんか。これっぽっちじゃ全然足りんわい!」
少し赤みがさした顔のクルードは、隣に座るカザミの腕を強く揺さぶる。
「ホンにドワーフときたら、酒好きで困りますわぁ〜。程々という言葉をしりまへんのか?」
呆れつつも自分の荷物の中に手を入れ、酒瓶を取り出してやるカザミ。
「これじゃー! 咲耶様の故郷で造られとる、コイツが美味いんじゃ!」
瞳を爛々と輝かせ、1人で呑み始めるクルードに、クロガネが横から瓶を取り上げる。
「クルード。酒盛りは話し合いが終わってからにしてはどうですか? それとカザミ、クルードにお酒を与えてはいけません。酒で身を滅ぼす典型的な良い例です。それに、咲耶様の料理を味わいたいのなら、この場では嗜む程度にしておきなさい。」
「そうか……、そうじゃな。咲耶様の料理を楽しめんのは嫌じゃった」
クルードも納得して、大人しく料理が出されるのを待つ。
「さて、いつまで呆けているのです? 咲耶様の料理を食べ損ねますよ?」
クロガネの言葉を肯定するかのように、鼻をくすぐる美味しそうな匂いが漂ってきた。
「クロガネさんか、カザミさん。1人じゃ持っていけそうにないから、手伝ってくれませんか〜?」
「はいな〜、咲耶はん。手伝いはウチが行ってきますから、この場は任せますわ〜」
クロガネが止める間も無く、そそくさと咲耶の元に消えるカザミ。そう、混沌とし始めたテーブルから逃げたのだ。
面倒ごとをなすりつけられたクロガネは、深いため息つき、手元にある酒を景気付けに煽る。一つ気合いを入れ、まずは客人のカンザールの相手を務める。
「カンザール殿、いつまで放心しているのですか? 早く戻ってこなければ咲耶様の料理を食べ損ねますよ?」
「あ、ああっ。色々と驚かされて、言葉を失っておりました。そのー何というか……」
「我々の素性が知りたいのでしょう? とりあえず、食事をしながらにいたしましょう。ほら、咲耶様のお手製料理がきたみたいですしね」
美味しそうな香りがクロガネ達のいる部屋に流れ込む。嗅いだことのない匂いに、食欲をそそわれる。
「お待たせしました。あり物で作ったので、あまり期待しないでくださいね。」
咲耶とカザミが大皿を持ってくる。湯気がたつ色とりどりの食べ物に、カンザールは唾をのみこんだ。
「慌てんでも沢山つくってはるから、ゆっくり味わいーな。」
自分で作ったわけではない筈のカザミも、自慢げに胸を張る。
そんな様子を酒の摘みに呑むクルード。だが、何か忘れているような気がしてる。
「なんじゃったかな。ふーむ……」
腕組みながら悩むクルードに、咲耶が食事を皿にもりながら問う。
「どうかしましたか? 早く食べないと冷めてしまいますよ。」
「いや、何か忘れておる気がするのじゃが、なんだったかーー」
クルードの呟きに、咲耶も首を傾げる。
ーーーあ⁈ーーー
咲耶とクルードが顔を見合わせて思い出した時、勢いよく扉が開く。
「オレを退けもにするとか……あんまりだ!」
肩を怒らせ、仁王立ちするドゥーロがそこにいたーー




