咲耶と酒好き達
自分の目の前に広がる光景。言葉を失ったカンザールに、咲耶が言葉を掛ける。
「ようこそ、私の自宅へ!」
青々と茂る草木。若々しい樹木たちに目を奪われる。先人達から聞いたエルフの失われた風景のようだ。
「これはどういう事でしょう? 我々は確かに酒場の私の部屋を開けた筈ーだが、これは転移魔法?」
「まあ原理的にはそう思えば良かろう。突っ立っとらんでこっちへこんか?」
クルードの声に現実に引き戻されたカンザールは、咲耶達の後を追う。
咲耶はとりあえず、自宅へ招き入れる事にした。
「空いている椅子に座って下さい。ちょっと食事を用意してきますので。その間に、クロガネ達から話を聞いて下さい。たくさん聞きたい事があるでしょうから。」
咲耶は後の事をクロガネに任せて、キッチンに姿を消す。
「お任せ下さい。さて、カンザール殿。驚かせて申し訳ありませんでした。」
クロガネが謝罪を述べる。
「いいえ。突然の転移には驚かされましたが、それよりもここは何処なのですかな? 咲耶様は『自分の家』と、言われておられましたが?」
「その言葉通りですよ。ここは、咲耶様の自宅であり、我々の拠点でもあります。まあ、まだ全てを話せる訳ではありませんので、その点はご容赦ください。」
「そんな事より、本題に移ったほうが良くないか! 」
ホワイトが人数分のグラスを棚から取り出し、茶色い液体を注ぐ。
「ほら、カンザール。」
グラスを手渡されたカンザールは、素直に感謝した。
「中身はさっき呑んだやつと同じだ。ああっ、氷がいる奴は勝手に取ってやってくれ」
テーブルに氷の入った器が置かれ、クロガネは自分のグラスに数個いれると、馴染ませるようにグラスを揺らす。
「ほう。その様な味わい方もあるのですか? ならば私も。」
前回はそのままの状態を味わっていたが、氷と混じり合った酒は、また別の味わいをみせた。
「くっ。この、喉を通る時の感覚、身体の内側が熱くなる感覚ーー、堪りませんなぁ」
恍惚とした表情を見せるカンザール。そんなカンザールの姿を肴に、クルードがストレートでグラスの中身を一気に煽る。
「では、どこから聞きたいですか?」
「もちろん、この酒の出所……、ではなく、貴方の素性をお聞きしたい。」
クロガネの言葉にカンザールは答える。だが、酒の事も知りたいのは本当のようだ。
「まあ、この世界では味わえない物ですから当然だと思う。アンタが、オレ達の仲間になるのなら、何時でも味わえるぜ?」
「ならば、ワシにもっとよこさんか!」
グラス一杯では全然足りないクルードが、ホワイトに食って掛かる。
「アンタなぁ……、話の腰を折るなよなぁ」
そう言いつつも、瓶ごと手渡すホワイト。
「ゴホン。改めて、ご挨拶をいたしましょう。エルフのお客様。」
クロガネが立ち上がると、ホワイトたちも同じく小競り合いをやめクロガネに従う。
「私はクロガネ。烏族の者といってもわからないでしょうから、さしずめ、空の眷族といったところです。」
「ワシは、見た目通りドワーフじゃが、お主の知識で知る者達とは異質な者じゃな」
「そして最後にオレ、ホワイトだ。お前たちでは獣人というのかもしれないがーー」
ホワイトは指を鳴らすと、本来の姿をみせる。
「こっちが本当の姿なんや。お見知りおきをカンザールはん」
白い立派な尻尾を揺らす姿の獣人に、カンザールは驚く。
「は〜。私は騙されていたのか……」
深いため息をこぼすカンザールに、ホワイトもとい、カザミがニッコリと笑う。
最初からこれだと、これから何を聞かされるのか不安になるカンザールであった。




