咲耶の厄日は終わらない
「突然押しかけてきてごめんねぇ〜」
ちょっと間延びした口調の不審人物は、自分の顔を隠すフードを取り払う。
肩まである焦げ茶色の髪は緩く三つ編みし、眼差しは糸目なのか閉じたようにみえる。
中性的な感じの人物だ。
「本当は今回の件は干渉しないって思ったんだけどね。この子、ドゥーロっていうんだけど、思考が固くて融通が効かないのよ。
ほーんと、頑固者さん!
ほらほら、私が貸してあげた身体をいい加減に返却して頂戴」
珍入者はパチンと指を鳴らす。次の瞬間青年の姿が霞み、一羽の烏と少年へと姿をかえる。
「ん? まさか、この男の子は…」
「うん。さっきまで咲耶を困らせていた青年の本体。この子も言ってたでしょう、『この身体は借り物』だから、傷つけられたら困るって。
やっぱり、他の神々の判断を押しきって私がくれば話しは簡単だったのよ!」
「ごめんなさいねぇ〜 」
と、これまたゆっくりとした口調だ。突如現れた少年、ドゥーロと呼ばれた子はぷいっと不貞腐れ、その場にどかっと座る。その頭を、少年もといドゥーロの髪をくちばしで引っ張る。余程、ドゥーロの依代にさせられたのが気に食わなかったのだろうと、咲耶は思った。
極度の頭痛とたたかいながら、一応失礼にならない程度の口調で正体をきいてみた。
「それで、貴方は何処のどちら様でしょうか?」
「うん。その前に、咲耶の入れたお茶が飲みたいな。ドゥーロに振り回されてクタクタみたいだし、話はお茶を頂きながらしましょう。ドゥーロも異論はないわよね〜」
さっきまで青年の姿だったドゥーロと呼ばれた少年とカラスは、睨み合いを続けている。
咲耶は全員の返事をまたずに、自宅のドアを開けキッチンから人数分の飲み物を準備する。気持ちを落ち着かせたかったのでカモミールのお茶をお盆に乗せ、自作のクッキーも用意する。
「はー。いい匂い」
カモミールの鎮静効果で、咲耶のイライラした気持ちが少しだけ落ち着き、冷静に分析する。
問題に関わりあいたくないのが大半だか、ここまで首を突っ込んでしまうと、最後まで聞かないのは気分的に気持ち悪い。
「仕方ないよね。厄日だと思って諦めよう。
諦めが肝心… 」
自分に暗示をかけるように呟き、気合いを入れ直したのだった。




